第6章:知らぬは弟ばかりー006ー
真意を探る。
リーの言う通り、マテオもまず連中がどう考えているか確かめる行動をしたい。
『神々の黄昏の会』惑星エネルギーを元とする能力を持つ者たちで構成されている。万物根源素と呼ばれる力を源として駆使する姿は、神の御業であると畏怖さえされている。能力とされるものの中でも、他とは一線を画すチカラだった。
「二人はおかしいと思わないかい。神などとされるほどの能力を持つ者が、この狭い国土の、しかも逢魔街だけに集中している。他国では考えられないことだ」
マテオもリーが挙げた疑念に触発された。
国というより大陸単位で数名いるかどうかとされる神とされる能力者である。
北米ではケヴィンとサミュエル父子の二人と『水』を扱う者がいると噂されている。人数としては三人いるかもしれないといった具合であり、他の地域も変わりない。世界の総数で十指に余る程度とされていた。
逢魔街は、すでに七人を揃えている。
「ただ自分はなぜ逢魔街が神とされる能力者の人数が突出しているかへ目を向ける気はない。存在する事実を受け入れて、どういった者たちなのか、探っていきたい。なにせ彼らの経歴は隈なく抹消されていて、調査の手を及ぼしようがないんだ。本人たちへ直接いくしかない」
マテオはリーに感心してしまう。
別に普通というか、下手すれば少し下に見そうになっていた『神々の黄昏の会』の連中だった。だけど敵の調査とする側だけあって冷静に基づく判断力が窺えた。
「しかも神とされる能力が、いくら強力な『鬼』とはいえ『変化系』にすぎないとされる只の能力に敗北した。これはインパクトが大きい」
『光』と『雷』に『火』と『氷』が鬼たちと交渉の場で決裂し、戦闘になった。神の能力とされた攻撃は、変化した鬼にせいぜいかすり傷を付けるが精一杯であったらしい。結局は神々とされる側が、『東の鬼』を統べる祁邑の翁へ出奔した孫娘の引き渡しに協力する条件で助命となった。
「だがその後、自分にはどうも腑に落ちない結果が続いている。マテオから病院を襲撃した鬼の顛末を聞けば、神と鬼における実力差がよくわからなくなってきている」
リーの指摘は、マテオを思うところだ。
鬼どもは神の力とされる能力者を打ち破った余勢を駆ってだろう。祁邑姉妹を取り戻すべく実力行使に打って出てきた。
次女の流花はマテオと楓、そしてPAOのマコトによって切り抜けた。
長女の陽乃と末女の悠羽は、『風』の夕夜が撃退した。後から駆けつけた『地』の奈薙から話しを聞けば、鬼の姿のままバラバラにしたらしい。なかなか死なないよう、嬲り殺しであったようだ。
以上を教える奈薙もまた遭遇した一体の鬼を首ごと捻り潰していた。
病院では瑚華を襲うこととなった鬼どもは『金』の道輝に退けられている。黄金の彫像を通じる硬直は金の粉で目や口に限らず皮膚全体が覆われ窒息死させられた結果だった。
『神々の黄昏の会』において、敗北を喫したメンバーから引いて残る三人は圧倒的だ。しかも鬼側が敗者に寛容を見せたに対し、神側とされる者たちは容赦なしである。同胞の敗北など意に介さない非情さであった。
俺はロリコンなのか、と相談してくる奈薙の場面がマテオの頭を過ぎていく。あれも神なんだよな〜、と何とも言えない気分になっていく。
「彼ら『神々の黄昏の会』の実態など、そう容易く判明するものではないだろうが、一枚岩ではないような気はする。ここが鬼と対抗するための、下手すれば唯一の希望になるかもしれない」
マテオの脳裏に、夕夜の姿が浮かぶ。
黒づくめの青年は浮世離れした普段からは想像できない家庭的な生活を営み中だ。赤ん坊還りした悠羽をあやしながら陽乃と仲良くやっている。
そうなると、もうしばらくは流花に気を払わねば、と思う。
「マテオ、怪我の具合はどうなんだい?」
リーに訊かれれば、素直に痛み止めに頼る状況を伝えた。少し以前なら自分の容態など敵へ教えなかっただろう。
「これはあくまで勘に近い話しなんだが、『光』の新冶。彼は本当に鬼に敵わなかったのだろうか、と疑っている。神を入れた名を冠した会のメンバー間に実力差が生じているかもしれないが、相当な実力者に違いないはずだし、穏やかな結果を望むような殊勝な人物でもない」
殊勝かどうかなんてリーに言われてもなぁ〜、と思わず口に吐いて出たマテオだ。
「それは言わない約束とするところではないかな」
答えるリーの半分だけ曝す顔が柔らかい。
そうかワルイ、と返すマテオにも笑みが溢れていた。
「マテオを半身不随にしようとした相手だからというわけでもないが、新冶の動向は注視した方が良さそうだ。自分も何か解り次第に報告をする」
協力関係が築けたようで、マテオにとって心強い。
まだ姉のアイラは疑念がわだかまっていそうな様子である。連絡先にと、自ら名乗り出るマテオであった。
鬼どもと対抗するため『神々の黄昏の会』は重要な鍵となるだろう。
マテオ自身、負傷でいつも通りの能力発現といかない事情もある。
まずは実態調査だ。
病院に戻ってから、時間の頃合いを見て廊下へ出た。
少し先に『風』の夕夜と短期間とはいえ、一つ屋根の下で暮らした人物がいる。
ドアを叩きながら「僕だー」と告げれば、「開いてるよー」と流花らしい返事だ。
病室で開いているとする返事はどうなんだ? と思いつつ中へ入ればである。
ベッドで上体を起こした流花と両脇を分け合う楓とマコトの姿があった。
おぅ、とマテオが挨拶をかけて気がついた。
病室にいた三人の視線は、自分ではなく背後へ向いている。
なんだ、と振り返ろうとする横を通り過ぎていく。
「まぁ、かわいい〜」
嬌声をもって、母上ことソフィー・ウォーカーが流花に抱きついていた。




