31話 英雄の過去
パチッ…パチッ…焚き火の薪が弾ける…。
ターサー「ふぅ…」
ターサーは火を起こして手をはたいて一息つく
リリー「…」
リリーが黙り込んでるのを見たターサーは隣に
ゆっくりと座りマグカップをそっと目の前に置く
ターサー「…お前の足の近くにスープの入ったマグカップを置いた…倒さないようにな…」
リリー「…ありがとうございます…」
ターサー「…どうしてそんなに落ち込んでる」
ターサーは少し優しい声で聞いてみることにした。
リリー「今日…私…私達…死にかけたんですよね…」
ターサー「死ななかった」
リリー「死にかけたんです」
ターサーは否定したかったが事実を前に目を伏せる。
ターサー「そうかもしれないな」
リリー「…ターサーさんは戦ってきた人だから…慣れてるかもしれません…けど…私は…そうじゃないし…弱いから…」
リリーがそういった瞬間だった
ターサー「リリー…これ持ってみろ」
リリー「っ?」
ターサーはリリーの手を掴みそっと握らせる…。
持たせたのはハンドガンだった。
ターサー「手…離すぞ…」
ターサーが手を離した瞬間、その重さにリリーは
手が下に揺れる。
リリー「これ…」
ターサー「銃だ…ずっしりしてるな…?」
リリー「はい…重いです…」
ターサー「…」
ターサーは一呼吸し話し始める。
ターサー「さっき…リリーは俺が慣れてるかもと言ったな…それはあながち間違ってない…新人の時と比べれば…俺は殺しのスペシャリストと言われてもおかしくないくらいだ…だが…まだ感じる…」
リリー「…感じる…ですか…?」
ターサー「…俺は軍人だった、この国との大戦…魔兵大戦をしていた国…PITの軍人だった、今から100年前だ…」
リリーは少し顔が暗くなる。
リリー「それ…って…」
ターサー「俺も何人か魔法使いは撃つことがあった…前は必要だった事でも…今でも重くのしかかる…
人を殺す事はそれほどのことだ…だが…今でも
昔と同じように感じる事はそれともう一つ…お前が感じたことと同じだ…」
リリー「…重さ…ですか?」
ターサーは焚き火を眺めながら言う。
ターサー「あぁ…任務から帰って寝ても…次の日にはまた任務がある…その任務に行く前…銃を
持つ…昨日に任務が終わった時は軽かった銃が
手にずっしりとくる…これは命を取る道具…
それでしかないと認識させてくる…。」
リリー「…」
リリーはそれを聞いて見えない目でも確かに握っている銃を見る…。
ターサー「そいつは重い…それは変わらない…
リリー…死にかけるのも…人を殺すのも…
慣れたと言うのはただの自己暗示に過ぎない…」
ターサーは座る姿勢を少し崩し空を見ながら言う。
ターサー「…ただ…
巻き込んでしまって悪かった…」
ターサーは次にリリーを見て言う。
ターサー「お前は弱くなんかない、目が見えない人生を歩んで今まで成長した…それは強い…
俺の知ってる何よりも──…」
カチャンッ…
リリーの足元に置いてあったマグカップが倒れ
スープが溢れる。
リリーの足が当たったのだ…。
リリー「誰かに言われて…そう思おうとしても…結局は無理なんです…」
リリーの目には布が巻かれている…しかしその上からでも分かるようにシミが出来て、肩が震えている…泣いてるのが分かる。
リリー「私は弱い…私は無力…何度もそう思ってきました…目が見えないだけでいじめられて…
それを理由に泣いて…唯一の家族は私を奴隷としか見てなくて…また泣いて…泣いたことが弱いことだとおもってまたないて…」
リリーの声はどんどん震えてくる。
リリー「私が私を強く思うには…人を傷つける力が必要なんです…」
ポタポタと布から涙が溢れこぼれる。
リリー「だから…お願いです…」
ターサー「…」
リリー「私に人の殺し方を教えてください…」
ターサーはただ黙って聞いて、俯く。
ターサー「そうか、リリー…その銃には弾が
入っている…俺の声がする方に向けろ」
リリー「っ…!?」
ターサー「…しないのか?」
リリー「…」
リリーの手は震え銃はただカチャカチャと音を出すだけだった。
ターサー「人を傷つける力…俺は…」
再びフラッシュバックする…。
燃えた村、燃えて叫んでいる人々…
焼け落ちる家…。
目の前に横たわっている女、それに銃を向ける自分
???「ター…サー…?どうし…て…」
…
ターサー「…それを手に入れたらいつか大事な人も傷つけることになる…それが出来るのか…?
お前はまだ会って短い俺に銃を向けることも出来ない…」
ターサーはそっとリリーの手から銃を取り、マグカップも立て直す。
ターサー「物事には適正がある…お前は傷つける役に回るな…逃げることも弱さと思うな…
失敗も失敗と思うな…」
リリー「ぅ…」
リリーは耐えられず目を抑えるようにして泣く。
リリー「私…できなかった…できなかった…」
ターサーはそっと近付いて抱きしめ頭を撫でる。
ターサー「それでいい…」
ターサーはただ抱きしめ続けたまま言う…。
ターサー「…二度と辛い思いをしないように…
言っておく…」
リリー「…」
リリーは泣き、ターサーの胸に顔を埋めたまま。
ターサー「お前はやればできる…傷つける事も…
癒すことも…な…?」
リリーの反応がない。
ターサー「…リリー?」
そっと抱きしめる手を緩めリリーを見る。
リリー「すぅ…」
泣き疲れたのか、リリーは穏やかに目を瞑り
眠っていた。
ターサー「…やればできる…」
ターサーは頭を撫で続ける…綺麗な星空の下で。
続く。




