わたくし、意外とうまくやれてるみたいです!
統括部での見極めという名で嫌がらせにも等しい行為を受けたわたくしですが、どうやら、統括部の仲間として認めていただけた様です!
とは言っても、後の三日間、『始春の宴』が始まるまでは、みなさま新人教育に裂くことができる余裕もなく、初日と同様のことぐらいしか出来なかったのですけれど…
それも、もう終わりです。
12時になれば、『始春の宴』の開催が、国王陛下により、宣言されます。そうすれば、貴族の若い男女にとっては、一大イベントの社交シーズンがやってくるのです!
皆様、やはり結婚、婚約に直結するようなイベントに力を入れたいためでしょうか、皆々様、溜め込まれた仕事を無理矢理この『始春の宴』の前にやっつけ仕事で、終わらせたり、今がチャンスとばかりに、仕事を前倒しで終わらせて地方や、国外へお渡りになったりと、本当、どこの部署もくっそ忙しくなるわけです!!
いえ、責めている訳ではないのですよ?
結婚をする気がない私といえども、淑女ではありますから、結婚の重要性は分かっておりますから。
ですが、一言言わせて下さい…
下らない案件をこちらに回してくるな!
統括部に集められるのは本来、国の方針に左右する重要案件、もしくは地方で起きた、不可解な現象や、疫病…そのようなものが集められ、それを評議にかけるか否かを判断するのが私達の仕事なのです!
食堂のメニュー改訂とか、
騎士団の匂いがきついとか、
ストレスからの文官の奇行だとか…
そんなことは、各部署で判断するべきでしょうが!!
わざわざこっちまで、上奏するな!!
各室長、仕事しろよ!!
ちなみに、処理する書類の7割はこういった案件で、適切な部署への差し戻しとなっているのが現状です。
前までなら、ボンクラ貴族が運んでいた書類ですが、私の存在が気に入らないのか、一昨日、全員が辞表を叩きつけてきやがりましたわ!
ジルヴェルト様は残念ですなどと言いながら満面の笑みで受理されておりました。
正直、手間は増えてしまいますが、わたくしの自由なハッピーライフのためには、とてもありがたいお申し出でした♩
そして、今、漸くそれが一旦終わるのです!
「アル君、それで最後になります。頑張って下さい」
「早く終わらせてよ、アル。……俺寝たいんだよね」
「…店は押さえてある。18時からで良いだろう」
「うん。さっすが、シルヴァ君!できる男は違うねー」
「……うるさい、ユリウス、頭に響く」
皆さん、もう寝たいのと、書類から解放されたいのと、思われていることがダダ漏れです。あのジルヴェルト様さえ、アル先輩の手元をハイライトを失った目でじっと見つめています。
「…終わった!!終わりました!!」
アル先輩の声に、疲れたように天井を仰ぎ見るもの、喜びから握り拳を振り上げる者、で統括部の中は二極化されました。
…私ですか?
私はもちろん、前者です、、、
「では、緊急のものはなさそうですので、書類を運びに行くのは明日にしましょう。それで良いですか、室長。」
「はい、大丈夫です。それでは皆さん、シルヴァが、店を予約してくれているようですから、16時くらいまで各々自由に……
本日の業務はこれで以上です」
その言葉と共に眠そうだった者達は、ゾンビのように立ち上がりゾロゾロと部屋から出ていった。やたら元気なユリウス先輩と引きずられて行ったアル先輩は食堂に向かうみたいだ。
「ジルヴェルト、貴方も少し休みなさい。酷い顔色ですよ?」
気が付けば部屋の中は、私とハイリス先輩、ジルヴェルト様だけになっていた。
「まだ、家の仕事が残っていますから。私は大丈夫です」
そう言ったジルヴェルト様の顔色は初日の時と比べてもいっそう酷くなっているように見えた。たぶん、あのチオビタに似た『魔法の劇薬』の影響もあるだろうけれど…
「大丈夫な人はそんな死人のような顔はしていません。……一時間たてば、起こしてあげますから、少しでも寝ておきなさい。」
ハイリス先輩は咎めるようでいながらも、心配の色が乗った声音でそう言って、ジルヴェルト様のインク瓶の蓋を取り上げてしまった。
諦めたように羽根ペンをおいたジルヴェルト様は仕方なさそうにため息をつく。
「リンデル君、すみませんが、そこの長椅子から本類をおろしてもらえますか?片付けなくていいので」
「わかりました。」
私は本という本で埋まりかけていた長椅子を発掘して、軽く埃を払った。ニコニコしながら長椅子に来るようにジルヴェルト様に伝えると、ノロノロとだけどこちらにやってきて、腰を下ろした。
「少し、失礼しますね」
「はい?」
嫌がられる前に、私はジルヴェルト様の瞼に手をかざして魔力を込めた。
疲労回復とまではいかなくても、負担軽減にはなるだろう。
「……ありがとうございます。これ、良いですね……」
そう言ってジルヴェルト様はこの数日で私が見たことがないくらい、穏やかな笑みを浮かべていた。
……確かにこんな風に笑っていると、先輩方の中で最年少というのも納得です……。色々と疑問に思うところはあるけれど…それは多分、まだ私が知るべきことじゃないはずだ。
「おや、ジルヴェルトだけずるいですね〜?良ければ私にもしていただけますか?」
「はい。大丈夫ですよ」
私は少し背伸びをしてハイリス先輩にも同様に治癒の魔法をかけた。
「…疲れが解けていくような、心地よい感覚ですね……。ありがとうございます、リンデル君。貴方も休んでくださいね」
ハイリス先輩は自分の目元を指差しながらそう言った。…きっと私にも薄くはない隈ができているのだろう。母様に見られたら大目玉間違いなしだ。
「はい。俺も休んできます。お疲れ様でした」
そう言って私も仮眠室に移ると、そこは思ったよりも混み合ってはいなかった。統括部の先輩達が死んだように眠っているのは見えるけれど…。
きっとそれ以外の皆さん自分の家に帰ったんだろう。夜の夜会に参加する方はその準備もあるだろうから…
わたくしですか?
勿論、参加する気も、したくもありません。
そもそも今は学術院を卒業した翌年。
成人するまでの間の一年間は蕾の時期と言われており、年頃の貴族の娘達が、自分を磨く時期らしく、よっぽど優れた方か、自信過剰の方しか夜会には参加することはない。
わたくしが参加しなくとも、大目玉をくらうことはないのです!
まぁ、自分磨きではなく、文官としてのスキル磨きをするつもりですしね…?
父様、母様。なんだかんだで、わたくし、この場所でやっていけそうですわ!花嫁姿ではなく、立派な文官として、わたくし殿方と肩を並べて見せますわ!