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【初夢シリーズ】影の樹の丘

作者: 茶ヤマ
掲載日:2026/02/13

こんな夢をみた。


----


一面の黄金色にみえる草原の南東に小さな丘があり、黒く太い幹を持つ樹が生えている。

その樹はどんなに天気が良くても、真っ黒な影のようにしか見えない。



かつて、この丘には妖精や小鬼が溢れていたという。

人の家から木の実を盗み、代わりに石を置いていくような、無邪気で残酷な隣人たち。

幻獣と人とが共存できていた時があったという。


だが、彼らの肝が万病を治す薬になると知った人間が、乱獲の限りを尽くした。

今ではもう、彼らの姿を見ることは叶わない。


「もし見つけたら、生け捕りにして金にしてやる」

そう息巻く村の猟師を嘲笑うように、丘の上にはただ、黒い影のような樹が佇んでいるだけだった。



しかし最近、明らかに人のものではない…それよりもはるかに小さなものの影、小さな小さな焚き火の跡、よくわからない小枝で作った飾り物などを見たという噂があがり、そういった存在の事が思い出された。



そんなものが見ることが出来たらよい、と思ったわけでもないが…。

少年は、その丘の一歩手前のところで立ち止まっていた。


丘には、西になびいたような枝振りの樹が一つ生えているだけ。

それは古い言い伝えのせいか、なんとも不思議な印象の場所であることは間違いない。



「一人で近寄ったら化かされるよ」


ふいに、背後で声がした。

驚いて振り向くと、いつの間に近寄っていたのか、旅芸人の道化師が立っている。


まるで、気配がしなかった…否、今でも気配らしい気配がない。


「驚かしたかい。それは申し訳ないね。

 けれどもね、ここには一人で来ちゃいけない」


《《妖精に、化かされる》》。


そう告げた道化師は、化粧のせいで笑っているように見えるはずであるのに、まったく笑っている顔に見えなかった。


「…ただの古い言い伝えだろう」


少年の構えたような返事に、道化師は、おや、とわずかに口元をゆがめた。


「信じていない…と?」


少年は返答に困った。

妖精などを自分の目で見たわけでない、しかし、いないと証明できるわけでもない。


「…わからないから、来てみた…」


そう答えると、道化師は、

そうかい…と、うなずいた。


「そうやって確かめるのは良いかもしれない…

 けれど、一人は危ないよ。

 《《大部分のもの》》は、いまだに怒っているからね」


その時だった。

聞いたこともないような澄んだ音がした。

鈴の音でもない。

鐘の音でもない。

氷かガラスの鈴を鳴らしたかのような音…。


少年は、音のした方…丘の上の樹を仰ぎ見た。


ザワリ


と風が通っていく。

何かが通ったかのように、丘の草が大きくなびき倒れていた。


ゾクリ。


背筋に何かが這い上がったような感覚を覚え、少年は、急いで道化師を振り返る。

しかし…。

そのわずかな間に、道化師は消えていた。

最初から、そこに、少年一人しかいなかったかのように。


そういえば…

今時期、旅芸人はこの地方に来ていない。

ましてや。

あんな道化師など……。


少年は、影のように黒くしか見えない樹へ、もう一度目をやり、そして、じりじりと後ずさりをして、やがて走り出していた。



それから、間もなく、あの妖精を見たらば生け捕ってやる、と豪語していた猟師が行方不明になったと聞く。


少年は丘の手前で、黒い影のごとき樹を見上げるだけだった。


----


夢はここで終わった。

夢の続きを見る術を持たない私は、道化の正体、漁師の本当の行方を知る由もない。

ただ、あの丘や樹は実際どこかで見たような気がしてならない。



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