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聖女を召喚したはずなのに  作者: しんた☆
3/30

3 サイト―の手仕事

魔法のあるお話って、どうしてイケメンが多いんでしょうねぇ。というわけで、サイト―さんは、イケメンではありません。あしからず。w

「失礼いたします。こちらがサイト―様が作られたワガシでございます。サイト―様、大変申し訳ございませんが、あまりにも美しかったので、こちらの濃い色の皿の方が映えるのではないかと、勝手をさせていただきました。」

「ああ、そうそう!こういう器に乗せたかったんですよ。いやぁ、ありがとう。」

「恐縮です。」


 料理長とサイト―のやりとりを聞きながらも、和菓子から目が離せないガブリエルだった。ほのかな色使い、繊細な細工、食べてしまうのが惜しいと感じるほどの出来栄えだ。手元のナイフを入れると、すっと受け入れる。ちらりとサイト―に目をやると、嬉しそうな瞳と目が合った。疲れた中年男だと思っていたが、こんな生き生きした表情もできるのか。そんなことを思いながらフォークで口に運ぶと、爽やかな柑橘の香りと程よい甘さが口の中に広がって、思わず目を見開いた。


「お口に合いましたでしょうか?」

「いや、口に合うどころではない!このような上品な甘さと香りは今まで体験したことがない。素晴らしい!これを貴殿が作ったのか?」

「ええ、元の世界では職人をしておりました。」


 照れ臭そうな男を、改めて見直したガブリエルだった。気が付くと、手元の和菓子はすっかりなくなっている。


 その時、慌ただしい羽音を立てて半透明な小鳥がガブリエルの元にやってきた。ガブリエルが手を伸ばすと、小鳥ははらりと手紙に姿を変える。


「ダニエル!フォエムジットの森に大型の魔物が出た。緊急招集だ。すぐに出る!サイト―殿、お相手できず、すまない。ダニエル、後を頼んだ。」


 そういうと、上着を運ぶダニエルから慌ただしく奪い取った。そして、舞う様に身にまとうと、すぐに魔方陣を展開し、うなじで結んだ銀髪の端がキラリと光って姿を消してしまった。

 


 フォエムジットの森は、国内でも特に瘴気が溜まりやすい森で、常に弱い魔物が発生し続けている。そのため、魔術師団のメンバーが交代で対応にあたっているのだが、今回の様に大型の魔物がでると、すぐに招集が掛かる。


「マルセル、状況を説明してくれ」

「師団長!召喚者の方を放っておいていいんですか?」

「ああ、彼なら大丈夫だ。」


 どちらかというと慎重派の師団長がこんな短期間で信頼を置くことに、マルセルは驚いた。しかし、今は目の前の魔物退治だ。二人は話しながらもどんどん森の奥へと進んでいく。


「いつもの弱い魔物の中から最近中程度の魔物が現われ始めていたんですが、大型が発生したと前線にいるリュカから連絡が来たのです。」

「それで、リュカからの続報はないのか?」

「それが、応答がなくて…。」


 ガブリエルの眉がぎゅっと寄る。マルセルがそれを見て、小さく頷いた。


「まずいな。急ごう!」


 二人は足を速め、森へと突入していった。奥に行くほど瘴気が濃くなり、息がしづらくなる。途中、リュカと逸れた団員たちが合流し、そろそろかと思っていたところで、目の前の茂みで悲鳴が上がった。


「リュカ!」


 副団長のマルセルが駆け出すと、木々をかき分け、目の前に巨大な魔物が現われた。


「に、逃げてください!!」


 リュカは魔物の手に握られたまま、ありったけの力で声をあげた。


「そ、そんな…。」


 マルセルが怖気づいたその隙に、ガブリエルは氷の魔法で巨大な魔物に攻撃を仕掛けた。


「マリネ・ドラ・グラッセ!」


 魔物の足に放たれた氷の槍はその足首に刺さり、そこからメキメキと広がって魔物の体を覆い始めた。魔物がそれに気を取られている隙に、マルセルが枝を渡ってリュカを助け出す。


「す、すごい!あんな魔物をたった一撃で!」

「やっぱり師団長はすごいな。」


 周りから一気に歓声が上がった。その熱気とは裏腹に、驚いたように自分の手のひらを見つめるガブリエルに、マルセルが声を掛けた。


「どうされました?」

「いや、なんでもない。」


 しかし、ガブリエルは明らかに動揺していた。先ほどの魔法は、あんな風に全身に広がるほどの物ではない。では、どうしてこんなに強化されているのだ。戸惑いを周りの歓声が消し去っていく。魔術師団は一旦王宮に戻り、解散となった。師団長が国王に報告に行くと、国王からは数日間の休暇という報償が言い渡された。

 その日はそのまま王宮で過ごし、翌日、やっとタウンハウスに帰ってくると、邸宅の中がすっかり変わっていた。


「こ、これは一体…」

「旦那様、おかえりなさいませ。」


 ダニエルをはじめ、使用人たちが笑顔で迎えるその邸宅は、まるで新築の様に美しかったのだ。執事がそっと耳打ちするには、昨晩、ガブリエルが出かけた後、サイト―がみなにも和菓子を振舞ったという。それを味わった者たちは、力がみなぎる感覚を覚え、何かしたいという気持ちが、このような邸宅へと結びついたという。ガブリエルはすぐにサイト―を呼び出し、面会してみたが、相変わらずののんびりぶりだ。


「ああ、お帰りでしたか公爵様。お疲れ様です。」

「サイト―殿。単刀直入に聞くが、貴殿は魔法が使えるのか?それとも、何か違う力を持っているのか?」

「へ?魔法?」


 声を裏返して驚くサイト―の様子に、どうやら自覚がない事は見て取れた。しかし、これほどの体力強化、精神強化ができるとなると、本人の攻撃力が気になる。聖女召喚で呼び寄せられた人物だ。何か隠された力があるのかもしれない。師団長の胸に希望の灯が光り出す。


「すまないが、近々王宮に戻って、少し貴殿の実力を調べさせてもらいたい」

「え?実力?」


 ガブリエルの言葉に、サイト―が困惑したのは言うまでもない。


 数日後、王宮魔術師団長は、数人の部下とサイト―と共に近隣の森にテントを張って合宿をしていた。この森は、弱小の魔物ぐらいしかでないので、比較的安全な場所だ。

 夜が明けて、すがすがしい空気が立ち込める森の中を、中年男が駆け抜けてゆく。


「た、たすけてくれー!はぁ、はぁ、な、なんで俺がこんな目にー!!」


 息も絶え絶えの男は、最期の力を振り絞って野営テントに飛び込んだ。


「サイト―殿!どうされた?」

「助けてくれ。変な奴が襲い掛かってきたんだ。」

「魔物か?!」


 言うが早いか、すぐさまテントを飛び出したガブリエルは、抜刀と同時に数体を退治した。このところ、必ず朝食にサイト―の和菓子を食べているからか、ガブリエルはもはや敵なしの状態だ。


「ふぅ。もう大丈夫だ。それにしても、どうして一人で森に入ったんだ?」

「いやぁ、ちょっと顔を洗おうと思ってね。水の流れる音がしたから、小川でもあるのかと思っていってみたんですよ。そうしたら、いきなりなまこみたいなやつが足に吸いついて、払いのけようとしたら、今度は大き目のトカゲみたいなやつが襲い掛かってきたんだ。いやぁ、恐ろしい。」

「それは、コムコンドレとリザーだな。この森の魔獣は小型だから大丈夫だが、コムコンドレは吸いつかれると倒れるまで血を吸いつくすんだ。リザーも大きい物になると、火を吐く。気を付けてくれ。」


 へたり込んで息を整えていた中年男が「ひええ」と情けない声を出して、団員たちの笑いを誘った。それを横目で見ながら、マルセルが耳打ちする。


「師団長。やはり彼に攻撃は無理ではないでしょうか。」

「そうだなぁ。コムコンドレの小型を生け捕りにして、どこまで攻撃できるかやってもらおうかと思っているのだがなぁ。」

「ちょっと、攻撃ってどういうことですか?俺は、魔法も使えないし、皆さんのように掌から氷や炎は出せませんよ?」


 慌てて会話に加わったサイト―が情けない顔で訴える。その時、朝食の用意が出来たと調理班から声がかかった。


「じゃあ、俺のこのパンに何か魔法をかけてみてくださいよ。」


 マルセルが自分のパンを差し出して言った。サイト―は困った様子でガブリエルに目をやると、ガブリエルはサイト―の手を取って真剣な様子で説明した。


「サイト―殿、目を瞑って魔力の流れを感じ取ってくれ。それを応用したら簡単だ。行くぞ。」

「え?え?…」


 戸惑いながらじっと目を閉じているサイト―に、師団長が問いかける。


「どうだ?魔力の流れを感じられたか?」

「ええっと、アランプール殿の手のひらがあったかで汗ばんでいるのは分かったが…。」


 その返事にその場にいたみんなは一斉に肩を落とした。


「汗ばんでいて悪かったな。では、さっきのマルセルのパンに炎で焦げ目をつけるイメージで魔力を当てて見てくれ。」

「こうかなぁ」


 じっとパンを見つめているが、変化はない。


「はぁ、もう無理なんじゃないか?俺にはそんな力はないんだよ。」

「う~ん、ダメか。仕方がない、一旦王宮に戻ろう。」


読んでくださってありがとうございます。

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