ー 罪人確保 ー
ー 罪人確保 ー
脳に送られた場所に集まった僕とおにい。
「ねえ、おにい?ここに何人いるの?僕達含めて」
「んーと...数えるより考えたほうがいいな、んーと3人死んで、2人休憩だから、15人集まってる」
死んだことについて無頓着...
「多いね今回」
「確かにそうだな」
僕達はそんなふうに会話をして、ゲーム開始を待った。意外とすぐにアナウンスは鳴り始めた。
「やほやほ!早速ですが、ゲームマスターの紹介です!残りもこの二人に任せます!どうぞお!」
急に暴風と煙が舞った。僕達は顔を腕で覆った。煙が上がり、暴風が止むと、運営らしき二人が現れた。
運営の一人が大きく息を吸ってこう言った。
「お前らは!!罪人だ!!俺達の裁きを受けてもらう!!ゲームは名は、放送の通り、『罪人確保』だ。制限時間は45分だ。」
一気に情報が入ってけたけど、ようするに運営側が警察、僕達参加者が泥棒側で、ケイドロをするんだと思う。
「ルール1 俺達がお前らを『確殺』すると、お前らはあの牢獄行きとなる。安心しろ、『確殺』といっても死んでも生き返る。全て再生するさ。牢獄行きなった奴を救う方法は、牢獄から半径10m以内にゲームマスターが居る場合!牢獄の目の前にあるスイッチが点灯する!その時に押せば、牢獄にいるやつ全員が!どこかにテレポートして解放され、押した張本人は!5秒の逃走猶予が与えられる!その5秒間はゲームマスターに襲われることはない!」
「お、おにい、怖いよ...それに条件きつすぎ...」
「まぁ全て聞いてから話し合おう」
おにいは相変わらず冷静だ。羨ましい。僕は思ったことすぐ共有したいタイプだから、落ち着けない。
「ルール2 お前らにミッションを課す。ミッションを仲間に口外することは、場合によっては禁止される」
普通のケイドロにミッションが追加されるってことかな。
「ルール3 能力の使用を、許可されている者は許可する」
「おにいは...」
「わかってる」
ちょっとくらい会話してくれてもいいのに、しばらく離れてて寂しかったんだから。
「ルール4 絶対にミッションをクリアできない状況になった場合。その場で『死刑』だ。だが俺らも鬼じゃない。俺らのどっちかと戦ってみろ。死なずに制限時間が来たら、見逃してやろう。まあ、俺らに勝てるならな」
運営二人はかなり異様な雰囲気を放っている。二人とも別のベクトルで怖さを感じる。そして気になったことがる、運営の一人が...ピンクロと似ている。かなり。
「ねえ、おにい?あの運営の一人、ピンクロと似てない?」
「ああ、種族が一緒なんだろうな」
「種族?」
種族ってどういうことだろう、イマイチよくわからない。
「後で話す」
「えーなに?はぐらかさないでよ!」
おにいは「はあ」とため息をつき、腕を組んだ。
「何それ...うざ、おにいなんて知らない!」
おにいは目を見開いて口をぽっかりと開けた。
「おにいなんて、大っ嫌い!!」
僕は、今回おにいから距離を取った。おにいは「わ、悪かった。謝る」無視を決め込んだ。おにいが悪いんだし。
運営二人は、僕たちを気にすること無く、話しを続けた。
「自己紹介が遅れたな。俺は『貪欲』、コイツが『殲滅』だ。コイツは喋れないんだ。筆記でしか会話できない」
『殲滅』がどこからともなくホワイトボードを取り出したかと思うと、そこにペンで『よろしく^^』と書いて僕達に見せてきた。可愛い、気もする。
二人の特徴は右腕。先端が鋭くなっており、『貪欲』が岩や石のような見た目、『殲滅』はピンク色の光る謎の物質のような見た目だ。さらに『殲滅』の左腕は指先が鋭くなっている。二人とも攻撃力高めだ。他に上げれるイメージと言ったら、『貪欲』が海賊寄りの恰好で片目を黒い布で覆っている、『殲滅』は体全体が謎の物質で覆われている。顔は常にニコニコしていて。右目からは謎のピンク色のもやが出ている。
「最後に、特例だ。俺らをどちらとも殺した場合、強制ゲームセットだ!まあ、できるもんならやってみろよなぁ?さあ、試合が始まるぜ?俺らが、厳密には俺が1分数える。お前らは...」
そう言うと周りがグラグラと揺れ始めた。そして、大量の岩や壁などが地面から現れた。
「これを上手く使って隠れたり、逃げたりしてくれ。じゃあ数えるぞ!いーち!にー!...」
『貪欲』が目を閉じ、数え始めた瞬間みんなが次々と彼らから逃げ始めた。おにいはチラッと僕のことを見たけどそのまま走り出した。おにいは能力を封じられているので飛ぶというズルはできない。でも僕は使える、久々に全力で使えそう!僕はみんなに釣られ、全力で走り出した。
僕の能力の一つ『時を超えて』は、『大富豪』の時に説明したようにチャージした時間の分自分の時間を飛ばせる。厳密にはチャージした時間分で進めるであろう位置に瞬間移動する。チャージしすぎると意味わからないところに行くこともあるから注意が必要なんだよねえ。
僕はまあまあ離れたところに行き、丁度良さそうな岩陰に身を潜めた。体感30秒ほど経ったころに、視界の前に水色の画面が現れた。さっき言っていたミッションだろう。僕のミッションは...
〖試合終了1分前から試合終了まで何をされてもじっとしていること。押されて動いた場合などの、他者によって動かされた場合は含まれない。〗
なるほどこれは隠れれば楽勝だね。ん、右下になんか書いてある。
〖この文字は永久に表示され、他者が見ることはできない。〗
なるほど、なら一言一句間違わずに伝えられるし、忘れることもないね。
しばらくすると、ブザーの音が聞こえた。試合開始の合図だ。まず、僕は周りの様子を確認してみた。そうすると、一人の女の子が「あっ!」という表情で、僕のほうに駆け足で寄ってきた。
「クロカちゃん!久しぶり!」
「キュリーちゃん!久しぶりだね?ちょっと声大きいかも...」
僕は唇の前で人差し指を立てた。
「あ、ごめん」
それから、彼女は小声で喋りだした。
「あのね、私のミッションさ、〖自分のミッションの内容を伝え、さらに3人以上のミッションの内容を聞く。ただし、相手が嘘のミッションを伝えた場合、それはカウントされない〗っていうのでさ、教えてんない?まさか、嘘つかないよね?」
そういうミッションもあるんだ...難しさを人それぞれなんだね。なるほどなるほど。
「嘘つかないよ。僕のはね...〖試合終了1分前から試合終了まで何をされてもじっとしていること。押されて動いた場合などの、他者によって動かされた場合は含まれない。〗だって。」
「おっけ!信じとくよ!じゃあ私は他の人にも聞きにいかないといけないから。またね!」
と、最後の最後に大きな声を出して飛び出していった彼女は、走り飛んできた『殲滅』に頭を鋭い右腕で貫かれ頭がピンク色の粒子になって散ったかと思えば、体全体が白い光となって塵となった。ってやば!?キュリーちゃんの声で場所バレちゃった!てかキュリーちゃん!?死んではいないはず、だよね?
僕は『時を超えて』を発動し、チャージした。右手の甲に緑のアナログ時計が表示された。その時計は最初0時、0分、0秒を指して、普通の時計のように動き出す。その時計で進んだ時間の分、僕は先の未来の位置に行ける。僕は息を殺して岩陰に隠れ続けた。
しばらく隠れていると、『殲滅』の気配は無くなっていた。恐る恐る確認してみたが、やっぱり居ない。もう一度確認してみたが、、いない。
僕が「ふぅ」と安堵のため息をついた瞬間。上から『殲滅』が襲ってきた!...やばああい!
僕はチャージを終了した。36秒のチャージ。僕の体は緑に光り、ぱぁーっと発光したと思えば僕はまた違う、壁のような場所に移動した。
「はぁ、はぁ、心臓に悪い。あのピンクロ2!許さない!」
僕は地団駄を踏んだ。「くそっ」と思っていると、少し遠くで高い笑いが聞こえた。
「ははは!!!ははは!!!!はぁあぁっ、はっ、はあああああああああ!!!!!!!!!げほっげほっ...」
僕はその声の主であろう人物の近くの物陰に隠れた。するとそこにいたのは...
「雷電君!」
「嵬電だよ!!うぉっ!」
彼は『貪欲』と戦っており、走り回りながら彼の剣から放たれる雷撃を飛ばしていた。
「俺はッ!みんなを守ってッ!だれも捕まらないようにッ、するんだァ!」
「正義感振りかざすのは良いけどよぉ...お前が俺に敵うわけねえんだよ!!俺は、『お前を殺したい』ッ!」
彼がそう発言すると、空気が一瞬ひやっと冷たくなった。
「はぁ?何子供みたいなこと言ってんだよッ!」
強気にそう言った嵬電くんは、また剣から雷撃を放った。しかし...
「なっ...」
雷撃は『貪欲』に当たること無く軌道が曲がって床に当たった。
「諦めなッ!はっ!」
「剣だけでも十分に戦えらァ!」
嵬電君の剣は簡単に右腕に弾かれ、首を掴まれ、持ち上げられた。
「嵬電君ッ!」
彼は必死に藻掻いているが、時間の問題だ!助けなきゃ...!こんな時のために、僕は密かに『オーバーチュア』を発動していた。これは、チャージした時間の3分の1、時を止める!これで、鬼ごっこはボロ勝ちしてたっけえへへ。って、そんなこと言ってられない!
「チャージ1分12秒!『オーバーチュア』ッ!発動!」
二人の視線が集まったところで、僕は指を鳴らした。
世界が静けさに包まれる...はずだった。
「おお?すげぇなこれ?時間停止か?」
時が止まってない!?いや違う、嵬電君は止まってる...ってことは、彼もこの停止した時間内で動ける!?
「ありがとな!お嬢ちゃん!」
『貪欲』はそのまま嵬電君のお腹を右腕で貫いて、どこかに放り投げた。彼は空中で停止した。
「さて、お嬢ちゃん?あと何秒止めてられるかな?俺は『お前を殺したい』」
なんで!?なんで効かないの!?
僕が焦っているのを気にも留めず、『貪欲』は僕の眼前まで襲ってきていた。
眼前に右上の先端が来て、僕の目を潰していく、そのまま脳へと届いたのだろう、僕の意識は少しの間途切れた。
...
「はっ!あっ、えっ、はぁはぁはぁ...僕今頭あるよね!?顔あるよね!?」
と、目の前に寝転んでいたキュリーちゃんに訴えかけた。
「わわわ!クロカちゃん!捕まっちゃったんだ...あ、えっと、しっかりついてるよ!あと、踏んでるよ...人」
と、彼女は急いで起き上がって、そう答えた。僕は「よかった...」と安堵した。ん?人?
「いでぇよぉ...踏まないでくれぇ」
そこにいたのは嵬電君で、時間停止内で二人とも死んだから、同時に転送されたらしい。僕はそっと足をどかしてあげた。その後嵬電君は「ひぃっ、重かったぜぇ」と言ったので、踏み直した。
「いでっ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
「最低」
「女の子に重いとか言うの屑だね。そのまま死んじゃえば?」
僕はしぶしぶ、最低野郎から足を離した。くたばれっ。
というか、よく考えたら僕のミッション的に牢獄にいるのがベストなのかもしれない。
急に冷静になった僕は、キュリーちゃんにさっき起こったことを話した。
「ねえ、キュリーちゃん。僕時間停止の能力があるんだけど...『貪欲』は何故か時間停止しなかったんだよね?どういうことだと思う?」
「えっ、クロカちゃんすごい力持ってんね... んー、わからん!☆」
「だよねー...」
「あっ、そういやミッション聞かなくちゃ!おい屑。ミッション教えろ。私のは〖自分のミッションの内容を伝え、さらに3人以上のミッションの内容を聞く。ただし、相手が嘘のミッションを伝えた場合、それはカウントされない〗だ。うら、教えろ。嘘つくなよ?屑の分際で」
女子の怒りは怖いよ。最低野郎。
涙目でソイツは「〖二人の運営と対峙し、勝負する。勝敗は問わない。〗ですゥ...」と言ったのちに、キュリーちゃんに「近づくな屑!」と言って最低野郎は牢屋の端っこで縮こまった。うーん...
「キュリーちゃん、ちょっとやりすぎかも」
「えー?男なんてこんくらいしないと反省しないでしょ?それともあんまりやるとMに目覚めちゃう的な?」
「んーそういうことじゃないんだけどな...」
僕は何とか彼女を説得して、もう許してあげることにした。とりあえず彼にも同じことを説明し、僕の時間停止のせいで捕まってしまったことを謝った。
「良いぜ別に、あと、さっきは悪かった。女子にああいうこと言う発言はデリカシーが無かった。すまん」
「もう許したよ!大丈夫!さいて...雷電君!」
「嵬...あ、はい」
そんなこんなで和解したところで。と思っていた矢先にまた何か起こった。
「クロカ!!」
おにいだ。おにいが僕を助けに運営を引きつけながら助けに来たのだ。
「おにい...!?」
「これで、さっきのはチャラにしてくれッ、すまなかった!」
おにいが牢獄の前にあったボタンを押した。
「クロカちゃん、お兄さんと何かあ」
キュリーちゃんが何か言いかけてたけどあまり聞き取れなかった。僕達は白い粒子につつまでどこかに転送された。
「おにい、余計なこと...いやでも、なんかカッコよかったから...許してあげよ」
僕はまたどこかわからない場所に転送された。また隠れるにちょうど良さそうな場所を探す。というか、僕に関しては見つかった方がいい。ブラブラその辺を歩いた方がいいかな。
僕は隠れるのはやめてあえて見つかるようにした。もしこの世界が小説とか漫画にでもなってたら怒涛の展開でついていけないよ...
しばらく僕は色々なところを探した。運営が2人しか居ないのもあってか、見つからない時は全く見つからない。そんな風に歩いていると近くから声がした。
「クッ...クロカちゃーん」
小声で呼びかけられて、周りを見渡した。近くの壁の横から手招きする手が見えたので 、近くへ寄った。そこには、樹ちゃんが。この可愛い顔立ちで、男の子とは到底信じがたい。女の子か、男の娘なのか。真相は、樹ちゃんのパンツの中に...なんて。
「やっほー?どうかしたの」
「何やってるの、ブラブラ歩いて、捕まっちゃうよ!」
樹ちゃんは小声ながらも僕にそう叱った。そんな顔も可愛らしい。羨ましい。
「僕のミッションは捕まった方が得だからさ。ところで、樹ちゃんのミッションは?」
「そ、そう。あーえっと。呼んだ理由が今のことと、もう一つあって、それがミッションについてなんだけどぉ...」
もじもじ言う樹ちゃんの仕草を見てるだけで愛おしい尊い!可愛い!撫でたい!
「できる限りサポートするよ?なんでも言ってごらんなさんなぁこのクロカ様に!」
「あぁ、えへへ、えっとぉ。僕のミッションは〖運営の背中をタッチし、その後10秒間逃げ切る〗っていう、やつでぇ。手伝ってくれないかなぁっ、てぇ。」
「ん!任せんしゃい!死んでも遂行して見せよう!」
「頼もしい...!」
と、鼻高らかに宣言したものの、運営を見つけるのが一苦労、どうやって背中を触るか、この二つをどうするかなんてぶっちゃけると考えていなかった。
「クロカちゃ...いや!クロカ先輩!作戦は!」
「んふふぅ、えっとねぇ...」
沈黙は続き...
「考えてない...」
ドテッ!と樹ちゃんが口で効果音を言いながらずっこけるフリをした。
「ま、まぁ大丈夫!僕にも作戦はあるからね...」
かくかくしっかじっかみょみょんのみょん(?)
「なるほどっ」
要約すると、樹ちゃんの10秒続く透明化する力『テンカウントステルス』を使って背中を触り、僕がやったフリをして、能力で上手く10秒引き付けるって作戦ね!...この子悪魔だ!可愛い顔して!悪魔だああ!
「ダメ...かな?」
そんな麗しき瞳で僕の目の奥を覗き込まないでおくれ。流石にこの提案は、
「全然いいよん!」
僕の馬鹿ッ!心の中で自分にげんこつした。
まずは運営を探さなくてはならない。『殲滅』の方は神出鬼没で何処に現れるか分からない。上手く呼ぶなら『貪欲』の方かな。
「ねぇ、樹ちゃん。僕がさ、運営のこと馬鹿にしたら、ここに来ると思う?」
「えっ、流石に来ないでしょ」
「やって見なきゃわからない!ってことで隠れてー」
僕は無理やり岩陰に樹ちゃんを押し込んだ。「うぎゃー!」って感じの顔をしながら押し込まれた樹ちゃんは可愛かったなぁ。
「ふぅ、『貪欲』のばぁあああああかあぁああ!ダサい海賊コスプレ!片目隠してるけど!カッコよくないからなあああ!!!...流石に来ないか...ん」
「...が...だ...」
なんか聞こえる?
「だ...が...いだ!」
嫌な予感ーあははー(滝汗
「誰がダサいだああああああ!!!!!このクソあまぁああああ!!!!ぶち殺す!!!!『俺はお前を殺したい』ッッ!!ああああああああああああああああああ!!!」
『殲滅』は血眼になって僕をぶち殺す気である。樹ちゃん!後は頼んだ!(諦め)
「逃げろおおおおおおおおおお!!」
僕は必死に走った。『貪欲』は咆哮しながら僕へと右腕の先端を向けて殺す気満々である。樹ちゃん!早くー!!
「ぶち殺...あ?」
背中に触感を感じたのか、後ろを振り向いた。
「チッ...!誰だあああ!!!このクソがあああ!!!!どいつもこいつもっ、俺を舐めやがってよおおおお!!!」
さっきまで能天気だった僕の脳は、急に不安に包まれた。嫌な予感がする。
「ステージ全開ッッ!」
≪⦅〘貪欲〙⦆≫ッッ!!!
『貪欲』の真下に大きな羅針盤のような文様が浮かび上がる...それは赤黒く..彼からは周りが見えないんじゃないかと言うぐらい、文様と同じ色の靄が彼の体を包んでいた。隙間から赤い光が見える。きっと彼の目なのだろう。
「ぐるあぁあぁ...俺の背中を触った奴は、誰だあああああああああああああああああああ!!!!」
羅針盤が煩いほど機械音を立てて、ある一点に羅針盤の針が向いた。その方向に靄がぐんぐんと伸びて行く。
「俺は、ソイツをぉ、殺したいィ...ぐるぅっふしゃあああああああああああああああああああ!!!」
その一点に向かって周囲を破壊しまくりながら、樹ちゃんらしき方角へと向かった。
「クロカちゃん助け...」
僕は何も出来なかった。ぐちゃぁっ、ぐしゃっ、バキッと。樹ちゃんがぐちゃぐちゃにされて、後に白い光となって消える様を、ただ茫然と見ることしかできなかった。僕は本来使う予定だった。『オーバーチュア』を使用した。そして矛先は僕へと向いた。
「次だ...次はお前を殺したい」
「チャージ25秒...『オーバーチュア』発...動」
予想した通り、『貪欲』は止まることはなかったたった25秒なので、約8秒しか止められなかった。僕は逃げることすら諦めていた。
「なぁ...お嬢ちゃん。今何が起きてるか知ってるかぁ?」
「なんの話...」
「まぁ、ついてこいよ」
僕は頭が真っ白になっていて、抵抗せず運営について行った。
「なぁ、リスキルって聞いたことあるかァ?」
僕はその時悪寒を感じた。叫び声が聞こえる。助けを求める声、止めることを求める声が、耳に届く。
「着いたぜ?」
そこにあったのは、殲滅の力であろう魔法陣が牢獄の中に展開されていたのだ。そして、その魔法陣に触れた牢獄内の人達が足から塵になるように消えて、また帰ってきて。僕がここで牢獄から出さないと、あの地獄は終わらないのだろう。吐き気がする。あれじゃ生き地獄だ。顔見知り、知人、おにいや、樹ちゃん。そんな人達が、牢獄の中で苦しんでいた。
「ところで、もう残ってる罪人はお前だけだ」
そして影から殲滅がやって来る。最初に見た笑顔。同じ顔なはずなのに、今は狂気的に感じてしまう。僕の膝が笑っている。絶望的。僕にできることは...
「さぁ鬼2逃げ1の鬼ごっこだぜ?」
「ッ...」
僕はボタンに走った。触れた瞬間貯めていたオーバークロックで遠くに逃げればいい。
ただ、そう簡単にうまくいかなかった。運営二人が僕を襲う。僕が捕まれば。全員あの地獄に行くことになる。ミッションを達成できない人たちを、あのまま殺しきる気だ。
僕は運動が苦手だ。もうどうしようもない。僕には何もできない。何も...僕には。もう無理だ。さっきも僕のせいで失敗した。僕が無力だったが故に...
「おっと、一人ミッションが確定でクリアできなくなったな。このまま『死刑』だ」
そんな感じに僕が逃げ回っている間に一人また一人と死んでいく。僕は自分の無力感に打ちひしがれて、心が折れた。どうせ僕には......
「クロカ」
「え?」
「さっきからどうした」
「あ、えっと」
「家が無くてすまんな」
「いやっ、別にそういうのじゃ!おにいは十分頑張ってる!」
僕はどこに来たんだろう。おにいがいる。僕のために頑張って、頑張ってお互いが生きれるように努力してくれいる。
「なぁクロカ」
「何?」
「もし、俺が死んだら。どうする」
「ばっ、馬鹿!なんてこと言って...」
「現実的な話だ。俺が何かが原因で死んだらどうする」
「僕は...」
「まぁ、いい。だが、クロカ。俺はお前より先に死ぬ」
「何言って...そんなのわかんないじゃん!」
「死ぬ。高確率でな」
「病気!?それとも他に何かあるの!?」
「まぁ忘れろ」
......
僕には何もできない。
できない
できない
できないできないできないできない
できないできないできないできないできないできないできないできない
できないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできないできない
僕はいつのまにか膝をついて動かなくなっていた。自分の命を優先して。
何秒経ったかなんてわからないまま、ブザーがなった。
「時間切れェ」
貪欲がそう言う
「よかったな!生きられてよぉ!」
...
「なんか言えよなぁ?」
『楽しかったな』
そう、殲滅が筆談する。
僕は弱い。僕は、弱い。涙が溢れる。
目の前にあるのは空の牢獄。叫び声も、助けを願う声も。耳に届くことはなくなった。
でも、僕にはどうしようも無くなった時、その時だけための切り札があった。ここで使わなくていつ使うの、もったいなくない。今なら。今こそだ。
「ねぇ、貪欲」
「あぁ?んだぁ?お嬢ちゃん」
「もし全てを巻き戻して、もっかいこのゲームを最初からできたらどう思う?」
わたしは笑いながらそう言う。今参加者は3人しか残っていない。使わなかったら、いつ使うんだろうね。
「なに寝言言ってんだ?お嬢ちゃん以外死んだよ。現実みろ」
僕はおにいが好きだ。さっきだって、わざわざ助けてくれた。僕が捕まってから、割とすぐに助けてくれた。きっと、見張ってくれていた。
僕は過去を振り返る。僕達は元々、両親がいた。お父さんは、仕事が忙しくて、あまり顔を見たことが無かった。お母さんは、在宅ワークで、ずっと部屋に籠っていた。そんな環境で、唯一僕の救いだったのがおにいだ。おにいはいつも僕と遊んでくれた。僕が変な人に絡まれても、助けてくれた。怪我した時も、辛い夜も。そんなおにいが好きだ。おにいは所謂ツンデレだ。いっつも素っ気ない雰囲気を醸し出している癖に、色々と助けてくれている。僕もブラコンだけど、おにいもシスコンであってほしい。
僕は更に思考する。ある日のことだ。たまたま家族全員で出かけられる機会があった。みんな幸せそうで、あまり見れないおにいのにっこりフェイスを拝むことができた。その日は大型ショッピングモールで買い物をしていた。僕はその日にこの力に目覚めたんだ。
まずは、服屋さん。おにいが僕に似合いそうな服を選んでくれた。おにいは割と僕にボーイッシュな恰好を進めてくる。一人称にも相まって、ぎり男と勘違できなくもなくもなくもなくもなくもない。まぁ、そんなことはどうでもいいんだけど。
その日に事件は起きた。今では世界三大犯罪者というカテゴリーに入っている、四葩 烏。彼が、このショッピングモールを襲った。四葩 烏はギャングで、このショッピングモールで物資を頂戴する気だったようだ。僕は鮮明に覚えている。僕のお母さん、お父さん、僕を庇って死んだ、おにい。覚えてる。覚えてるよ。僕はその時、逆に涙はでなかった。底なしの悲しみは、涙になって出ることはなかった。その時僕が使えた能力は、戦闘向きではなかった。厳密に言うと、僕には攻撃する手段がないのだ。所謂、逃げ専門、今もそうだ。だからこそ、四葩 烏率いるギャングに、僕じゃ敵わないのは一目瞭然だった。
しかし、悲しみは僕の力を引き出した。膝から崩れ落ちている僕の背中に巨大な緑の縁、文字、秒針の黒い時計が現れたのだ。僕にはそれが何か、最初は分からなかった。でも僕はどんな能力でもいいから、と。また大好きな家族と会える日常に戻してください、と願った。時計はそれに答えるかのように、反時計回りに秒針が高速に、加速しながら回転しだした。周りは歪み、一点に収縮したかと思うと、一気に発散して、僕に目くらましした。そして、目を開いた時には、ショッピングモールに出発する寸前に戻っていた。僕はこの瞬間に、どういう力か察した。周りにいた家族は目を見開き、僕の背中にあるひび割れた時計が何かと問いた。僕は素直に『すっごい力ッ!』と答えた。
僕は過去に戻ってきた。ただ、割とすぐ前だ。僕が未来を変えるしかないのだろう。ただ、未来を変えるということは、大きな責任が伴う...気がした。時計がそう僕に念じたような気がした。そのせいか、僕は行き先を変更しようとは言えなかった。僕は焦った。このまま何も言いださなかったら。またみんなが死んでしまうのはないか。勇気を振り絞った僕は、おにいに今まで起ったことを伝えた。おにいは最初は驚いていたものの、信じてくれた。しかもそのまま家族に伝えてもくれた。僕は嬉しかった。
でも、"現実"は非情だった。お母さんとお父さんは、それを信じず、寧ろ、僕にそんな能力が手に入る筈ないと、笑った。僕はこの時、初めて殺意というものを覚えた。そして...その殺意を振りかざしたのは、僕では無くおにいだった。「クロカを否定するなッ!たかが数時間一緒にいただけで!信じれないなら、このまま勝手にくたばれ!」と怒鳴り、おにいは両親を嬲った。そして、おにいは僕を連れて、遠くへと連れてかれてしまった。
その後、実際に事件は起こった。僕はもう一度過去に戻ろうとした。能力の名前は何故かすんなりと出てきた。しかし、その時計は、僕の願いを叶えることはなかった。機能しないのだ。クールダウン、それとも一回きりか。僕は焦りに焦った。
しかし、おにいは冷静だった。これからの生活が苦しくなること。自分のせいでこんなことになってしまったこと。僕の生活は自分が保証すること。などなど、そんなおにいがとてもキラキラして見えた。その先の未来は、楽なものではなかった。元々、家が貧乏で、苦しいこともあってか。そこまで手元にお金はこなかった。家は売り払った。中学校まではお金が持ったものの、高校に入ってから払う学費までは無かったので、僕は中卒となった。でもおにいが勉強を教えてくれたから、そこまで不便じゃなかった。
こんな風に僕は救われた。わざわざ思い出すってことは、相当思い出に残っていたのだろう。他の人からしたらつまんないかもだけど。それでも僕はこんな理由でおにいが好きだ!僕は喉がガラガラになるほど大きな声で『貪欲』に向かってこう叫んだ。
「これが現実だよぉ!」
「オーバーチュア、ステージ全開ッ...!」
僕の背後に巨大な時計が現れる。今はひび割れていない。
≪⦅〘芽吹く歴史〙⦆≫
空間は歪み、一点に収縮し、炸裂する。眩しさの先に待っていた彼。僕の目の前にいるのは愛しのおにいだ。
「おにい、好きだよ」
「クロ...カ...?」
僕の背中にあるひび割れた時計からの音が、カンカンと頭に鳴り響く。




