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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第2部 一緒に過ごす彼女はインクレディブル篇
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第7章:破滅の女神ー002ー

 ご機嫌なソフィーの行動は早かった。

 さぁ、行くわよ、と号令をかけてくる。

 はい、行きましょう、と返事する者はいない。


「ちょ、ちょっと、待ってください。そんな急に、母上、無茶です」


 慌てるマテオに、ソフィーは泰然としていた。


「大丈夫よ。ここへ来る前に、冴闇(さえやみ)さん宅には連絡するようアーロンに伝えてあるから」


 どうやら病院を訪れる以前から、流花(るか)を連れていく気満々だったようではないか。マテオの女性関係なんて、本当はどうでも良かったに違いない。

 母上の気紛れには困ったもんだ、とマテオが渋い顔になったところへである。


「お母さま、こちらへいらしたのですか。私、空港まで行って待ってたんですよー」


 ぶうぶうといった感じでアイラが入室してきた。


 実にいいタイミングで姉が入ってくれば、マテオはさっそくだ。

 母ソフィーが流花を引き取って本国へ連れていくと言い出していることを伝えた。

 もう無茶ですよ、とするマテオの締めに、アイラはである。


「マテオも男の子なんだから、覚悟を決めなさい」

「どんな覚悟を、ですか?」


 何を言い出すんだとするマテオへ、アイラは呆れたように両腕を広げては首を横に振った。


「きちんと本国の教育機関に通って勉学に励み、いずれ迎え入れる女性に応えられるだけの、教養を積んだ立派な成人男性へなるために決まっているじゃない」

「それって、僕に家へ帰れと言ってます?」

「いきなり外国で暮らすとなって、流花ちゃんも不安でしょ。うちで引き取るって言うんだから、マテオが一緒にいってあげなさいよ」


 姉さん、とマテオは声低く呼んでからだ。


「僕の代わりに逢魔街(おうまがい)へ残ろうなんて、考えていませんよね」

「やーねー、そんなこと、考えるわけないじゃない。でもぉ〜、逢魔街支部としてはマテオの穴埋めが必要だというなら仕方がないわー」


 そうじゃないですかとマテオが言い返す前に、ソフィーが強い口調で白銀の双子へ言い渡す。


「なに言ってるの。アイラもマテオも帰るのよ。流花ちゃんの新しい生活を支えてあげなさい。まったく、この子たちったら」


 どうもソフィーは自分たちを養子にしてから引き取り嗜好を強めている。そう見たマテオは、取り敢えず肝心の流花へ目を向けた。当人そっちのけで話しが進んでいる。

 声をかけるまでもなかった。様子を見れば、流花自身の是非など確認するまでもなかった。

 マテオとしては、しょうがなかった。

 逢魔街のPAOを追うはずが、首魁であるリーと通じた現在だ。以前よりだいぶ復讐心が削がれてしまっている。ここにきて当初の目的に対する執着心が薄れていること否めない。

 学校なんて行きたくねーなー、といった大したことない不満があるくらいだ。


「流花ちゃん。うちに来るからって、マテオに気を遣わなくていいのよ。八股でもいいなんて言う男は捨てて、心から良いと思った相手を見つけてね」

「そうそう。サミューもサミューよ。何が俺は五人だったなんて、偉そーに言ってさ。ウォーカー家の男って最低よー」


 ソフィーの気遣いに見せかけての心情吐露と、アイラがどさくさで為すディスりだ。

 あはは、と流花の困ったような笑顔だ。

 ここで何か言ったら百倍になって返ってくるに違いなければ、マテオは黙るしかない。


「それじゃ、お姉さんは陽乃(ひの)さんで良かったかしら? 今からご挨拶へお伺いしましょう。どうやら先方も承諾したみたい」 

 

 ソフィーがスマホを見ながらの言葉である。

 流花に若干の緊張を見とったマテオが言う。


「母上。別にわざわざ挨拶など行かなくもいいのではありませんか。少し落ち着いてから、また行くという話しではダメですかね」

「私たち能力者は、明日もある前提は危険よ。会える時に会っておかないと、後悔することに成りかねないわ」


 ソフィーの何か想いを馳せるような響きだ。


 マテオだけでなく、流花もまた腑に落ちた表情となった。

 忙しいまま準備を整えるなか、流花が傍にいる楓とマコトへ囁いた。流花、行くね、と。

 頷き返す(かえで)とマコトは微笑を浮かべている。


 マテオの目には二人の笑顔がとても寂しそうに映ってならなかった。

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