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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第2部 一緒に過ごす彼女はインクレディブル篇
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第6章:知らぬは弟ばかりー005ー

 いちおうである。

 結局マテオは連絡をつけた。

 母となってくれたソフィーに、姉がやって来ていることを伝えた。

 前回と違って、母上は落ち着いた態度だ。ともかく考える時間を与えて欲しいと言われれば、マテオは様子見しかない。


「難しいものだ。身内であるがゆえに気を遣って知らされない事柄がいろいろ発生するようだね」


 リーの気遣いが友達ならともかく敵の首魁によってという事態が、マテオを情けない気分にさせる。


「いやでも僕はずっと姉さんと過ごしてきておきながら、これっぽちも気づけなかった」

「こっちは敵の内情を探る過程で知り得たことだ。ほめられたものじゃない」


 ジョークの調子も混じっていれば、ついマテオをウケてしまう。こっちも笑って応じようとしたくらいである。

 いきなりアイラが抱きついてきたから、対応はそっちに追われてしまった。


「お姉ちゃん、嬉しいー。マテオったらこの頃すっかり冷たくなったから、もう一緒にお風呂へ入ることもないんだと思ってたー」

「そういうところがあるから、離れたほうがいいって思ったんです。お風呂どころか手をつないで歩くことさえ、もうありません」


 ええ! と驚くアイラだが、マテオは追求の手を緩めなかった。


「迂闊でした。すっかり姉さんは学園生活においていじめに近い扱いを受けて悩んでいると考えてしまいました。だけど、そんなタマじゃなかったです」

「なんか、マテオ。ひどくない」

「ならば教えてください、姉さん。プロポーズされているって、どういうことですか」

「あれ、マテオったら妬いてる?」


 なんだか嬉しそうなアイラだが、マテオは眉間を寄せたままだ。


「僕が心配しているのは、血の繋がらない兄上の存在です。命懸けで姉さんを守ったことをお忘れですか」


 アイラの顔色は瞬間湯沸かし器のごときだ。蒸気を立てそうな赤さとなる。

「も、も、も、もちろんよ。だからサミューには悪いな、と思うの」


 マテオを守ったら、とウォーカー家の長男であるサミュエルとアイラの間で交わされた約束事があったようだ。はっきり内容を確認したわけではないが聞くまでもない。

 その約束は先だって果たされた。

 マテオとしては、義兄でもあるサミュエルに好感を抱いている。姉を取られる寂しさがないとすれば嘘だ。だけどサミュエルがいるからアイラから離れようと決断できた部分だってある。

 いい男だ、と思う。

 だがイイ男として見る異性の目は数多い。モテる特性にかこつけての生活を送ってきた我が義兄だ。マテオと世間の評価は結びつかない。

 況してや、教育する立場の両親からすれば尚更だろう。


 マテオは、ふと思いついた懸念を口にした。


「ところで姉さん。兄上としていた約束は誰にも話していませんよね」


 黙られてしまった。

 答えを得たに等しければ、マテオはきつい口調で詰問をする。


「姉さん、話しましたね。いったいどこで言ってしまったのですか」

「……家のリビングで……お父様の退院祝いの時に……」


 思わずマテオは手のひらで額を覆いつつ宙を仰いだ。

 最悪だ。

 アイラのおずおずとした口調で、その様子を報せてくる。


 アイラの料理に生死をさまよった父のケヴィンが退院した日の夕食は、一家団欒となった。遠くにいるマテオを想いながら、家族の誰もが上機嫌だ。いつも喧嘩ばかりの父と息子のサミュエルでさえ、笑顔である。

 終始続くと思ってしまったことが落とし穴だった。

 グラス片手にケヴィンがにこやかに訊く。我が娘は男子から大変な人気があるみたいで、父親としては心配になっているよ、と。

 そこでアイラが、ぽろりと溢したらしい。

 娘として安心させたくて、義兄と交わした約束を笑いながら軽く打ち明けた。


 空気は一変した。

 ガタッと音が立つほど椅子から勢いよく立ち上がったケヴィンが告げる。


「キサマのようなふしだらな男に、かわいいかわいい我が娘をやるものか。アイラの純情にかこつけてモノにしようなど、恥を知れ、恥を!」


 久々のアルコールが良くなかったかもしれない。軽く酔うケヴィンの突然なる激昂だ。

 無論、息子のサミュエルがおとなしく聞くはずもない。


「ふしだらなんて、バカ親父がよく言うな。俺は知っているぞ、どれだけの女性と同時に関係を持っていたか。両手じゃ、足りないんだってな」


 アイラが止めるのも叶わず、結局は父子の喧嘩が大っぴらに展開されることと相成ったが、このたびは殴り合いですまなかった。

 こともあろうにケヴィンが大人げなく学園に持つ影響力を利用した。異能力世界協会の最高責任者及び複数の会社を経営する身分が、生徒たちにまで声を届けるよう手配する。

 ケヴィンは学園生に訴える。アイラだけを真剣に愛する者はいないか、と。


 説明を聞いたマテオは、あんぐり口を開けた。なんて低レベルな。とても自分の前で見せる姿とはあまりにかけ離れた父上の姿だった。

 頭を抱えたくなったが、ともかくまずは確認だ。


「あのー、父上が女性関係が激しかった話しを聞かされた母上はどうでしたか?」

「怒ってる」


 一言ゆえに、事態の深刻さを物語っている。

 マテオは連絡の取り合う際、ここのところの両親や兄の不自然さを理解できたような気がする。たぶん派手にやり合うため、取り敢えずアイラを出したというわけか。


 コホンとわざとらしい咳が起こった。

 リーは困った場合に起こす動作らしい。 

 事の原因である白銀の髪をした双子の姉と弟は気まずそうだ。


「今日来てもらった本題へ入る前に、やはり教えておくとするよ。敵の動向に敏感だからこそ知り得た情報をね」


 アイラとマテオに異存はない。なんでしょう、と双子揃って口にせずとも表情で現す。


「キミたちの母親であるソフィー・ウォーカーが空港を飛び立ったそうだ。どうやら目的地は逢魔街らしい」


 リーの情報に、白銀の髪の双子はうろたえずにいられなかった。


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