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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第2部 一緒に過ごす彼女はインクレディブル篇
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第8章:奏でられる御神体の音ー007ー

 あははは、と流花(るか)ばかりでなく、今度は(かえで)も一緒だった。

 二人の少女が立てる笑い声に、マテオはむくれ気味だ。


「あの冴闇夕夜(さえやみ ゆうや)っていうヤツは、どうなってんだよ。あいつの態度を間に受けて怒ったことがバカみたいじゃないか」

「そうだねー、まったく冴闇のお兄さんはよくわかんなーい」


 笑いを滲ませた流花に、あらあらと楓が指摘する。


「マテオと流花の考えが一緒になるなんてあるのね。笑えるわ〜」

「おいおい楓、どんどん遠慮なくなってきたな」 

「当たり前じゃない。もう流花がいなくなるって覚悟を決めてた。それがこうしてマテオまでいて、まだ続くなんてテンション上がるわよ」


 言い切ってから楓は本音をさらしたことに気がついたようで、ぷいっと横を向く。もし屍人の身体でなければ、頬が赤くなっていたかもしれない。

 楓ちゃん……、と流花は感激気味だが、マテオはニヤニヤするまま言う。



「なんだ、楓。かわいいところもあるんだな」


 きっと睨みつけた楓は立てた人差し指をからかう相手へ向けた。


「マテオ! なーんも空気を読まない言動ぶりは『白銀の冴闇夕夜』って呼ぶわよ」

「お、おい。冴闇と一緒だけはやめてくれっ」  


 意外に動揺してしまったマテオに、流花はくすくす笑う。


「楓ちゃんの文学的表現に、流花、感動した」

「やめろ、流花まで。あの冴闇と似ているなんてだけは我慢できない」


 本人が意識する以上に真面目な口調であった。

 おかげでマテオは「そんなに笑うな」と言うくらい、流花と楓が声を立てていた。


「これであと、まこちゃんがいてくれたならなぁ〜」


 ふと洩らす流花の少し残念そうな声だ。

 するとマテオが何でもないように指摘する。


「じきに来るんじゃないか。マコトは僕専用の対策要員みたいなもんだろ、これで来られる理由が出来たじゃないか」

「来るかな?」

「なんかしら理由をつけてきそうな気がするぞ」


 そっかー、そうだね、との流花に、「それにな」とマテオが駄目押す。


「もし来なかったら、僕からリーに要請をかける。マコトを寄越せって。敵だろうがなんだろうが打てそうな手ならなんでもだ。なり振り構っていられない」


 マテオは斬殺した鬼どもへ目を向ける。

 たった二体だ。にも関わらず、刃はもう役に立たない。愛用する短剣では相手とする数が限られてしまう。

 しかもマテオ自身の体調も完璧からは程遠い。


「三ヶ月だ。三ヶ月しのげば、父上たちが流花たちを連れ去られないような手立てをつけてくれるはずだ。それまで逃げ切るぞ」


 白銀の前髪から覗くグレーの瞳が放つ眼光は鋭い。

 美の極致と屍人に近しい身体といった少女のコンピは揃って頷いた。

 特に楓の方が両手を握り締める気合いぶりだ。


「すごく希望が見えてきた。流花と最後の三ヶ月になるかもしれないし、気合い入れなきゃね」


 楓ちゃん……、と流花が呟く横で、組んだ両手を後頭部に当ててマテオが口を開く。


「あ、それだけどな。楓も流花と一緒に行けよ。母上は大歓迎だぞ。もちろん姉さんも」

「えっ? あたし、ゾンビなんだけど」

「正確にはゾンビみたいなもんだろ。楓は自分の特異性をずいぶん気にしているみたいだけれども、僕からすれば冴闇のほうがよっぽどヤバい特異性だ」


 ぷっと噴き出すは流花だった。

 向けられた当人もまた続いて笑いをこぼす。


「おまえたち、笑ってばかりだな〜」


 マテオがこぼす愚痴めいた声だった。

 だからだろう。

 少女たちの笑い声は軽やかに公園へ転がっていく。

 少し前まで気持ちが蒼い影に象られていただけに、込み上げてくる感情を抑えきれないようだ。


 流花と楓の笑顔にマテオも嬉しいが、ここは気を引き締める意味で厳しい顔つきをした。


「いいか、二人とも。鬼の連中もウォーカー家が早々に立て直してくるのは予想しているはずだ。仕掛けは直ぐにでもあると思ったほうがいい。不本意だけど冴闇ビルで合流の約束している。さっそく、行くぞ」


 不本意なんだ、と流花が微笑みつつ頷いている。

 そうね、と楓のほうは緩んだ態度を消していた。

 行こう、とマテオが促した。


 その時だ。


 りん、と鳴った。

 微かな、けれども深く染み渡る手振り鐘のような響きだ。

 歩きだしたマテオたちのいずれも当初は気にしていなかった。


 りん……りん……りん……りん……りん……りん……。


 止むことを知らぬかのように鳴り続ける。

 まるで周囲一帯を覆う響きへ変わっていく。


「なんだ、この音」


 さすがに無視できなくなったマテオに、はっとした流花が呟く。


「御神体の鐘……」

「なんだよ、そのゴシンタイって」


 訊いたマテオだけでなく、楓も解答を求める顔を向けていた。


祁邑(きむら)本家代々を祭る社に奉納された手持ちの鐘を思い出す音だよ、これ」

「流花。おまえ、その鐘の音を聴いたこと、あるのか」

「うん。本家に引き取られてから、しばらくしてからかな。お祖父さんが流花を一人きりにして鳴らしてきた。一度きりだったし、なんにもなかったから、すっかり忘れてたけど」

「今、鳴っている音がそれを思い出させるんだな」


 マテオの確認に、「うん」と流花が返事した。


 楓も含めた三人は抑えきれない胸のざわつきを覚える。


 急ぐぞ、とマテオが焦燥に駆られるまま号令をかけた時だ。

 嫌な予感は現実だと知らされた。


 地を揺るがす巨大な爆発音が湧き上がる。

 震源地は確認するまでもない。

 マテオたちが目指していた場所から発生していた。

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