ー 物理的な試合 ー
ー『物理的な試合』深淵の狩人編 ー
『残り時間 30分』
遠くにあるモニターに表示された。
「はっはっはっ、こうやって本気で戦うのは初めてだなぁっ!楽しくなるぜぇ!」
深淵の狩人、長いから深淵と呼ぼう。
深淵が大きく錨を振りかぶる。
「おうおうおう!俺と勝負しろぉ!」
突撃した雷電君はぎりぎりで振りかざされた錨を避けた。そして地面に大きくヒビが入る。
「うぉっ、ぶねぇっ!!」
「雷電君ッ!?そんなすぐに飛び出さないでッ!死んだらどうするのッ!」
「わ、悪い...あと、俺嵬電なッ!」
「あ、ごめん...」
雷電改め嵬電君は、かなり足が速い。戦力になると思う!。適当だけど。
「嵬電君!今は逃げることに集中!」
「おっ、おうっ!」
そんなことを言っていた刹那。後ろから物凄いスピードで何かが襲ってきた。
「ぐぅおへッ!?」
深淵だ、プロペラを高速で回転させながら襲ってきた。錨は嵬電君の右足に一撃を繰り出し、嵬電君は弾き飛ばされた。能力は使用禁止なんじゃないの!?
「能力は使用禁止でしょ!反則よ!反則ッ!」
キュリーちゃんの言う通り。能力は使用禁止のはず。しっかりルール説明で言ってた。
『ルール1能力の使用禁止。これは俺にも適用される』
って、おかしい。ズルだ!最低だ!クズッ!
「くっくっくっ、無知だなぁ、お前ら。"能力"は使用禁止だ。習わなかったのかぁ?能力以外のち、か、ら」
能力以外の力?力って言ったら能力ぐらいしかないと思う。学校で習わなかったのかとか聞かれてもわからないし。
「才能...」
そうこぼしたのは川部君。
「才能?才能って何?」
「んっと、確か、」
「説明してる暇があるなら、俺のことを気にしていた方が身のためだぜ?馬鹿共ッ!」
深淵が錨をぶん投げ川部君の剣にヒット。剣が弾き飛ばされ、落ちた場所に目をやると、剣が粉々に砕け散っていた。
「ッ!!」
深淵が一瞬で横を通り過ぎる。
「投げた錨に、追いついてる...!?」
とんでもない速度!。ん?
「雨?」
雨にしては角度がおかしい。どこから来ているのか、それはすぐに分かった。
「彼のプロペラから大量の水が噴き出している...これが彼がこんなにも早く進める理由の正体?」
ってことは、水の勢いで進んでるの!?プロペラの意味は?
「ッ!、危ない!!」
川部君が僕を押し飛ばす。
「きゃぁっ!?」
すれすれで深淵が通り過ぎる。危なかった。けどちょっと押し倒されたのはびっくりしちゃった。それより悩み込んでちゃ隙だらけになっちゃう、Don't think feel!
「ははははははっ、こんな調子で大丈夫かぁ?あと、お前はいつまで地べたに這いつくばってんだァ?惨めだなァ!こんな醜態さらして、恥ずかしくねえのかァ?なぁ?なァ!はははははッ!くふっ、ふははははははァ!!」
大笑いしながら嵬電君を踏んずける。弄ぶように、まるで物のような扱いをしている。許せない。
「うぐぅッ」
ものすごい角度に曲がった右足に、さらに錨を叩きつける。やめて、心が痛い。どけ。そこを!
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」
「くくっ、ははっ、くははははっ!はーっはっはー!6対1でこれかぁ?一人も助けられないようじゃ、20分も持たないんじゃねえのかァ!」
今すぐ助けなきゃっ、待って。水を噴き出して移動するなら、量が少なすぎる。それに、なんだか深淵の体が細くなっているような、もしかして。
「持たないのは、君のほうだよ!深淵!」
そう言うとむかつく表情が一気に曇った。
「あぁ?何が言いたい。クロカ・ラッシング」
名前は把握されているの..キモ....ってそうじゃなくて!
「君、体内の水分を消費して進んでるでしょ!」
「ッ...ふはははっ、もう気づかれたかァ。もう少し隠し通せると思ったんだがなァなら、もう遊びもここまでだ」
一瞬で私の眼前まで深淵が迫る。あっ、やばいかも。せっかくかっこつけれたのに。嵬電君、ごめん。人のこと言えなかったかも。
「離れろおお!」
「キュリーちゃん!」
終わったと思った時にキュリーちゃんが現れた。でも簡単に弾き飛ばされる。僕が今、なんとかしないといけないのに。隙が無さ過ぎて何もできない。
「僕もできるだけのことをするよぉっ!」
「天童ちゃん!」
天童ちゃんも加勢してくれた。僕は立ちすくんでるだけなのに、なんでみんなこう、勇敢なの?なんで僕だけ...
「そんな力で俺を止めようってかァ?雑魚がァァッ!!」
深淵が錨を振り回し、二人は咄嗟に離れた。
二人の協力プレイで、胴体ががらあき。いける。今ならいける。みんな勇敢なら、僕もそうなればいい!僕は思い切り時計の針型の剣をつきたてれば!きっとかっこよ...五十嵐君が剣みてめっちゃ笑ってる。怖いあの人。剣めっちゃ赤いし、はっきりいってグロい。
「あは、あははははっ!」
五十嵐君が笑いながら深淵に突っ込む。意外と早い。剣技も乱切りって感じだけど。でも意外と強い。えーん。せっかく僕の出番だったのに。
「ッ...邪魔だッ!」
隙を深淵が錨を五十嵐の腹にめり込ませる。
「ぐッ!」
五十嵐君が吹き飛ばされる。五十嵐君は壁に叩きつけられた。あれ壁なんてあったけ。いつのまに追い詰められている。逃げれない。戦わないと生き残れない。そう思っている時、チャンスは再び訪れた。背中ががらあき。いける僕なら。
「はぁっ!...」
僕は寸前で止めてしまった。人を傷つけるなんて、僕には。普段そんなことしたことないのに。あーもう
せっかく!
「馬鹿がよっ!」
僕に気づいた深淵が振り向く勢いでそのまま腹部を蹴られる。
「うぅっ!?」
軽く吹き飛ばされ尻もちをついた。こんな痛みは初めて、辛い。痛い。泣きそう...あーもう全滅しちゃうのかな。おにい、助けて、おにい...やだ。死にたくないよ。おにい。痛いよ。助けて。助けて...
「クソ野郎ども、皆殺しだァァ!!」
あーあ、もうダメかな...
グサり。と深淵の左足に剣が刺さる。急な出来事に深淵も呆気にとられていた。この状況で近づける人なんて...いた。一人だけいた。
「おうおうおう、足が折れても、戦えないわけじゃねえぜぇ!!」
「カスがっ...!」
嵬電君が決死の思いで這いつくばって反撃をしてくれた。だけど、そのまま深淵の左足で頭を思い切り踏まれ、蹴り飛ばされ、動かなくなってしまった。
「嵬電君!無茶しちゃ...って弱音吐いちゃダメッ!」
思い切り頬を叩いた。痛い。けどスッキリした。絶対殺す。このクズだけは。
「皆!連携しよう!深淵を取り囲んで!」
動ける子達がいろんな声でOKって意味の返事をして、深淵を囲んだ。深淵は嵬電君をぶん投げ、遠くに飛ばした。死んでしまったかもしれないが、どうであろうと彼の意思は継がなくてはならない。
「はぁ、地上って言う考えが甘いんだよぉッ!」
深淵は思い切り体を後ろにそらせて真上に飛んだ。
「やっやばっ!空いくとか、勝てるわけないじゃん!」
「だ、大丈夫!気を付けて!どこからくるかしっかり見よう!クロカちゃん!」
「わかっ」
キュリーちゃんのアドバイスを受け、対策しようとしたが、ずしんっ。近くでそんな音がした。誰だ。一番近い人。自分自身だ。
「うあぁっ!!!」
足先に錨が落ちてきた。しっかり埋まって抜け出せない。
どんっ、と近くに深淵が下りてきた。
「無様だなぁ?うらぁっ!」
腹部を蹴られた。痛いすぎる。やめて、お願い。
「や゛め゛っ、」
「まだまだぁああ!」
顔を思いっきり殴られ、足を蹴られ、また腹部を蹴られた。
声が出せない。痛い。痛すぎる。周りも助けようとはしているが、深淵が高速でプロペラを回転させて近寄れなくしている。もう、こいつ大嫌い、能力さえ使えれば、こんなやつ、こんなやつ、こんなやつ...!
「じゃあなぁ、クロカ・ラッシング!!」
錨を引き抜き、僕に振りかざす。
けど僕には今この一瞬。思いついた策があった。というかできた。
「君...水分つかいすぎ...!」
思いっきり爪を深淵に立てた。水分を消費しすぎた深淵の体はカサカサで、簡単に皮がはがせるほどになっていた。爪をたてて、引き裂く。
「ぐううぅっ!?」
「全く管理できてないのによくゲームマスターなれたね!」
意識が遠くなりつつも煽ってみる。絶対死ぬものか、僕を待ってる人がいるんだ!多分!
「お前ッ...!」
嵬電君が傷をつけてくれたとこに蹴りを入れる。
深淵は苦しみ、雄叫びをあげた。そしてプロペラが停止した。錨を床に立てて膝をついている。
「みんな!今だよ!こんなクズ倒そう!!」
僕はモニターを見た。
『時間制限 残り15分』
これなら余裕...
「ちっ、!クソ....」
アビサルがまた真上に飛んだ。
「また何か来る!気を付けてみんな!」
「「「うん!」」」
皆が今一丸となっている。これなら勝てる。殺せるかもしれない!
そして、待つ、待つ、待つ。一向に下りてこない。あれおかしい。このまま降りてこない。頭にはよぎっていたが、ゲームマスターがまさかそんなことするわけ。
「あいつっ、時間制限が来るまで降りてこないつもりか!?」
川部君が焦った声でそう言った。考えることは一緒だった。
「私達のリーチじゃ届かない...」
キュリーちゃんが悔しそうに拳を握りしめる。
どうにかしようと行動できる全員で考えた。必死に考えて、考えて、考えてるうちに、ブザーが鳴ってしまった。
「ッ...クソッ!」
川部君だけではなく、意識のある全員がイライラしていた。
そして深淵が落下してきた。力なく落っこちてきた深淵の体はかなり細くなっていて、かっさかさだ。床で倒れている。
「くくっ...おめでとう、お前らの勝ちだ」
声もカスカスだった。ゆっくりと起き上がり嘲笑うように拍手をしながら近寄ってきた。
「何がお前らの勝ちだよ!僕たちからずっと逃げて!ズルだ!最低だッ!!死ね!!」
「はははっ、逃げていいのはお前らだけじゃない。俺だって逃げれなかったら、不公平だろ?お前らはゲームマスターだからって常に襲ってくると思っていたのか?というか、むしろラッキーだぞ?俺の能力が使えていなくて」
「ふんっ、次会った時は殺すから!」
ふと後ろから声がした
「うぅ...」
「嵬電君!!」
「い、生きてたか、よかっ...た」
「かっこつけすぎ!!」
人のこと言えないけど。
「悪い悪い...」
「あぁ、負傷者はゲーム終了時に回復させることができる。どういう力かは企業秘密だ」
な、なにそれぇ。ってあれ、嵬電君、傷もう治ってる?自分の傷もだ。すご。早すぎてウケる。
「うお、すっげぇ、もう治った。どういう技術だよ...」
「さぁ...?」
「みんな無事でよかったね!」
誰か忘れている気がするけど。
「さて、それはどうだろうな?」
「え?」
深淵が謎なことを言い出す。
「ここ、Bチームは全員生き残ったな。ならどうだ、Aチームは」
「そ、それはぁ、」
「これからリプレイが流れる。Aチームのほうを見てみろ。それじゃあ」
そう言うと霧のようになって消えた。
「何なのあいつ...というか、あれ、なんで試合終わった後攻撃する意思がなかったの、?まさか、また操作されてた?試合終わって直後能力使って殺せば...」
「まぁまぁ、クロカちゃん。落ち着いて。私達全員生き残れたんだからそれでいいんじゃない?私も悔しいけどね...アイツッ...」
結局キュリーちゃんも悔しそうにしてるじゃん。まぁ、しょうがないよね。まぁでも確かに、全員生き残れてよかった。これでまたおにいの所に帰れる。あ、忘れてた。五十嵐君のこと。僕は急いで五十嵐君のところに駆け寄った。
「大丈夫?」
「chara...」
「大丈夫そうだね」
僕はそのまま放っておくことにした。みんなの所に戻ろう。
「あーっ!疲れたぁ...」
「んね、あ、そういえば天童ちゃん?」
「んー?」
「さっき深淵がリプレイとか言ってなかったっけ?」
「あーっ、言ってたね。そろそろ前みたいなモニターに表示されるんじゃない?」
「おっけー!ありがとね」
「あ、噂をすれば」
天童ちゃんが指さした方向を見ると、モニターが光っていた。何かが映っている。あれは、大天使だっけ?Aチームのゲームマスターなのかな、ってあれは、ピンクロじゃん!そっか、いなかったもんね僕のチームに...生きてるのかな、なんか怖い。
「Aチームは死んだ人いるのかなぁ...怖い」
「大丈夫だよクロカちゃん!一緒に見よ」
「う、うん!そうだよね見よっか!」
見よう。Aチームに起こっていたゲームを。
これから流れるのは、私達とは全く違う人たちによる、全く違うゲーム。Aチームの映像だ。
ー『物理的な試合』大天使編ー
俺はスケール・ラージ、あのクソみたいな大富豪を終えて、第二ゲームに来た。こんなとこさっさと出て、アイツと決着をつけなくてはならない...アイツが生きてたらな。
そしてモニターであの目ん玉野郎の処刑を見た。良い様だ。と思ったが、いきなり消えたことには驚きを隠せなかった。何が起きた。目ん玉野郎、俺が勝手につけた名前は覚えていた。だが、そいつの見た目も、本来の名前も思い出せない。まぁ、本来の名前は元々覚えてなかったがな!ハハッ!
そしてアナウンス、次のゲームの名前は『物理的な試合』らしい。能力の使用禁止、またかッ!クソッ!それで、AチームとBチームに振り分けられるらしい。俺は、Aチームだった。5人と6人に分けるなよクソがッ!指示された場所につくと、俺以外の4人がいた。軽く観察し、全員分の名前を聞いた。
一人目はフリア・ストリア 名前はどことなく女っぽいが男だ。まぁ、どうでもいいか。炎のような赤い髪、常に目をかっぴらいていて、猫背だ。常に周りを観察している。背中には矢筒を携えている。弓矢で戦うのかこいつは。会話の内容はこうだ。
「おい名前は!」
「あ、あぁ、俺か?俺はフリア・ストリアだ!よろしくな!そういうお前は!」
「俺かぁ?あぁ俺は、スケール・ラージだ。フリア、だっけかァ?よろしくなァ」
「あぁ!よろしくゥ!んっとぉ、スケール!」
「気安く下の名前で呼ぶんじゃねェ!殺すぞッ!!」
「そ、そうか!ごめんな!ラージ!」
「気安く名前を呼ぶんじゃねえ!」
「あ、あぁ、えっとぉ...」
諦めて他のやつのところに行った。俺、何かおかしいこと言ったか?まぁ、いいだろう。次だ。
二人目はロニモ・ピナー。頭に画鋲のような帽子を被っている。腰にはポシェットを携えている。何が入っているんだ。危険そうなやつだ。会話というと。
「おい、お前、名前は」
「あ、ど、どうも、私はロニモ・ピナーです。」
「おうそうか!よろしくなァ」
「は、はい」
だった。気の弱そうなやつだ。すぐ死ぬだろう。というか死ね。まぁ、いいか。
三人目は田中太郎。つまんねえ名前。恰好も陰キャ臭ぇし、瓶底眼鏡だ。まぁ、会話は。
「おい!テメェ!名前聞くの疲れてきたからさっさと答えろカスがッ!!」
「あ、え、えと、は、はい。僕は田中太郎です」
「なんだそのシンプルな名前。おもしろくないな」
「すみま —―」
最後何か言っていたがどうでもいい。やっと次が最後だ。疲れるぜ、全く。
最後はインフィニット・ストレンス。長い名前だ。これはこれでうざい。
「名前ッ!!」
「インフィニット・ストレンス」
「そうか!!」
これで終わりだ。後半の3人は敗者決定戦で生き残った奴ららしい。こんなんで生き残れるんかァ?
そして突如ソイツは現れた。目ん玉野郎を首チョンパした張本人。大天使。長いな天使で良いだろう。ここに訪れたということは、こいつがゲームマスター的な奴なのか?秒殺してやるぜ。
「皆様、静粛に。先ほどの映像で名を呼ばれていましたが、改めて自己紹介をさせて頂きます。私の名前は大天使。この先も生きていたら、以後、お見知りおきを」
ムカつくやつだ。随分と堅い口調をしている。俺はこういうやつが嫌いだ。理由はない。なんか嫌いだ。
「突然ではあるのですが、これから武器の登録をさせて頂きます。私はこの大剣を使うのですが、武器がない方は素手となってしまいます。それは不公平なので、こちらから武器を支給します。いくつかあるので、選んで結構です。仮にすでに武器を持っている場合は使用許可が出るか、私が判断させて頂きます。」
俺にはこれと言った武器はない。好きな武器ってのもない。ただかっこいいのがいいな。イケてる武器。
「おい、俺は武器がねえ、選ばせろ!」
「はい、承りました。それではこちらから武器をお選びください」
全て近接武器、けど、素人でも扱えそうで、かっこいいのがない。ここは妥協するか。
俺は渋々ダガーを手に取った。
「それでよろしいですね?」
「ああ、これでいい」
「登録完了です。試合開始まで、お待ちください」
天使は何かパネルを操作してそう言った。俺は無言でそいつから離れた位置に行き、あぐらをかいた。気に入らねえやつだ。死ねばいいのに。能力使いてぇ!!でも死にたくねェ!!アアアアアアアアア!!
心の中で叫んでるうちに全員の登録が終わったようだ。
「さて、全員の武器の登録が終わりました。どれでは5分後にゲームを開始します。皆様は心の準備をしておいてください。それでは、休憩してください。」
天使は首を鳴らしながらそう言った。ウザい。こいつ絶対殺す。
「あーえと、お前、よろしくな?」
「あぁ、よろしく。赤野郎」
もうこいつの名前忘れた。俺は人の名前を覚えるのが苦手だ。昔っから。
「お、俺は、フリア・ストリアだ。フリアって、呼んでくれ」
「めんどくさい。俺はあだ名のほうが覚えやすいんだ」
「そ、そうか、ごめんな?あと、俺は見ての通り弓矢を使うんだ。遠距離攻撃なら任せろ!本当は弓は能力で生み出すんだが、大天使に頼んだら特別に用意してくれた。やったぜ!」
「おう、そうか、頼んだ」
「...おう」
赤野郎はトボトボと歩いてそのへんに座った。無駄な馴れ合いなんていらない。
「では、時間です。」
そう言い、天使は翼を広げた。
「第二ゲーム『物理的な試合』開始です」
ブザーが鳴った。
『残り時間 30分』
モニターに表示された。30分、死ななければ勝利。実質個人戦。あいつらに押し付けておけばいい。だが!そんなの俺の魂が許さねえ!
「さて...まずはどうするかな」
俺が持っているのはダガー。リーチ差で言えば、天使の持っている大剣とは月とすっぽんぐらいちげえ。
天使は大きく飛び上がり。空中に滞空した。
まてまて能力の使用は禁止だろう。ニワトリか?コイツは。もうルール忘れたのか。ニワトリの癖に空飛びやがって。お前は地べたでコケコッコーとかほざいてろ。
「おい!能力の使用は禁止だろ!」
赤野郎が弓を天使に向けながらそう吠える。
「私はルール違反をしていません。それ以上でも、それ以下でもありません」
そう言った後、大剣を振りかぶりながら滑空をしてきた。
「避けるぞ!お前ら!!」
赤野郎が指揮取ってやがる、気に食わねえ。気にくわなかったが、アイツの言っていることはなんの悪意もねえ。今避けなかったら、体が真っ二つになるところだったぜ。地面が一刀両断されて、大剣が突き刺さった。
「まぁ、この程度で死ぬような人達とは思っていません。ご安心を。まだまだ時間はまだまだありますので、油断なさらずに」
そう言いまた飛んだ。クソみたいな戦法だ。ゴミが。
「ぼ、僕、頑丈なので、攻撃受けるのは、まかせてくださいっ!」
「頑丈ダァ?あんな大剣もろにくらったらそんなへなちょこな体一瞬で真っ二つだぜ?寝言は寝て言え!眼鏡陰キャ!」
俺は間違ったことは言ってない。あんな大剣、頑丈とかそんなんで耐えれるレベルじゃないだろ。というか能力は使えないぞ。アホか?
まずい。
本当に眼鏡陰キャのほうに天使が行っちまった。あんなやつが耐えれるわけない、!避けろ!
「避けッ!!」
ずどん。という音が響いた。終わったか、クソこれからどうし ――
ありえない。あんな貧弱そうなやつが、あの大剣を、素手で受け止めるなんて、!
「能力の使用は...なるほど。ルールの範囲内のです。問題ありません」
「これは、才能です!」
才能?生まれつき頑丈ってことかぁ?何言ってんだァこいつ。そんなんで説明できるような力じゃねえだろ!
「才能ってなんなんだ?」
赤野郎が質問したが、そんなこと説明する時間はないだろ!
「私の完全勝利は難しそうですね」
また羽ばたいたと思ったら、俺の目の前に来ていた。
「その短いダガーで私に勝てるとでも思いました?さようなら」
俺は大剣をダガーで止めた。天使は困惑した表情でこっちを見てる。
「俺はただの人間じゃないんでな?」
そういい大剣を弾き、天使の胸にダガーを突き立てる、が翼で防がれてしまった。
「お、おおすげえなお前!ダガーで防ぐとか、かっこいいぜ!俺のも喰らえッ!」
赤野郎は弓を引いた。そして火がついた。また才能ってやつかぁ?
「やっべっ」
「ルール違反です」
ここら一体に緊張が走る。まて?ルール違反?まさかアイツ、能力を使ったのか!?馬鹿野郎!何してんだ!
「と、言いたいところですが、ここは私の寛大な心に免じて許してあげましょう」
赤野郎は滝汗を掻いていた。アイツは、「わ、悪い悪い...」と俺たちに目配せをした。
「ただし、次同じようなミスをしたら許しません。私に危害を加えてなかったことを、幸運に思うことですね」
そう言い天使はまた羽ばたく。羽ばたかれてばかりで、こっちから攻撃がほぼ通らない。防戦一方。戦いにならない。だが、それでもどうにかなるやつがいる。
「赤野郎ッ、悔しいが今はお前が頼りだ。唯一の遠距離攻撃のお前が頼りだ。頼むぜ。出来るだけサポートする」
「あ、あぁ?そうか、ありがとよ!いくぜ!」
そう言い赤野郎は弓を構えて天使に射た。たがそう簡単に行くはずもなく弾かれる。
だがそれでいい。矢に意識がいっている内に俺はダガーを投げつけた。それが天使の翼に刺さる。
「おっと、まずい」
バランスを崩した天使はそのままゆらゆらと落ちてきた。雑魚だな。ゲームマスターとか言っていたが、これではつまらない。試合終了といこうか。
「飛んで火に入る夏の虫...ですね?」
投げられた大剣は、俺の腹部を貫いて地面に突き刺さる。油断した。やっちまった。
意識が遠くなっていく中、『種族』に恵まれたなって思った。
「だって俺は...」
ーキラー・ペインとタショナル・ラッシングの種族のお勉強 ー
「試合映像ぐらい流してくれてもいいんですけどね。すっごい暇です」
「そうだな、じゃあ勉強でもするか?」
「べ、勉強ですか。遠慮しときます。本当に」
勉強なんてしたくてするわけがない。僕、勉強大嫌いだし。
「なぁに、そんな難しいことは話さないぜ?お前『種族』って知ってるか?」
良かった。真面目なお勉強が始まるわけではないようです。
「はい。『種族』というのは、どのような人間か、または生物の種類であるかを示す単語ですよね?」
「まぁ、そうだな。簡潔に言うと身分ってやつだ。一番上な立場なのは政治家とか総理大臣、天皇とかだな。そこから貴族、魔級『超』、『上』、『中』、『下』、『ビギナー』、そしてドルネス族と喰種って感じだ。ちなみにお前は?」
「貴族です」
「は?」
冗談が通じないようで悲しいです...トホホ...
「ってのは冗談で...魔級『中』です。そういうタショナルさんは?」
「俺か?なんだと思う?」
「魔級『ビギナー』ですよね」
「んなわけねえだろ...」
これも冗談なのに...えーん。
「俺は魔級『上』だ。だが、もしかしたら『超』までいってるかもな」
「『超』!?あれはもう次元が違いますよ!タショナルさんが手に入れれるような『種族』じゃありません!」
「お前は俺の全てを知っているのか?ふざけんな」
「痛いッ、チョップする必要ありました!?」
頭がじんじんする。チョップするなんて、タショナルさん嫌いになりそう。
「力入れすぎたか、ごめんな。ところで、お前、スケール・ラージのこと、覚えてるか?」
「はい。あの黒とピンクが特徴的な人でしたけど、それがどうしましたか?」
「アイツ、かなり体を覆っているが、ドルネス族だ」
「〇〇族、ですか。って言っても、〇〇族のことあまり知らないのでよくわかりません。」
この流れは、教えてくれる感じだ!やったあ!
「ドルネス族は、並外れた再生能力を持ち、体がピンク色に固まった部分が多々ある『種族』だ。〇〇族は、国を保持している。というか、その国にはドルネス族しかいない。国名はルザーニア王国。昔は共存していたらしいが、完全に今は俺達と分断されている。」
「で、彼がその〇〇族である問題点は?」
「その国では、実際にそうなのかは知らないが、王に直接挑み、勝利した者は次の王になれるという伝統があるらしいんだが、王になった者は体が変貌し、とてつもない力を得ると言われている。だが、あいつはある程度普通の見た目だ。ってことは、王はまだ生きている可能性がある。つまり、このデスゲームに参加している可能性があるってことだ」
「なるほど?」
「絶対分かってないな」
あはは、ごめんなさい
ー『物理的な試合』大天使編 続き ー
「俺は...ドルネス族だからなァ!」
大剣を体から引き抜き、体を再生する、再生した部分は鮮やかなピンク色で硬く固まった。もとの肉になることはもうないだろう。
「この剣、貰っていいのか?ハハハッ!!」
全員から軽蔑の目を向けられる。まぁ、そうだよな。『種族』差別が激しい社会だ、こうなるのも無理ない。
「お、お前、今なんて...」
赤野郎が何か言ってるが声が小さくて聞こえない。ハッキリ言ってほしいものだ。
「...ドルネス族ですか、気持ち悪い。私達貴族に恥を掻かかせた低俗な種族め!!」
天使の顔色が変わった。急展開すぎてついていけねえぜ...全くよォ。
天使が翼から引き抜いた元々俺のだったダガーを握って襲い掛かってくる。俺は攻撃をひらりと避けて大剣を振ろうとするが、重い。俺には扱える代物じゃなかったらしい。
俺は思い切り剣を地面につきたてて刺した。もういい素手で。
「舐めているのか...?この私を!」
感情的になっているやつほど攻撃が単調でわかりやすい。そんな小柄な体でよく頑張ったものだ。
俺はダガーを無理やり奪いとり、天使の腹部に刺す。
「あっ...」
よろけた天使を抱きしめ、背中を刺す、刺す、刺す。
じたばたの藻掻いている、爪を立てて抵抗しているが、刺す、刺す、刺す。
そして天使は動かなくなってしまった。赤い血で染まった翼は地に落ちていた。俺はそのまま天使を投げ捨て、ダガーを引き抜いた。そのまま蹴り飛ばして、仰向けにさせる。もう殺せるだろう。
「ちっ...」
ブザーが鳴った。試合終了の合図。
心臓に刺そうと思ったダガーは、すでに消えていた。
俺の血だらけになった体を、周りの奴らから凝視されていた、どうでもいい。
ダガーが無いことはどうでもいい。無くても殺せる。
「...?」
気づいたら天使の姿は無くなっていた。消されたか、いや、記憶にあるということは生きている。それか、何かあったかだ。まぁいい、帰ろう。疲れた。
俺は行く先もわからないまま、ゆらゆらと歩いた。
ー『物理的な試合』 完結 ー
「うっぷ...」
「く、クロカちゃん!大丈夫!?」
大天使がなんども刺されていたシーンが鮮明に頭の中で流れ続けている。モザイクなしのグロ映像...あんな子供レベル体格の子を...あそこまで残虐に...
「あ、ありがとう。ごめんね」
背中をさすってくれていたキュリーちゃんにお礼を言っていると、またアナウンスが流れた。
「みっなさーん!お疲れ様でしたー!なんと今回死亡した人数0人!クソつまんねえな!死ねよ!っていうのは1割冗談で、休憩時間とします!『大富豪』で、大富豪または富豪になった方々は、次のゲームに参加して頂きますので!脳に送った場所に!集合お願いしまーす!」
え、おにいに会えないじゃん!クソー!頑張ったのにー!
ー 主人公は変わり ー
「はぁ、次のゲームか、ほらキラー。もう休憩は終わりみたいだぞ」
「やだー!まだ寝てたいー!」
困った奴だ、本当に。
「また能力で運んでやろうか?」
「すみません行きます」
「偉い偉い」
俺はキラーの頭を撫でて一緒に行くことにした。
「次のゲームはなんなんでしょうね、プレイヤー同士の殺し合いとかじゃないといいんですけど...心配です」
次のゲーム、プレイヤーの殺し合いとなると、全員が助かるという未来は訪れない可能性もある。例えば、誰も死ななかったら全員死亡、とか。殺した人数が一番少ない人が死ぬ、とか。考えようと思えばいくらでもある。それは確かに、心配な点だ。
「ゲームマスターとの闘いになることを祈っとけ。能力が使えたら、助けてやる」
「頼もしー!」
目をキラキラさせながらキラーはそう言った。キラキラだけにキラーってか、はっは。何を言ってるんだ俺は。
「お互い死なないように頑張ろうな?」
「はい!頑張りましょう!」
この果てしないデスゲームは、まだまだ続くらしい。