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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第2部 一緒に過ごす彼女はインクレディブル篇

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第7章:破滅の女神ー001ー

 ため息だけでなく頭まで抱えてしまう。

 マテオの苦悩は深い。だから母上ソフィーに同行していたオリバーへぶつかるしかない。


「なんでいきなり連れてきたんだよ。問題が大きくなるじゃねーか」


 マテオとアイラが正式にケヴィンとソフィーの夫婦に養子縁組されるまで、やたら絡んでくる嫌なヤツだった。いつも着ている白シャツが似合いながらも、どこか嫌味ったらしい節がつきまとう。つまり個人的感情と現在の立場を利用して、やつ当たりをかましたわけだ。


 ウォーカー一族に連なる者であるはずのオリバーもまた、いい感じの泣き調でくる。


「しょうがないだろ〜、誰がソフィー様を抑えられるんだよ。それに俺だって、あの女医がいる病院なんか来たくなかったよ〜」


 異能力世界協会の逢魔街(おうまがい)支部が、瑚華(こなは)を連れ出すため騙す形を取ったことがある。お詫びとして、オリバーを差し出すこととなった。瑚華も自由に弄べるおもちゃとして受け入れた。

 これで手打ちとなって良かった良かったとなった。

 一人だけ犠牲とされたオリバーへ瑚華から何をされたか訊いても答えはなかった。

 マテオに限らず誰の質問にも青ざめて震えるばかりである。

 オリバーがすっかり精彩を欠いているのは、瑚華がいる病院にいるせいだろう。


 マテオとしても、いきなりには困った。  

 リーから来訪の情報は得ていたものの、まさかこんなに早くなどと考えていなかった。それに第一である。


「病院はよく母上を通しましたね」


 面会時間以外における突如の訪問が許されるはずはない。どう考えてもセキュリティを突破してだろう。また病院というか瑚華に対する詫びとして、オリバーを差し出さなければならないようだ。

 それで手打ちになるよな、と考えていたマテオへ流花(るか)から離れないソフィーが顔だけ向けてきた。


「マテオ、ちゃんと勉強してる?」

「母上、それでは答えになっていません」


 答えより先にベッド左脇にいるジャージ姿のすらりとしたマコトが向かう。


「あなた、マテオの母親だけではすまないよ、何者ね」

「あら、ついつい流花ちゃんが凄すぎて気づけなかったけれど、この娘たちもかなりだわ」


 答えに……、とマコトもまた不満を述べようとした。

 その前だ。

 マテオ! とソフィーがひときわ大きく厳しい口調をもって呼ぶ。

 は、はい、とマテオは期せずして背筋を正した。

 ソフィーはもう一度「マテオ」と呼んでからだ。


「決して良いお母さんだと思わないから、多少の素行不良は仕方がないと思うことにしています。けれどね、お母さんだって女! 一人の女性として言わせてちょうだいっ」


 なんだか嫌な予感しかないマテオだが、ここは「はい」と素直に頷いておく。

 頷いてまずかったと後になって反省だ。ここは流花から『神々の黄昏の会』について知っていることを聞き出すのを優先すべきだったような気がしてならない。


「別にね、結婚する前のことまで、あれこれ言う気はないの。ケヴィンが女性関係が派手だったなんて、誰もが知るところだったから、いいの」


 おいおいっ、とマテオは内心でツッコむ。

 どう考えても教育的ではなく自分語りではないか。義理といえ昔の所業を息子に聞かせるなんてどうなんでしょうと考えるが、まだまだ止まりそうもない。

 ソフィーは流花をかき抱く腕へさらに力を込めながらである。


「でもね、嘘はいけないわ。私と結婚する時に『同時は三人までだ』なんて言ってたくせにケヴィンったら、本当は八人だったのよー。信じられるー。一週間は七日しかないのに八人じゃ、一日一人でも足りないじゃない」


 マテオにはよく解らない計算法だが、思う内を口にすればだ。


「まぁ、母上、落ち着いてください。別に三人だろうが八人だろうが大した変わりはないと、僕は考えます」


 空気の質と流れが一転した。

 緊張から嫌悪に変わった視線が、ベッドからマテオへなだれ込んでくる。

 ソフィーだけではない。

 ソフィーの腕から覗く流花に、両脇にいる楓とマコトも同様な目つきをしている。

 それはまずいだろ、とオリバーが小さく呟いている。

 まずかったかな、と反省のマテオだが黙っているわけにもいかない。


「母上。僕の見解が誤りだった点は認めますが、そもそもどうして父上の若き日の派手な女性関係について言及しだしたんです?」

「それはマテオが男として、ケヴィンやサミューと同じ道を歩んでいるなんて耐えられなくなったからに決まってます」


 断言されても、マテオは困る。

 そう、母のソフィーは完全に誤解している。


「僕はまだ女性とお付き合いしたことはありません」


 きっぱり告げた。告げなければ、とんでもないことになりそうだ。

 けれどもマテオの強い意志も、相手は強敵だった。

 ソフィーは流花をさらに強く抱き締めながらだ。


「マテオは我が家の男の血が濃いこと、よぉーく解りました」


 血は繋がっていないんだけどなぁ、と思っても口にする無神経さは、さすがのマテオでも持っていない。何より続いて為されたソフィーの提言に驚かされて、それどころではなくなった。


「流花ちゃんに対する責任は、マテオに代わって母が果たします。これから我が家で一緒に暮らしましょう」


 はっ? と病室にいる誰もがなった。

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