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わたくし、意外なことに試されていたようです!

【ジルヴェルト視点】


変わった新人。


それが私が新人に対して思ったことの全てでした。


今年もまたボンクラな貴族が増えるだけと思っていたというのに、彼女は良くも悪くも私の期待を斜め上に超えてくれました。


一応、これは彼が此処で働く力があるかを見るためのテストですから、私は実家である公爵家で嫌というほど聞かされたおかげで上達した毒のある言い回しで彼を刺激してみたり、まぁ直球に用無し発言したりしてみたというのに、彼は今までのボンクラ貴族とは違い、怒鳴りつけることもなければ、飲めば目がギンギンになる優れもの、『魔法の劇薬』をぶっかけてくるようなことはなく、それはそれはいい笑顔で眉間に青筋を浮かべていました。


これだけで既に私の好感度はそこそこあったのですが、面白かったのはその後からですね。


私に書籍の整理や、書類を分別する権利をかって出たかと思えば、終わればきちんと報告をしてくる。ここまで躾が出来ている新人も珍しいものです。


アルフレッドは、初めは私やこの部屋の空気感に怖気付いて隅っこでモジモジするか、掃除をするくらいしか出来ていませんでした。侯爵家の令息として躾を受けている筈の彼が、です。…まぁ、少し逃げ癖があるところはたまに傷ですけれど。


「失礼する。仕事は順調か、ジルヴェルト。」


おやおや、もうそんな時間でしたか。

約束の3時になったようで、害悪で使えないボンクラ貴族が帰ってきてしまいました。


帰ってこらっしゃらない方が仕事も捗りますし、この部屋の殺気が治るのですが…


「おや、お戻りでしたか。では、そちらの仕分けされた書類を各部署に届けたら、そのまま上がって頂いて構いませんよ。」


「そうか。いや、我らが室長は優秀で鼻が高い。」


「お陰で我々も手早く仕事ができるというもの」


ハァ…

お得意のゴマスリですか。あなた方が私を普段どう罵っていらっしゃるか、知らないわけがないというのに。


…大した仕事もしてないくせに抜け抜けと。

あなた方がやってることは、電車鳩と同じです。そこらの身寄りのない子を雇ってやらせた方が、世のため人のため。何より我々の心の平穏になるというのに。


「おい、新人!これを運ぶのを手伝え」


一人の貴族…

あぁ、何でしたっけ、名前。


まぁ良いです。

ボンクラ貴族その一が、新人君に高飛車にそう言いつけました。


一体、どうするでしょうか…

これも、試金石の一つですね。


「お断り致します!」


「なっ、何だと!?貴様、私が誰だか分かっているのか?!」


「いいえ?存じ上げませんよ?俺が知っているのは、この場で今私に指示権を持っているのはジルヴェルト様お一人だけです。あなた方はジルヴェルト様より偉いのですか?」


「貴様、バルドール殿に失礼だろう!!」


「失礼なのはそちらでは?自分の役目も理解せず、人に役目を押し付けようとする姿勢というのは、いかがなものでしょうか?」


「もう、いい!!行くぞ!!」


そう言って出て行ったボンクラ貴族どもがでていくなり、部屋中からは笑い声が溢れかえった。


「新人ちゃん、サイッコーに良かったよ〜!」


「ほんと、スッキリした!!やるじゃん」


「……お前、便利だな」


「ちょっと、サイモン君!その言い方はメッでしょ?」


「良いではありませんか。実際こんな新人がきてくれるなら本望です。……室長も答えは出ているのでは?」


ハイリスが意味ありげに笑みを浮かべながらそう尋ねてくる。他のみんなも同様だった。


「では、新人君。一つだけ、質問に答えてください」


「はい、何でしょうか?」


彼は、無邪気に思えるほどニコニコとした笑みでそう答える。……まぁ、怒ってるのは丸わかり何ですけどね。


「貴方の仕事の速さなら、書類を仕分けるだけでなく、運ぶまでできたはずです。それをしなかったのはなぜです?」


「だって嫌じゃないですか?あんな貴族達の仕事を片付けてやるなんて。俺、見くびられるのも、自分の価値下げるのも、大っ嫌いですから」


おやおや、前半の言葉は、意地悪モードだった私に対する嫌味でしょうか?

まあ、大っ嫌いだなんて、子供らしい表現で可愛らしいですけれど^_^


「お疲れ様でした。新人君、改めリンデル君。君を統括部の一員として歓迎します。」


私が立ち上がって拍手を送ると、リンデル君は呆気に取られた様に口を開いたまま固まった。


「良かったな〜!リンデル。お前なら大丈夫って思ってたよ!」


「アル先輩、これは…一体?」


「言ってあげたでしょ?三日間頑張れって…君の場合、半日だったけど」


「サイモン先輩…じゃあ、これって……」


「そう、君を試したってことさ。そして見事合格。」


「試されてたってことですかー!!俺、てっきり新人虐めかと…」


「ジルヴェルト、貴方が虐めるからですよ?こんなに警戒されちゃって…。まるで毛を逆立てた猫ではありませんか」


ハイリス…私より貴方の方が色々と酷いと思うのですが…


「ハイリス、貴方も言ってることが中々なのでは?…とはいえ、貴方を騙したこと。そして不毛な発言の数々。誠にすみません」


私がそうやって頭を下げると周りから大して嬉しくもない擁護が飛んでくる。


「……普段はちゃんとした奴だ。許してやってほしい」


「そうそう。真面目すぎて頑張りすぎるとこはたまに傷だけどね」


なんとも、嬉しくない言葉ばかりだ。

それに、ユリウスの言葉に覚えがないわけではないし…


色々と無理をして、ハイリスや、ユリウスに医務室へ運ばれたことも少なくはない。


「そもそも、ボンクラ達みたいなのがいるから行けねぇんだよな…。何度社会的に消そうと思ったか…」


「物騒ですよ、ベルトリヒト。…とまぁ、こんな訳です。貴方を試すような真似をした我々を許していただけますか?」


「はい!事情をご説明して頂きましたし、それによるメリットも分かりましたから、大丈夫です!初めは無茶苦茶イラつきましたけど…」


「はい。存じ上げております。満面の笑みに青筋が浮かんでいて実に面白かったですよ…?」


「………………やっぱりあなた様だけは許したくないかもです」


「えっ?」


「ジルヴェルト、今のは駄目ですよ?」


「うーん、ジルちゃん、そういうとこあるもんね〜」


一体何がダメだったというのでしょうか?


……人の心は、やっぱり理解するのが難しいようです。


----------------


「そう言えば、先程ユリウス先輩、室長をジルちゃんって…」


「あぁ、それね〜。実はジルちゃんね、あなたを除くとこの中で一番若いのよ?」


「えーっ?!どういうことですか?」


「ちなみに、統括部在籍日数で言うと、私に次いで2番目です。」


「…………お願いですから、皆さん、仕事をして下さい!!」





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