第10話 ミロとジュリアは……
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切られた傷口はたいしたことはなかったが、体がしびれてきた。どうも刀身に毒が塗られていたらしい。
何とか城内に入ったが、部下を何人か失ってしまった。
その時、一人の部下が走り寄ってきて、「敵襲です!敵が地下通路から攻め込んできました。今応戦中ですが、敵の数が圧倒的に多く、また突然の奇襲だったので、こちらは次々と倒されています」
この戦いは終わった。我々は負けた。しかし、かなりの足止めと敵に被害を与えることができた。
あとは正規のロリコ軍が来て敵を叩き潰してくれるだろう。
「そうかわかった。何人か地下の弾薬庫に行って、弾薬庫を爆破してくれ。あとは敵と交戦する」と言って、僕は敵に向かって歩みを進めた。
体には毒が回っている。敵は多数だ。奇襲を受けている。
絶望的な状況の中で思い浮かんでいるのは、ジュリアとフィリアの顔だ。
「もう一度会いたかったな」ぽつりと口からこぼれた。
ここでも僕の死は何か意味があるのだろうか?
ロリコのため?
中伯としての貴族としての責務?
いや、僕はジュリアとフィリアのために死ぬ。愛する女のために死ぬ。僕の生はそのために在ったのだ。
敵は地下から飛び出してくる。銃で撃ち殺すが次々と出てきて、剣で切られていく。
銃は接近されると弱い。みな銃を捨て山刀や八角棒で敵と戦った。
しかし、多勢に無勢、次々とやられていった。僕も敵と戦った。何人かは切ったが、毒が回っているせいだろう、だんだん動きが鈍くなり、ついには何本かの剣が僕の体を貫いた。
ああ、死ぬんだなあと思いながら、僕は体に巻き付けている爆弾の起爆装置を発動した。
僕の頭には、二人との幸せな結婚生活がリフレインしていた。
ジュリアとフィリアがほほ笑んでいる。僕は最後に幸せだった。君らに会えてよかった。
「ジ・ュ・リ・ア……」僕の首は跳ね飛ばされ、一瞬だが視界が飛び、空の上から見ることができた。
ジュリアたちが避難した場所は平穏だった。ジュリアたちは大丈夫だなという安堵の気持ちがわいて、僕は意識を失った。
「ロミ……」ジュリアはロミたちが戦っている城塞を見ていた。
城塞のあちこちから火の手が上がり、爆発音がここまで聞こえてきた。
ロリコ兵は死に際に体につけている爆弾を爆発させる風習があり、爆発音はすなわち戦死したロリコ兵の響きだった。
そのうち、大きな轟音がすると、城塞が崩れ去った。
ジュリアや避難していた者たちはみな泣きくずれた。
おそらく全員が戦死したのだろう、城塞は見るも無残な形となっていた。
しばらくして、ジュリアは立ち上がった。
「ロミの首を取り返しに行きます。きっと大将首としてさらされているに違いありません」そう言って、そこに避難している皆に「ここに隠れていれば大丈夫です。敵に見つかる可能性が高いので、ここを移動してインパールに向かうのは危険です。きっと助けがきます。私はこれから敵陣地に突入します。みんなの安全を確保するという約束が守れなくてごめんなさい」と頭を下げた。
フランクでは、敵の大将の首を掻きとり、それを勝利のあかしとしてさらす習慣があった。
何人かの年寄りで、戦うことが難しい女性たちが立ち上がった。
「姫様、戦いのお役には立てませんが、敵を引き付けることはできます。ババたちが敵を引き付けている間に、ロミ様の首を取り戻してください」と代表の一人が言った。
「そんな、あなたたちはここにとどまって救援を待ってください」とジュリアが慌てて言うと、「姫様、これはロリコ女の意地なのです。この戦で息子や娘たち、娘たちの婿を失いました。孫たちも多く亡くなりました。ここで一矢報いなければ、あの世で、ヤスクニでどう顔を合わせればいいかわかりません。ババたちはお前たちの仇を取ってきたよと言わせてください」
ジュリアは何も言えず、「わかりました。それではともにヤスクニにまいりましょう」そう言って、敵の陣地に向かった。
敵のいる場所にたどり着くと、すでに夜になっていた。ジュリアたちは敵陣にこっそりと近づき、警戒に当たっている兵士を切った。
そのまま敵陣に侵入、ジュリアは本営のある場所を探して単独行動をしていた。
時折爆発音が聞こえる。ジュリアはバルハードを振るい、敵を殺していった。
そのうち立派に鎧を着ている兵たちに出会った。剣技もかなりのもので、ジュリアはかなり苦戦した。
全員を倒したが、不覚を取り右目と右腕を切られてしまった。
血が大量に出ている。右目は見えず、右腕は切り飛ばされていたため、止血のため強くひもで縛っていた。それでも大量出血のため、ふらふらしながらも歩みを進めていった。
すると、立派なテントのある場所に出た。どうも敵の本営らしいと思っていると、かがり火に照らされている首台があり、そこには首が一つさらされていた。
近寄ると、「お前は誰だ!」と誰何する声が聞こえる。
ちらりと見るとかなり立派な軍服を着た男が立っていた。
ここの大将だろう、そう思ったジュリアはニヤリと笑い、首のあるほうに向かった。
ああ、やはりロミの首だ。そこには愛した男がほほ笑んだ顔でさらされていた。
ジュリアは左腕に持っていたハルバードを捨てて、その首を取り抱いた。
そして体に巻き付けてある爆弾の起爆装置を作動した。
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