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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第2部 一緒に過ごす彼女はインクレディブル篇
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第5章:青い月の下の素顔ー004ー

 まったくと言っていいほど、予想だにしなかったことだ。


 リー・バーネットは手を顔へ持っていく。

 白黒の仮面を自ら外す。

 月によって青く照らされる素顔に、マテオを始めとする観客者一同は息を呑んだ。


「これで伊達や酔狂で仮面を付けていたわけじゃないことを解ってもらえたかな」


 仮面を片手にリーが微笑む。

 微笑んだ、と知らせるは顔の半分によってである。

 残りの半分に、表情はない。

 まるで抉られたかのような醜い傷跡が、顔の半分が表現を不能としている。 


 だがマテオと、そしてアイラを真の意味で衝撃を与えた点は別にあった。

 動揺を隠せないマテオが訊く。


「おまえ、いくつなんだ」


 リーの半分だけ留めた顔の原型からは、少年の面影が強く窺える。ずっと年上と思い込んでいたが、これは……。


「マテオやアイラ。キミたちと同年だ」

「うそ、うそ言わないでよ。じゃ、なに? 私たちを殺し合いの場へ放り込んだ時は、あんたも五歳になるじゃない!」


 思わず叫んだアイラに、「ああ」とリーは落ち着き払っている。


「確かに以前、能力者の強さを選別して売り払う事業を展開していたようだ。『フリークスの食卓』などと呼称していたみたいだが、ある一件で失敗して以来たびたび妨害されるようになってしまった」


 リーが本来の目と崩れた顔半分に備えられた義眼で、マテオとアイラの『白銀の双子』を捉える。微笑は消えていた。


「マテオとアイラ。キミたちは、大きな勘違いをしている」


 唐突な振りに、白銀の双子は戸惑いを隠せない。

 けれども姉と弟では温度差があった。

 な、なによっ、とアイラは敵慨心を表していく。

 マテオは得体の知れなかった予感によって息を詰める。

 白銀の髪をした姉弟の射抜くような視線を受け止めて、リーは報せた。


「キミたちが呼ぶ『PAO』なる組織が、いつまでも人員構成を変えないままだと思うかい?」

「それは子供だった僕たちに殺し合いをさせたヤツとリーは違うってことか」


 重要ごとすぎて、マテオは無意識のうちに声が潜まる。

 そうだよ、とリーが肯定してからだ。


「キミたちが実の親に売られて殺し合いをさせられたくらいの時期だ。自分の家族が能力者によって惨殺されたのはね」


 失礼するよ、とリーは手にした仮面を上げた。再び装着した後に、話しの続きを開始した。


 リーの両親は公明正大な人格者だったらしい。周囲から信頼も厚く、また親切でもあった。地域で評判の良き家庭だった。

 突如、押し入ってきた者の理由は一つではないだろう。ただし妬みや嫉みといった心理が端を発してはいたようである。幸福そうな人間が憎い、という類いである。

 だが凶行へ至った原因は、能力の所有が大きかったに違いない。

 手にした物質に熱を帯びさせる能力の男が、リーの家を襲撃した。武器とした鉄パイプは灼熱の棍棒となって、父の命を奪う。それから残る家族へ向かう。


「今でも忘れられないよ。犯されながらも必死に子供たちの命乞いをする母の前で、自分の幼き兄妹が殴られ焼け爛れていくさまは。今でも目を閉じれば毎晩に渡って見る景色さ」


 聞く誰もが声を失うなか、マテオだけは怯むことなく視線と声を向けた。


「リーがここまで生きてこられたのは、能力者に対する復讐だったわけか」

「やっぱりマテオは興味深い。普通は復讐の原因を指摘できても、生きてこられた理由にまで結びつけはしない」


 白黒の仮面越しでもリーの満足げな様子が伝わってくる。

 そうか、と腑に落ちたようなマテオへ、申し訳なさそうに届けられてきた。


「マテオの意見はある一部分において正解かもしれないが、大きなところで違う」

「復讐が主じゃないってことか」

「確かに復讐は動機の一つだが、ここまで昇り詰めた一番の理由は自分が許せなかったことにある」


 許せなかった? とするマテオの返しに、白黒仮面を付けた顔がゆっくり縦に落とされた。


「初めは両親と兄妹を殺した能力者を、この手で復讐したいだった。けれどもしばらく時間が経つにつれ、思った。どうして助けられなかった、なんで自分はこんなに無力なんだろう、と」

「でも小ちゃかったんだから、しょうがないじゃん」


 流花(るか)の思わずといった声に、白黒仮面の首が激しく横へ振られた。


「それまで幸福に暮らしてきただけの五歳児が、凶漢になにが出来るものじゃないと解ってはいる。それでも考えるんだ。せめてもう少し腕力なり何なりあれば、例え自分が死んでも下の弟と妹は助かったかもしれない。相手の一撃に吹っ飛ばされたおかげ生き長らえた自分の弱さが許せない」


 マテオ、と白黒の仮面を付けたリーが呼ぶ。

 なんだ、とマテオが答えればである。


「キミなら解るだろう。子供だったからなんて理由で自分をなぐさめられない。強く、強くならなければとする気持ちは」


 マテオは答えなかったが、胸が痛くなるほど解る。

 姉を、アイラを守れるだけの力が欲しかった。あまりに不甲斐ない自分のせいで、不幸を招きかねなかった。ケヴィン・ウォーカーという幸運がなければ、立場を変えたリー・バーネットそのものになっていたかもしれない。


 不意に、アイラがマテオの前へやってきた。リーに立ち塞がったとも解釈できる姿だった。右手にした短剣をくるくる回しながらである。


「なかなか感動を呼びそうな話しだったけれど、真実とするにはあんたの組織がやってきた残虐な行為を、私はずっと見てきたから。言いたいこと、わかるわよね」


 手の中で曲芸にも似た回転する短剣が動きを止め、刃に白黒仮面を付けた姿を反射させていた。

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