35話 あり得る全滅
ー船の上ー
マール「ヴァルドさんが飛び込みました…」
ゲマナ「一応…水中用装備着てたけど…
危なすぎる…」
一方、甲板では。
セリーヌ「グリンス!ヴァルドが!」
グリンス「分かっている!」
グリンスは慎重に水中の影を追うように銃を狙い続けていた。
ー水中ー
シースネーク「シャァァァァァ!!」
水中でも分かるような鳴き声を発声しながら
ヴァルドが守るタークの方へ噛みつこうとしてくる。
ヴァルド「おりゃぁ!!」コポコポ…
ヴァルドは大剣をタイミング良く振り上げる。
通常なら重いような大剣、水中では振れても対象にダメージを与えることは出来ない!
しかし大剣の峰の方についたマフラーのような
部分からジェットが吹き出る!
水中での振り上げを補助するかのようにジェットは強く吹き出続ける。
ズシャァ!
海水に赤い血が混じる。
シースネークの口元を切り上げたのだ。
ヴァルド「しゃぁ!」コポコポ…
ターク「っ…(すげぇ剣だな…って…感心してる場合じゃねぇ…)」
タークはヴァルドから水中で抱き締めている
ルニャAに視線を向ける。
ルニャA「…」
ターク「…おい?おい!」コポコポ…
ルニャA「…」
ルニャAの意識は既に途切れていた。
ターク「っ…(急げ!急げ…)」
タークは全力で腕を振り海面に近付こうとする。
しかし軽い猫型動物とはいえ、それを抱え上げ
海面に上がるのは難しい事であった。
ターク「…(死んじまう!)」
タークは自分の酸素状況など忘れるほどに手を振る。
少しずつ海面に近付いていた。
ヴァルド「どりゃぁぁ!」コポコポ…
ズシャァ!
シースネークにはどんどんと切り傷が増えていく。
しかし傷が増えてるだけでダメージは大して
当たっていなかった。
ヴァルド「…(チッ…くそ…分かってはいたが…
時間稼ぎにしかならねぇっ…)」
ー船の上ー
グリンスは慎重に水中で動く早い影を狙っていた、水中に特化した銃の玉は水中をより早く撃ち抜けるように重く設計されているため船には大量に乗せておくことは出来ず数に限りがあるのだ。
グリンス「…(今だ…)」
パン!
乾いた音が鳴り鋭く尖った玉が水中に突き刺さるように入っていく。
ー水中ー
ズサァッ!
ヴァルドの目の前にいたシースネークには確かに何かが貫通した。
シースネークは少し動きが遅くなる。
そして遅れて貫通された部分から海水に混ざるように血が出てくる。
ヴァルド「っ…(さっすが…レベルがちげぇな…)
…(致命傷だ。)」
ー船の上ー
グリンス「…(間違いなく二つある心臓の内の一つを撃ち抜いた…加勢するなら今…)」
グリンスも水中戦向けの装備を着ては海に飛び込む。
ゲマナ「グリンスも行った…!」
ゲマナは船の上の柱、柵…様々な物に掴まりながらグリンスの取り付けたふなべりの銃に掴まり構える。
ゲマナ「…私が作った銃なんだから…きっと…
上手くいく…はず…」
その時、誰かが背後に来る。
ゲマナの背後からゲマナの設置された銃のグリップを握る手に重ねるように。
セリーヌ「…外す訳にいかないから…」
セリーヌは目を逸らしながらそう言ったのだった。
そうしてゲマナとセリーヌは一緒に構えるようにして海面を狙う。
マール「…っ…私も…」
マールは海面から見える水中でもがいてるタークを見てゲマナと同じく柵や柱などに掴まりながら緊急引き上げロープを落としていく。
ー水中ー
ザブーン!水中に勢い良く入ったグリンス、目の前のシースネークは既に怒っている状態であった。
グリンス「…」
グリンスは加勢しに来たと言わんばかりの顔で
ヴァルドを見る。
ヴァルド「…へっ…」
ヴァルドは水中で少し笑い再び剣を構える。
グリンスも水中用の剣に取り付けるジェット
マフラーを自身の双剣に取り付け二人で構える。
その時、タークは水中に降りてきたロープに手を伸ばしようやく掴む。
ターク「…(もう少しだからなっ…)」
ルニャAを見てタークはロープを次から次に登っていく。
その時だった。
グリンスとヴァルドの目の前のシースネークは
何やら尻尾を鞭のように弾き水中で渦を飛ばす。
グリンスとヴァルドはそれを華麗に泳ぎ避けて
斬りつけていく。
狙うはもう一つの心臓、シースネークは警戒している、二人で引き付けて船の上からシースネークのもう一つの心臓を狙っているゲマナとセリーヌ
の射撃を確実にする必要があった。
さらにその時、状況が悪化する…。
ヴァルドとグリンスは避けた渦が
四方八方に舞いながらタークの元へ来る。
渦はタークを巻き込むようにする。
ターク「っ…!!(これは!)」コポコポ!
タークは渦に巻き込まれながらやがて落ち着くが
ロープ同士が絡まり身動きが取りづらくなっていた。
ターク「…っ…ぐっ!(しまった!)」コポコポ…!
ー船の上ー
ゲマナ「まずい…タークがロープに絡まってる…」
銃をロープに向けるようにするゲマナ。
しかし…
セリーヌ「待って…玉はあと二発よ!?外したらどうするの!」
ゲマナ「はっ?でもっ…二人が」
セリーヌ「っ…」
セリーヌはシースネークと戦ってる二人と水中で
もがいてるタークを交互に見て考える。
もしシースネークに撃つ玉を失ったら討伐という選択肢はなくなるのだ、水中で傷をつけるだけではシースネークは決して死なない。
それほど玉は重要だった。
しかしセリーヌの目にはもがいてるタークと気を失ってるルニャAが見える。
ゲマナ「セリーヌ!」
セリーヌ「っ…わ…分かったわよ!外したら
あなたのせいよ!」
ゲマナ「分かってる…」
ゲマナとセリーヌはタークを絡めているロープの元を狙う。
ゲマナ「慎重に…」
セリーヌ「…今よ!」
パン!乾いた音が再び鳴る。
ビキィッ!ロープがちぎれるように切れる。
水中のタークは一気に解放されたように動けるようになる。
ターク「っ…!(急げ!)」
タークは再びロープを掴み上がっていく。
一方船の上ではこれまでにないプレッシャーに
襲われていた。
あと一つの玉を外せばなす術はなくなるのだ。
ゲマナの額には汗が滴っていた。
ゲマナ「…(集中…私…集中!)」
セリーヌ「っ…(こんなの最悪…人生初よ…)」
セリーヌは何よりもヴァルドを失う可能性が頭をよぎっていた。
セリーヌ「…(バカ…可能性…可能性よ…)」
セリーヌは取り乱した考えを正しゲマナと銃を
握る手を強める。
ターク「ぷはっ!」
その頃、ようやくロープから上がりタークが
ルニャAを持ち上げ船に上がり込む。
ターク「はぁ…はぁ…おい!起きろ!」
そこにマールは駆けつける。
マール「今呼吸を再開させれば間に合います…!人工呼吸と胸骨圧迫を!」
ターク「ようは心臓マッサージだな…
心臓は…ここかっ?」
グッ!グッ!力を込めて押しては小さな猫の口に人工呼吸していく。
ー水中ー
ズシャ!ズシャリ!
シースネークの身体に傷が増えていく。
グリンス「っ…(そろそろマフラーの燃料が切れる…)」
ヴァルド「…(おいおい…セリーヌ…撃つ気あるだろうな…)」
船の上では焦りと冷静さが混じり合っている…
二人は狙いを続ける。
ゲマナ「…」
セリーヌ「…」
銃の先、銃口がシースネークの心臓部位に重なる一歩手前。
ゲマナ「!」
セリーヌ「!」
セリーヌとゲマナは同じ瞬間に今だ!と力を込める、そしてゲマナは引き金を引く。
パン!
水中に貫通する。
スパーン!
ヴァルドとグリンスに襲いかかろうとした
シースネークが突如あらぬ方向に回転ししばらくしてプカプカと脱力し海面に浮き始める。
ゲマナ「や…やった…」
セリーヌ「はぁ…」
ゲマナとセリーヌはただ安堵の息をついて揺れなくなった船の上で座り込む。
その時だった!
ビュッ!
ターク「っ…」
タークの顔面に水がかかり目の前に見えたのは
咳をするルニャA。
マール「っ…回復、しましたよ…タークさん」
ルニャA「ニャ…ニャ…」
ルニャAは咳と呼吸を繰り返して行っている。
ターク「はぁ…ふぅ…あー…助かった…」
タークは安堵しながら船上で大の字に横たわる。
一方、グリンスとヴァルドは顔を合わせ水中で
うなずきあい船から垂れ下がったロープを掴み
船の上に戻っていくのであった。
…
ターク「すまなかった!!」
夕日が反射する海、タークの謝罪が響き渡る。
ヴァルド「おいおい…なんでてめぇが謝るんだ?」
タークは顔を逸らし頬を掻きながら言う。
ターク「いや…その…俺が落ちさえしなければ…船の上から対処できたりして…リスクもなかったかも…しれないし…」
ゲマナが後ろから歩いてきて言う。
ゲマナ「なーに言ってんの…この世界で一匹
救ったんだから…功労賞物でしょ…?」
それを追うようにグリンスも言う。
グリンス「ゲマナの言う通りだ…君は良くやった…」
グリンスはいつもの微笑みを座り込んだタークの前に膝をつく。
グリンス「素敵だったぞ…」
ターク「…そ…それほどでも…」
マール「ふふ…」
マールはその光景を微笑みながら見ているとハッと気付く。
マール「あ、狩人の館の影が見えてきましたよ」
ターク「っ…?」
タークは狩人の館を見る…訳じゃなかった。
狩人の館の影を見る夕日に照らされたグリンスの
横顔を見ていた。
…
船の別の場所では…。
ヴァルド「さっきは助かったぜ」
ふなべりに寄っ掛かり狩人の館を眺めていた
セリーヌの背後から背中をドシっと叩くように
ヴァルドが来る。
セリーヌ「…あなたが無茶したせいね」
ヴァルド「そ…そりゃないぜ…セリーヌ…」
セリーヌ「ふふっ…でも本当に怖かったから」
ヴァルド「…あ?」
セリーヌ「あなたを失うのが…気が付いたのよ…」
セリーヌはヴァルドに顔を向けて言うと再び狩人の館方を見る。
ヴァルド「…」
同じく目の前の女性の夕日に照らされた横顔をみてる男がここにいた。
続く




