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おっさんダンジョンマスター、死にたくないのでダンジョン統一始めます  作者: 南蛇井


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【第12話】《新たな同盟》 孤独の砦と、交わる異端

【起】援軍など、来ない

クラウゼ地下三階、整備区画──

爆撃の余波で崩れた壁を修復する魔力構造体たちが、淡々と作業を続けていた。

床に転がる破片、焼け焦げた魔導板、砕けた瓦礫の山。

その隙間を縫うように、ミナは汗まみれの姿で資材を運び、指示を飛ばしていた。

一方、リリエは光を宿した演算窓を複数開き、損壊ルートの魔術的補強を施している。

「……地下一階、三次元支持構造の再固定、完了。封鎖魔術、再展開中」

「モンスター部隊、第二大広間にて再編完了。戦闘不能は二十三体……だが、配置には支障なし」

リリエとミナの報告が、事務的に積み上がっていく。

そして、中央の指揮卓に腰かけていた佐々木は、ポツリとつぶやいた。

「……俺たち、いつまでこうして耐えていけるんだろうな」

その声は誰に向けたわけでもなかったが、空気がわずかに止まった。

「なあ、もしどこかのダンジョンがさ……同じようにマクスウェルと戦おうとしてるんなら、協力してくれるとか……そういうの、ないのかな?」

希望とも妄言ともつかない言葉だった。

だが、返ってきたのは、冷たい現実だった。

「ありません」

きっぱりと、リリエが断言した。

「現時点で、明確にマクスウェル陣営に逆らっている独立ダンジョンは存在しません。

もしくは、すでに情報に登らないほど“処理済み”か」

佐々木は口を閉じた。

わかってはいた。けれど、それでも――言葉にしてみたかった。

「……戦う理由があるのは、俺たちだけか」

「戦う覚悟があるのも、な」

今度はミナが口を開いた。

「私たちは、“逃げ場のない戦い”を選んだ。

あのとき降伏しなかったのは、誰でもない――自分たちの意志だよ」

言いながら、ミナは壁の崩れた影の中に目をやる。

そこに転がっていたのは、かつてクラウゼを守っていた中型モンスターの残骸だった。

最期まで戦い、役目を果たした彼らの姿が、胸に焼きついている。

「……逃げることは、もうできない」

「だから……せめて、誰かと繋がりたいと思ったのかもしれないな」

佐々木の言葉に、ミナもリリエも答えなかった。

代わりに、冷たい風が、クラウゼの裂け目から――音もなく吹き込んできた。

【承】未知の通信

クラウゼ地下三階、中央制御室。

魔導結晶の輝きが一斉に揺れた。

「……通信魔術網に異常波長、接続要求です」

リリエが眉ひとつ動かさず、指先で演算窓を滑らせる。

彼女の背後に立つ佐々木は、壁面の投影に浮かび上がった“異質なシグナル”に目を細めた。

「非登録……クラウゼの周波とは異なる。マクスウェルか?」

「可能性はあります。対応しますか?」

問うようにリリエが振り向くと、佐々木は一拍置いて頷いた。

「聞くだけでもいい。もしかしたら――味方かもしれない」

「了解。遮断解除。視覚接続、限定開示にて──リンクします」

シュウウ、と微かに空間が収束する音がした。

次の瞬間、魔導投影に姿を現したのは――銀と黒の仮面をつけた、長身の男だった。

その顔は一切の表情を読み取れず、仮面の下の瞳さえ霞がかって見えない。

だが、彼の声は澄んでいた。まるで湖面のように、静かに、遠く響いた。

「はじめまして。クラウゼの皆様。私は“グレイル”──独立型中立ダンジョン《ベル=リューン》の管理代行者です」

佐々木とミナが目を見合わせた。

“独立型”“中立”──その言葉は、すでに絶滅種のように忘れ去られつつある概念だった。

「ベル=リューン……聞いたことがないな」

佐々木が警戒を滲ませながらも返すと、仮面の男はゆるく首を傾ける。

「当然でしょう。私たちは表に出ない。ただ、“いくつかの名もなきダンジョン”の遺志を継いで、この世界の“統合の潮流”を見つめています」

「統合……つまり、マクスウェルの動きか」

「ええ。彼らは優秀です。冷静で、計画的で、強い。

ですが、強すぎる者は、いつか“歪み”を生みます。あなた方もその犠牲となるはずだった。──私は、それが惜しいと思ったのです」

声に感情はない。だが、確かに“観察者の視線”だけはあった。

リリエが遮るように前へ出る。

「証明してください。あなたが、敵ではないと」

「敵ではないと“思っている”ことは、今こうして話していることそのものです」

仮面の奥で、男がゆっくりと息を吐いたように見えた。

「私は、あなた方に選択肢を与えたい。

“何もできないまま滅びる”か、“手を伸ばして、まだ見ぬ道を選ぶ”か──その決断権だけは、まだあなた方にあると信じている」

一瞬、沈黙が訪れた。

そして佐々木が、わずかに顔を上げる。

「……それは、同盟か? それとも、ただの観察か?」

「答えは、交渉次第。こちらから“望む”のではありません。あなた方が“どうしたいか”を、次に聞かせていただきたい」

言い終えると同時に、グレイルの映像はふっと霧のようにかき消えた。

魔導窓には、ただ「通信終了」の文字だけが残っていた。

リリエがそっと目を伏せ、ミナが黙ったまま拳を握る。

そして佐々木は、ぽつりと呟いた。

「……選択肢、か。あれが“罠”じゃなければ――たしかに、悪くない言葉だ」

その場に、再び静寂が満ちた。

【転】真意の探り合い

翌朝、クラウゼ地下三階の応接区画。

再び接続された魔術通信窓の奥に、仮面の男・グレイルが静かに佇んでいた。

その姿は変わらない。銀と黒の仮面、深く影を落とすローブ。

だが、その沈黙の奥には、明確な“意志”が宿っていた。

「……聞かせてもらおう。なぜ、うちに接触してきた?」

佐々木が問いを投げる。声は抑えているが、疑念は隠していない。

仮面の奥、グレイルは一拍の間を置いてから答えた。

「マクスウェルの統一戦略は、理に適っています。

だが、彼らが“効率”と呼ぶその行いの裏で、いくつもの“名もなきダンジョン”が、声すら上げられぬまま駆逐されていきました」

その言葉に、応接室の空気がわずかに揺れる。

ミナが目を細め、リリエが無言で視線を交わす。

「貴方たちは……その中で、“まだ生きようとしている”」

「だから、見過ごせなかった。そういうことか?」

佐々木の言葉に、グレイルは頷いた。

「その生への執着こそが、今のこの世界に必要だと、私たちは判断した」

“私たち”。

その言葉に、リリエが静かに反応した。

「構成情報の開示を求めます。あなた方が“何者か”を示せない限り、この接続はただの干渉です」

仮面の男は沈黙する。

やがて、ほんの少しだけ視線を落とした。

「私たちは、かつて滅びた幾つかの“観測者型ダンジョン”の残骸から再構築された集積体です。

意思決定の主軸は私が担っていますが、その本質は……情報と記憶の寄せ集めにすぎません」

「……つまり、“人ではない”」

リリエの声が低くなる。

「あなた方が“救済の仮面”をかぶった別勢力である可能性も排除できない。

我々の敵には、言葉巧みに引き込み、情報を吸い上げる統合AI系存在もいます」

グレイルは否定もしない。ただ、こう言った。

「信じる必要はありません。

ですが、“選択肢”は、あなた方の戦い方そのものを変える武器になる」

その瞬間、ミナが言葉を発した。

「……たしかに、“選べる”ってことは、それだけで力になる」

彼女の声は弱くもなく、強すぎもせず、ただまっすぐだった。

「戦うしかない、って思ってた。背水の陣で、踏ん張ってた。

でも……背中に“別の道があるかもしれない”って思えたら、それだけで、少しだけ、前に出られる」

佐々木とリリエがミナに目を向ける。

その瞳は、不思議な静けさと覚悟に満ちていた。

「私は疑ってる。でも、希望だって、疑うだけじゃなくていいと思う」

しばし沈黙ののち、グレイルが仮面越しに言葉を投げる。

「その言葉、記録させてもらおう。

それこそが、滅びなかった理由のひとつになるかもしれない」

通信は、再び静かに切断された。

【結】交渉の種

再び魔術通信窓に姿を現したグレイルは、仮面越しに淡々と告げた。

「こちらからの提案です。資源の融通、偽情報の拡散、そして……必要であれば、潜在的な逃走経路の提供が可能です」

その言葉に、応接室の空気が再び張り詰めた。

「ただし、それらは“貴方たちがこの地に留まり、戦う”と明言した場合に限る」

明瞭な条件提示。それはすなわち、“共に戦う者”として認めるための線引きだった。

佐々木は、しばらく無言だった。

そのまま視線を落とし、指の先でテーブルを軽く叩く。

「悪い。……少しだけ、考えさせてくれないか」

ようやく絞り出した声は、迷いと覚悟の狭間にあった。

仮面の奥のグレイルは、それに対して否やを言わなかった。

ただ、静かに頷いたように見えた。

「了解しました。クラウゼの意思が定まる時を、こちらは待ちます」

次の瞬間、魔術窓が淡く揺れ、光が収束する。

接続は、そっと切断された。

応接室に静寂が戻る。

だが、その静けさは、先ほどまでの重苦しいものではなかった。

どこか、“風の通る場所”のような、わずかな余白を感じさせる。

その空気の中で、ミナがぽつりと呟いた。

「本当の意味で味方かどうかなんて、わかるわけないけど……」

誰に言うでもなく、けれど確かに伝えたい声で。

「それでも、いま“誰かと繋がれる”って、それだけで……救いかもな」

リリエは黙っていたが、その瞳の色がわずかに揺れていた。

佐々木は、深く息を吐き出す。

まだ何も決まっていない。

だが、何かが、ほんの少しだけ動き出した気がした。

静かな、けれど確かな“予感”が、クラウゼの地下に広がっていく。


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