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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第2部 一緒に過ごす彼女はインクレディブル篇
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第8章:奏でられる御神体の音ー006ー

 あははは、と公園に響き渡る流花(るか)の笑い声だ。

 ここずっと暗かったから、マテオの気分は悪くない。けれども良いとまでなっていない。


「流花、わかってんだろな。おまえのアニキ、めちゃくちゃやってんだぞ」

「わかってる、わかってるぅ〜。でも冴闇(さえやみ)のお兄さんらしすぎで止まんない」

「いつもあんな調子なのかよっ!」


 憤慨と呆れを混ぜるマテオに、(かえで)が深く頷いている。


「冴闇夕夜は、ものすごーく大変なヤツよ。マテオなんか、まだイイほうだから」

「あれでマシなんて、おかしいだろ」


 流花と楓が顔を見合わせて笑っている。

 さすがに今度は引っかかるマテオだ。大変だったんだぞー、と力説を追加せずにいられない。


「だけど、ありがとう、マテオ。流花、嬉しいよ」


 流花が楓から顔を振り向けてくる。

 絶世の美少女の輝かせる顔立ちは大抵の者を卒倒されるだろう。 

 マテオといえば、仏頂面だ。


「しょうがないだろっ。襲撃の挙句、卑怯者! ときたら僕だって意地になる」

「冴闇のお兄さん、ムチャクチャだから大変だったんじゃなーい?」


 おかしそうな流花に、「そこはわかってんだな」とマテオは腕を組んだ。


 襲撃してきた夕夜(ゆうや)曰く、このまま帰国しようとするマテオが許せないらしい。

 大事な祁邑(きむら)の三姉妹である。

 陽乃(ひの)は夕夜が、悠羽(うれう)には奈薙(だいち)が付いている。が、流花にはマテオがいなくなったらいないでないか。一緒にいてあげるべきなのに、とくる。


「言っておくがな、冴闇。僕と流花はそういった仲ではないからな。第一、冴闇ほどの能力者がいれば大丈夫じゃないか」

「マテオの、そういう考え方が卑怯というのだ。本心では気になっているだろ、流花さんは自分が守らなければと思っているだろ」


 マテオからすれば夕夜という人物は、コイツは〜である。

 勝手に決めつけるな、と言いたいし、口にしづらい本音まで指摘しないで欲しい。

 いくら隠そうとも鬼の襲来に怯え震えている流花の姿が離れない。

 鬼の花嫁などと、体のいい表現を使用しているが、要は能力を所有する一族における保身にすぎない。一般社会と切り離された特殊性を理由に、一人の少女の人生を取り上げる話しだ。

 流花と知り合ってしまった現在である。

 力なき者を一方的に踏みにじる連中は許せない。

 それがマテオの原点だった。


 だから冴闇がである。

 ともかく祁邑三姉妹の安全を計るために、一つでも多く腕利きの手駒が欲しい。特に流花を担当させられる信頼の篤い人物はマテオだ。なのに帰国しようなんて、卑怯も甚だしい。

 以上、手前勝手な言種であっても考えさせられてしまう。


 実際、心を動かされていた。  

 そして現在、公園で流花と楓の前にいる。


「あーあ、けっこうな代物だったんだけどな。もう刃が駄目になってるよ」


 マテオは血を振り払った短剣を目の前で眺める。

 鬼は二体だった。

 斬り捨てたのは、たかがの数だ。

 だがすでに次の相手には有効とならないほど刃がガタガタときている。


「なんて固い身体してんだよ」


 誰ともなしに呟いたマテオの名を流花が呼ぶ。なんだよ、と返したら美少女がいつになく真剣な顔で訊いてくる。


「マテオ。本当に残って良かったの? お母さんやお姉さんは反対しなかった?」


 刃こぼれした短剣に目を寄せたマテオは、素気なく答える。


「流花が気にすることじゃねーよ」

「気にするに決まってじゃん!」


 語気の強さに、楓が「流花……」とかけたほどだ。

 マテオもまた放っておくわけにはいかない。

 口調より目に浮かぶものを認めたからだ。

 流花の瞳が濡れだしている。

 マテオは頭をかきながら言う。


「僕は五歳の時に姉さんにした後悔を、もう二度としたくない。それで解ってもらった」


 もちろんその節は、姉のアイラが泣いた。

 下手すればこれで今生の別れとなるような窮地へ、たった一人の弟を置いていく。類が及ばないよう『ウォーカー家』の籍を外して欲しいまで言われては堪えきれない。

 こんな想いをするためあの時に命を懸けて守ろうとしたわけじゃない、とまで訴えられた。

 母のソフィーから口添えがなければ、どうなっていたか解らない。

 決心したものの姉の対処に困り果てているマテオへ告げる。


「三ヶ月……、そう三ヶ月しのいで欲しいの。それまでには協会自体は無理でもウォーカーに連なる誰かを動けるようにする。マテオを、マテオが守りたいものの力添えになる体制を、この街へ寄越せるだけの状況を整えてみせるわ」


 お願いします、と頭を下げかけたマテオの肩が柔らかな腕によって力強く巻かれた。ソフィーに抱きすくめられた。


「私も辛かった時にケヴィンがいてくれたからこそなの。だから息子の決断は誇りでもある。だけどね、本当は連れて帰りたい。お願い、無事でいて、マテオ」


 母上……、と腕に抱かれるなかで呼ぶマテオの声は震えた。

 涙を振り払いアイラが指差してきた。


「いーいっ! マテオの命はお姉ちゃんのためにあるんだからね。勝手に無くすのダメだから、絶対に」

「はい。僕の命は姉さんのためにあることをお約束します」


 青空へ吸い込まれそうな大きな泣き声が立った。

 マテオにとって血が繋がっていようがなかろうが関係ない母と姉から……ではない。

 ぎゃん泣きしている者は、黒づくめの青年であった。  


「こんなに想ってくれる母や姉と別れて街に残るなんて、酷すぎないか」 


 夕夜が目元を腕で押さえては涙声を振り絞ってくる。


 こいつ〜、と今度こそマテオは文句の口火を切った。

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