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一人称複数  作者: てこ/ひかり
幕間
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幕間

 解離性同一性障害(DID)……昔は多重人格障害と呼んだ……と聞くと、何だか小難しい(場合によっては胡散臭い)と感じるかもしれないが、何もそう複雑に考える必要はない。


 たとえばあなたは、嫌いな先生の授業を受ける時と、大好きな恋人といっしょにいる時と、同じ態度でいるだろうか?

 厄介な上司の相手をしている時と、家に帰って子供を前にしている時と、果たして同じ顔をしているだろうか?


 人は誰しも多面性を持っている。数時間経てば元通りになるものから、治療が必要なものまで、状況は多種多様である。心理学者のユングは人間が社会において、求められる役割を演じる機能を『ペルソナ』と呼んだ。


『ペルソナ』とは元々古代ローマやギリシャの演劇で使われた『仮面』のことだが、ユングに言わせれば、人は他人と接する時無意識に『仮面』を被り演技をしている……のだという。


 この『ペルソナ』にはアニマとアニムスというそれぞれ四つの段階があり、

アニマとは……男性の中にある女性的な元型

アニムスとは……女性の中にある男性的な元型

である。


 男らしさとか女らしさとか、もはや死語になりつつあるのかもしれないが、要するに「あのオッサン、時々乙女チックよね、ウフフ!」とか、「あのオバさん、時々少年っぽいよなあ、ガハハ!」ということである(ユングがそう言っているのである)。男性の中には無意識に女性的な性格(ユングがそう言っている)が、女性の中には無意識に男性的な性格ユングがそうが潜んでいる。気難しい顔をしたあの上司の心の中にも、いたいけな少女が住んでいるのだと思うと、ほほ笑ましいものである。


 この、意識上の人格と正反対に位置する無意識の人格を、ユングは『シャドウ』と名付けた。『ペルソナ』は善なる自分で、『シャドウ』は悪なる自分とも言える。


『ペルソナ』が道徳的であれば、『シャドウ』は背徳的で。


 几帳面であれば、いい加減で。

 お調子者であれば、生真面目で。

 楽観的であれば、悲観的で。

 のんびり屋であれば、せっかちで。

 豪奢であれば、吝嗇で。

 鷹揚であれば、臆病で。

 慎重であれば、軽薄で。

 陽キャであれば、陰キャである。


 自分が他人からこう見られたい! というのが『ペルソナ』で、隠したい部分が『シャドウ』とも言えよう。ではこの『シャドウ』が悪者なのか? 敵なのか? と言われると決してそうではなく、どちらも欠かせない『本当の自分』である。


 隠と陽、光と闇、正と負……両方とも持つことで人は上手く心のバランスを取っている(少し脱線するが、これは西洋的な『二元論』の考え方で、日本では心と体は二つで一つ……『心身一元論』を取っている場合が多い。心が病めば体も悪くなる……病は気から……と言った考え方である)。まぁつまり、何事も偏り過ぎるのは良くない。


 誰だって自分の嫌な部分など認めたくないものである。だがもし『シャドウ』を否定してしまうと、他人への嫌悪や攻撃(心理学的には「投影」と呼ぶ)が始まる。心理学的に言えば、あなたが「絶対に許せない」と思うような人には、実はあなたにもそういう面がある。いい加減な人が嫌いなのは、あなた自身、心の何処かにいい加減な部分があるから……である。


 だから子供の頃から「しっかり者」として育てられ(そう期待され)てきた人は、大抵「いい加減な人」が嫌いになる。自分はそういう甘えは許されていない(いなかった)のに、何でアイツだけ……と心の防衛本能が働くのである。自分の中の『シャドウ』を認めれば、そういった感情も徐々に消えていくのだが……。


 人は誰しも多面性を持っている。


 弱い自分を否定し、

 愛されない自分を抑圧し、

 見られたくない自分を切り離し、

 隠したい自分を無かったものにするとどうなるのだろうか?


 あるいは強い自分を演じ続け、

 理想の自分だけを愛し、

 偽りの仮面を被り続けるとどうなるのだろうか?


 影は形に沿う。


 ところで、あなたの影は今、どんな形をしているだろうか?

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