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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第2部 一緒に過ごす彼女はインクレディブル篇
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第4章:素顔と素直に喜べない来訪者ー004ー

 疑問より、またか! とする気持ちが強かった。

 なにしに……、とマテオが呼びかけたのを無視してである。


流花(るか)ちゃーん、(かえで)ちゃーん、お久しぶりー」


 姉のアイラは名前を呼んだ二人に駆け寄っていく。

 流花だけでなく、楓さえ歓迎の態度であれば、三人の女子できゃいきゃい始めていた。


 しょうがなくマテオはここまで運んでくれた恩人へ解説する。


「マコト、あれは僕の……」

「言われなくても、さすがにわかるね。ついさっき話題で盛り上がったばかりだし、事前に調査済みでもあるね」


 そうだよな、とマテオが納得顔で返す。

 PAO(パオ)の宿敵として『白銀の双子(シルベリーツインズ)』の異名まで付いたマテオとアイラの姉弟である。敵組織の強者が頭に叩き込んでいないわけがない。


「ところであの方は、だれ〜」


 話題にされていると露知らずのアイラが紹介を明るく求めていた。


「まこちゃんでーす。お友達になりましたー」


 流花が能天気に答える横で、「あたしは違うけど」とぼそり呟く楓であった。


 アイラがマテオたちへ小走りで向かってくる。


「すみませーん。まこちゃんでしたっけ。怪我したマテオがお世話になったみたいで、ありがとうございます」

「あれっ、姉さん、解っていたんですか?」

「バカにしないでよー。何があったか知らないけどー、負傷したせいで弟がおぶわれているって、それくらい、わかりますぅー」


 つい口許が緩みかけたマテオだったが、次の瞬間だ。


 アイラの姿がかき消えた。

 一瞬の間もなく、姉の白銀の髪がマテオの目前で揺れている。

 アイラが手にした短剣をマコトの顎に当てていた。


「マテオを人質に取ったつもり?」


 瞬速の発現で懐に飛び込むと同時に発せられたドスの効いた声だ。

 慌てたのはマテオだった。


「姉さん、違います」

「なにが違うのよ。リーとか言ったっけ? そいつに付いていた女じゃない、こいつ」

「よく解りましたね、姉さん」

「わかるわよ。髪型といい、身体のシルエットといい、あの時のまんまじゃない」


 凄いな、姉さん、とマテオの偽りない感心に、「そ、そーお」と満更でもないアイラである。さらに流花の訴えが効果的だった。


「お願いです、お姉さん。まこちゃんは流花の友達になってくれたんです」


 アイラは顎に当てていた刃を降ろした。


「あらら、ずいぶんあっさりしたものだね」


 からかうような調子のマコトに、アイラは短剣をくるくると回しながらである。


「どうやら洗脳されているわけではない弟と、あの流花ちゃんの頼みだもの。信じて聞くしかないでしょ」

「そうか、そうなんだね。やっぱり良いお姉ちゃんなんだね」


 おだてたって何も出ないわよ、とアイラが言う傍で、マコトはマテオを背中から降ろす。

 ふらっとするマテオにアイラが肩を貸すまで身体を支えたマコトだった。


「それじゃ、いくね」


 マコトが背を向ければ、流花が叫ぶ。


「まこちゃん、どこ行くのっ」

「まこちゃん、実は敵対組織に忠実な強い人。一緒にはいられないね」

「そんなの関係ない。まこちゃんは、まこちゃん。流花のお友達になってくれないの?」

「流花はいい娘だね。だから、まこちゃん、傍にいちゃいけないなんて思ってしまうね」


 がっくりと肩を落とす流花だ。

 しょうがねーな、とマテオが乗り出す。


「おい、マコト。いいのかよ、僕を放っておいて、ボスに言われているんだろ、近くにいて守れって」

「単なる気まぐれかもしれないね。うちのボス、まこちゃんにはけっこう気楽に指令だすからね」


 素直じゃねーな、とマテオははっきり口にした。流花が付けた『まこちゃん』の呼び名をマコト自身が連呼している。気に入ったのは名の響きよりも付けてくれた人であるくらい解っている。

 うむむ、と唸るマコトが惑っているは明白だ。

 あーもう、と楓が堪えきれないといった調子でマコトへ突っかかっていく。


「あんた、マコトって言ったわね。なに、あたしらの会話をボスにでも流している最中なのっ」

「そんなことしないね。ただマテオを守れって言われた来ただけね。本当よ」

「だったら、流花が一緒にいようと言っていて、肝心のマテオもいいって言ってくれているんだから、いいじゃない。あたしらって……」


 しばし言葉を置いた楓が、ぽつりと言う。


「あたしらって、明日も一緒にいられるかどうかなんてわからないじゃない」


 楓……と思わずマテオは口にしたし、楓ちゃん……と流花も名前を呼んだ。


「あたし、ゾンビもどきになってから、見送ってばかり。もう誰かを見送るなんてしたくなくて、付き合いは一切やめていた。流花がしつこく来てくれなかったら、あたしは実家だった廃屋に閉じこもっていた」


 楓が流花に近づいて、その手をそっと取る。


「やっぱり誰か……友達と一緒は楽しい。マコトだって、そう感じたんでしょ。命令の関係じゃない、友達として手を取ってくれた流花に気持ちが動いたんでしょ」

「……そうなのかもしれないけれど、けれどね。まこちゃんはPAOの一員。いつ流花やマテオ、楓に仇なすかわからないね」 

「だから、あたしは言ってるの。明日はわからないから、今を大切にしたい。正直に言えば、マコトは油断なんて出来ない相手だけど、流花がいいって言うんだからいいとするんじゃない」


 楓ちゃーん、と流花は名を呼んだ相手に抱きついていく。

 ゾンビでも小柄な楓は、ぎゅっとされれば身動きならない。


「ちょ、ちょっと、流花、強い。あたしまだマコトには油断できないって言ってるでしょ。マテオだって怪我しているから……」


 むーりー、と流花が返すところへ、マコトがやってきた。


「まこちゃん、楓とも話したくなってきたあるね。明日は敵かもしれないけれど、今晩は仲良しでいたい、そう思うね」


 言い終わったマコトの腕が取られた。流花などに力負けなどするはずもなかったが、引かれるまま素直に従う。

 流花は楓とマコトを腕の中にした。


 すごくいい顔だ、とマテオが思う。少し羨ましいくらいだ。


「ステキー、ステキだわー。三人がさまざまな立場を乗り越えて分かりあう、これが熱い友情なのよね」


 目を潤ませながらアイラが叫ぶ。

 姉の様子に、マテオは申し訳ないと思いつつである。

 なんというか、いいシーンに水を差すキャストにしか見えない。せっかくの感動を台無しにしそうなカリカチュアな感激ぶりである。


「姉さん、なんかありました?」


 なんだかんだ姉想いのマテオだから、取り敢えず訊いてみる。

 アイラの返答は、取り敢えずで済むものではなかった。

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