11話 甘い匂いのする夜
グリンスのテントはシンプルだったが、整理されていて居心地が良さそうだった…。
奥には武器や防具が整然と並べられ、中央には簡易ベッドが一つ。
ターク「……割と広いな。」
グリンス「寝るだけなら十分だろう。」
ターク「まぁ、そうだけど……」
グリンス「私は気にしない。お前も気にするな。」
ターク「……いや、普通気にするだろ…。」
グリンス「問題ない。」
タークは溜め息をついた。
こうして、異世界から来たばかりのタークは、
ハンター?・グリンスと共に夜を過ごすことになった。
その後、軽いテントで寝る支度を済ませたターク。
ターク「……さて、寝るか…。」
グリンス「そうだな。」
ターク「……?」
グリンスはタークの横を通り、テントの中央に立つと、何のためらいもなく装備のベルトを外し始めた。
ターク「……え?」
カチャッ、と金属音が鳴る…
次の瞬間、グリンスは腰に巻いていた装備をスルリと落とし、肩の防具を外していく。
ターク「お、おい……?」
グリンス「……ん?」
ターク「いや、ちょっと待て。お前、今何してる?」
グリンス「着替えだが?」
ターク「いや、ここで!?」
グリンス「問題あるか?」
ターク「いやいや、あるだろ!!」
タークが焦る中、グリンスはまるで気にする様子もなく、インナー姿になる。
黒を基調としたインナーは、戦闘用の機能的なものではあるが……布地の少なさがやたらと際立っていた。
ターク「お、おい!!」
グリンス「……なんだ?」
ターク「せめて、俺が外に出てからにしろ!!」
グリンス「気にしないと言ったはずだ。」
ターク「俺が気にするんだよ!!」
タークは慌てて顔を背けた。
グリンスは肩をすくめると、そのまま寝床に腰を下ろした。
グリンス「戦場では、いちいち恥じらっている暇はない。」
ターク「ここ戦場じゃねぇだろ!!」
グリンス「……まぁ、慣れろ。」
ターク「……いや、俺は普通の男だからな?」
グリンス「知っている。」
さらっと流すグリンスに、タークはまた頭を抱えるしかなかった。
…時間は過ぎていく…。
タークは寝袋の中でじっと天井を見つめていた。
寝れる気がしない。
テントは広いが、"狭いようなもの"だった。
その理由は明白だ。
隣に、グリンスが寝ている、しかも、すぐそばで。
ターク「……」
目を閉じて寝ようとするが、意識がそちらへ向かってしまう。
寝返りを打つたびに、微かに布が擦れる音が聞こえる。
呼吸音も落ち着いていて、安らかに眠っているのが分かる。
……いや、そこじゃない。
ターク「(近い……)」
寝袋の距離はほとんどゼロと言っていいほどだ。
何かの拍子に触れてしまいそうなほど近い。
ターク「(……おかしい。なんでこんなに気にしてるんだ、俺は。)」
普通に考えれば、これは異常な状況だ。
女性と同じテント、しかもこの距離で眠るなど…
今までの人生で経験したことがない。
それに…
いい匂いがする。
戦闘後の汗の匂いがするかと思いきや、そんなことはなかった。
むしろ、ほのかに甘い香りが混ざっているような気さえする。
ターク「(……なんなんだ、この状況は。)」
タークはどうにかやましい考えを抑えながら夜を
過ごしていく…。
~朝~
気付いたらタークは眠っていて、目を覚ますと
テントの外からは活気のある人々の声が聞こえる。
ターク「(朝か…)」
隣には既にグリンスはいない。
しかしそれどころではない…。
一度寝て目を覚ましたことにより異世界夢説は0に
なった。
タークは落ち込むことも喜ぶこともなくそっと立ち上がってはテントから出ていく。
砂漠地帯のガシア漠だが外の風は中々涼しく
心地がよかった。
まだ少し寝ぼけているタークはボーッと辺りを見渡していた。
するとタークはグリンスを見つける、その隣には
ゲマナもいた、二人は何かについて考え話しているようだった、ゲマナが何か紙を見せているのだ…
それと、木製の何かも近くに置いている。
タークはさりげなく近付いて耳を傾ける。
ゲマナ「それでね、新しい狩猟用の罠を考えたんだけど、どうかな?」
グリンス「……なるほど。確かに効果はありそうだ。」
ゲマナ「でしょ?でも、もうちょっと改良できそうな気がするんだよねー!」
彼女が指をさした先には、大きな木製の罠が置かれていた。
タークは興味を引かれ、さりげなくその場に混ざるようにして罠を覗き込んだ。
ターク「……へぇ、これがこの世界の罠か。」
ゲマナ「あ、ターク!こっち来たんだ!」
ターク「まぁな、ちょっと気になって。」
罠は一見シンプルな作りに見えるが、よく見れば細かい工夫が施されている。
タークはじっくりとそれを観察し、木の組み方や仕掛けの構造を確認した。
ターク「(……これは、動力を利用してモンスターの足を絡め取る仕組みか。)」
タークはすぐに罠の構造を理解した。
そして、ふと気になった点があった。
ターク「……これ、仕掛ける時に角度をもう少し調整した方がいいかもしれないな。」
ゲマナ「え?」
ターク「今のままだと、魔物が足を踏み込む際に引っかからない可能性がある、もう少し傾斜をつければ、より確実に作動すると思う。」
ゲマナ「ええっ!?ターク、そんなの一目で分かったの!?」
ゲマナは驚きながらも、目を輝かせた。
ターク「まぁ、こういう仕組みを考えるのは得意なんでな。」
ゲマナ「すごーい!ねぇねぇ、もっと詳しく教えて!」
ターク「……お前、こういうの好きなんだな。」
ゲマナ「もちろん!だって、狩猟の道具を作るのが私の仕事だからね!」
ゲマナは嬉しそうにタークに身を寄せながら、罠の改良について話を続けた。
グリンスはそんな二人のやり取りを静かに見ていたが、タークの知識の深さに少し感心したようだった。
グリンス「……ターク、意外と頭が回るんだな。」
ターク「おい、意外ってなんだ。」
グリンス「褒めている。」
ターク「……ならいいけど。」
ゲマナ「よーし!タークのアイデアを取り入れて、もっとすごい罠を作るぞー!」
ゲマナはやる気満々で罠をいじり始めた。
タークは思わぬ形で異世界の狩猟道具に関わることになったが、どこか楽しさを感じていた。




