わたくし、文官になりとうございます!
「お父様、私、星別れをしとう御座います!」
その日、我が公爵家の館には、貴族にはあるまじき母の叫び声と、父の泣き崩れる声が鳴り響いた。
どうも始めまして!
私、最近あるあるの転生系のごく普通の女の子です!
前世は、とある有名製薬会社の開発員として働いていたんですけど…なかなかにブラックな職場でして…。
頑張って働き、頑張って作り上げた成果を上司に取られ、頑張って復讐してやろうと研究に明け暮れる日々を送っていると、気がつけば三途の川を渡っていたという訳です!
まぁ、高い給金に目が眩んだ自業自得ではあるんですけどね…
友人、恋人、趣味そっちのけで、仕事と結婚をしたような私ですが、こちら、中世のバリバリ貴族階級にぶっ込まれて思ったことがあります。
貴族めんどくせーー!
結婚めんどくせーー!!
てか、そんくらいなら働いて自立してぇ!!!
結婚するのまではまぁ良しとしましょう。ですが、この世界、好きな相手と結婚できるわけなんてありもせず…。政略結婚は当たり前。その癖、結婚すれば後継に家の采配。お茶会という名の時間の浪費。社交界という名の見栄の張り合い。
そんな奴隷で自由のない生活お断りです!
そのくらいなら、働いている方がやりがいのあるというもの!!
……別に、社畜根性になったわけじゃありませんよ?本当ですよ?
という訳でして、、、
冒頭の発言となった訳なんです。
あぁ、ちなみに星別れってのは、女性が修道院に入る、っていうのとおんなじ意味…つまり、一生独身を貫くっていうことです。
今も少なからず、そういう女性はいますけれど、そういう方は大体が魔法師として働かれている方ですね。…戦場に立つからには、恋など余計なものは要らぬ、…というのが彼女らの言い分なわけです。
…私ですか?
魔法師なんてなるわけないではありませんか。あんな死と隣り合わせな生活は御免です。それに、私の魔法性質は、非戦闘向けのものですから。
戦場に出れば真っ先に即死です。
「あぁ、リーシア。貴方ならいつかそういう日が来るとは思っていたけれど、まさか、成人の儀の前にそのようなことを言うなんて…」
ごめんなさい、母様…
私、自由が欲しいのです!
ついでに言えば、刺繍とか、ドレスとか、そういうものにも全く興味がないんです…
「リーシア、一体何が嫌なんだい?我が家は侯爵家。お前の年頃なら縁談を求める家は少なくない。どうしても、嫌なのかい?」
「はい!私、結婚などという面倒なことには毛ほどの興味もございません!ですので私が婿をとることもありませんので、お家の相続は妹に任せるか、養子でもとって下さいな」
私の自信満々の発言に、父や母はおろか、後ろに控える侍女達からもため息と呆れの空気が伝わってくる。
実際、私が婿を取らなくても、私の下にはアメリアという私とは正反対の可愛いもの大好き!華やかなもの大好き!イケメンウェルカム!っていう妹がいる。
ぶっちゃけ、妹なら喜んで婿どりしてくれそうだし、私みたいな口煩い姉がいなくなればせいせいするのではないだろうか…
「…ちなみに、お前は何の仕事がしたいんだ?[
「私、文官になりとうございます!!」
「リーシア、文官は男性のお仕事よ。私達、女子にできる仕事ではないわ」
「いいえ、お母様。文官が男の仕事というのは間違いでございます。建国規定書には、文官が男の仕事とは一言も書かれておりませんもの!」
「だが、リーシア。文官になるには、難しいテストに合格するか、貴族の推薦枠しか方法はない。当然、我がアルフォート家は、お前を推薦する気はないよ?」
私は待っていました!と言わんばかりに、後ろに控えていたサーシャに満面の笑みを向けると、サーシャは仕方なしとでもいうように箱に包まれた一巻きの紙を机に置いた。
「ご安心くださいませ、お父様!このリーシア、抜かりは御座いません!既にテストには合格しております!!」
「……」
「お父様?」
父は黙って天井を仰がれたまま何も仰りにはならなかった。…、?
わたくし、何かしましたっけ?
「…サーシャ、何故止めなかったのです?」
母は疲れたようにサーシャにそう問いただすと、サーシャも諦めたような声でそれに応える。
「お言葉ですが、奥様…。リーシア様が私の声一つで判断をお変えになると?テストを受けるためならばと、嬉々として男装をされるようなお方ですよ?」
二人とも、私の扱いが酷くはないだろうか?
そんなにじゃじゃ馬な訳じゃないのに…
「…、もう好きにしなさい」
「ありがとうございます、お父様!!心からお父様を敬愛しました!」
「いつもは、していないのですね、リーシア…」
母様の呟くような声に父はガックリと肩を落とした。
ごめんなさい、父様、母様。
でも、私、働きたいのです!