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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第2部 一緒に過ごす彼女はインクレディブル篇
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第4章:素顔と素直に喜べない来訪者ー002ー

 出来れば一気に決めて欲しいところだ。

 丸太を思わせる鬼の首でさえ力づくで捩じ折るMAKOTOは光り輝いている。残るは一人というべきか、一匹とすべきか。流花(るか)を拐いに来た鬼のもう片方は退けられている。


 だがマテオだけでなく(かえで)も期待した思惑は外された。


 あららら、とMAKOTO自身が驚くほど早く発光が収まっていく。みるみる黒のウェットスーツを思わせる服装姿へ戻っていく。


「初めてやってみたけれど、ぜんぜん保たないね。みんなの期待、裏切っちゃったみたいで悪いね」


 まったくだ、と答えそうになったマテオを押し退けて流花が感激を口にした。


「ううん、すごい、凄いよ、まこちゃん。カッコ良かった」

「喜んでくれる流花のために、これ『まこちゃんパワー』と名付けるね」


 わーい、と喜ぶ流花に、今度はマテオがである。


「ヘンテコな命名なんかより、どう切り抜けるか考えるぞ」

「マテオはつまらない男だね。流花が苦労しているの、目に見えるようだね」


 イヤ〜な顔をして言うMAKOTOに、苦労してんのはこっちだよ、と返したい言葉を飲み込んだマテオだ。言い争っている場合じゃない。直面する事態について考えるよう切り出した張本人でもある。

 生かして帰さぬと迫ってくる鬼もいた。


 楓! マコト! とマテオは低くも鋭く呼ぶ。

 なに? とくる楓はいいとして、問題はマコトだった。マテオもまこちゃんで呼ぶね、とくる。

 呼ぶか! と即答のマテオは本来の意図を口にした。


「僕が鬼をやり合うから、楓とマコトで流花を連れていけ」


 指示した二人が了解の返事をするなかで、流花が上げた。


「マテオはっ、マテオは本当に大丈夫なの」

「なんだよ、急に。誰か運ぶのはきついけど、一人なら何とかなる」

「ウソっ! すごく痛いでしょ。本当は立っているだけでも辛いでしょ」


 マテオとしては、やれやれである。空気を読んで、黙っていて欲しかった。痛みは堪えているつもりだが、流花の能力の前では隠せない。


「えっ、そうなの?」「あらら〜、それはまずいあるね」


 楓とマコトもまた心配する様子に、マテオの希望としてはである。

 どっちか賛同して欲しかった。状況が逼迫しているだけに、マテオを信じましょう、とくることを望んでいた。しかし無ければ「僕のことなんか気にせず行けよ」と自ら言うハメに陥ってしまう。

 やだっ! と流花に即座に拒否される始末となる。


 我がままな女には付き合いきれないとばかりマテオは、楓とマコトへ視線を移す。


「さっさとやるぞ。他の鬼が気づいて、こっちへ来る前に……」


 マテオが話しの途中でやめたのは、もはや遅かったからだ。

 四方八方から聞こえてくる足音が、やがてツノを生やした八体の巨躯へ形を為した。

 首を折られて絶命している一体を目にすれば、状況を悟ったのだろう。残った一体が事のあらましを説明していれば、いきり立った空気が漂うようだ。


 本当にまずい状況になってしまった。

 マテオは流花の指摘通り痛みが酷くなっている。少し頭がぼぅとするくらい光の矢に貫かれた右腕と両脚がズキズキ全身へ鳴り響かせてくる。どうこうなど構ってはいられなかった。


「マコトっ。流花を連れて真上へ行けるな。鬼どもは僕と楓で引き付ける。いいな、楓っ」


 しょうがないわね、と楓も意義なしの返答だ。

 ほほぉ〜、としたマコトが訊く。


「マテオも楓も、まこちゃんを信じるというのだね。流花みたく」

「そこまで僕も楓も信じちゃいないよ。事態が事態だし、信用できるって言う流花を信じてみるだけだ」


 マテオの返答が終わった途端だった。

 迫る鬼が思わず足を止めるほど、大笑いが湧き起こった。

 発声の源はマコトである。涙を流さんばかりに大声で笑っていた。 

 

「おもしろい、実におもしろい人物だね、マテオは。うちのボスが気にかけるの、よくわかるね」

「僕からすれば、なにがそんなに可笑しいんだかだよ。第一、敵対するヤツにウケても喜べるわけないだろ」


 うんうん、と頷いたマコトがいきなりだ。


「まこちゃんが何を目的として、いきなりマテオたちの前へ現れたか、知りたくないかね」

「別に、後でいいぞ」


 マテオのすげない反応に、マコトが強くくる。


「そう言わず、聞くね」

「マコトさ〜、こんな時にそんな話しはいいよ」


 じりっと距離を詰めてくる鬼たちを見据えるマテオのもっともな返しだ。


「いやいやいや、こういう時だからこそ、話すべきだね」

「わかったから、さっさと話せ。そして流花を頼んだぞ」


 マテオ、と呼ぶ流花の声は悲痛で象られている。

 流花、お願い、と楓もまた説得の言を投げる。

 マコトは言われた通りに話し出す。


「まこちゃん、うちのボスに言われたね。マテオを守れ、なんだね」


 マテオからすれば「なんで?」しか返答の言葉は浮かばない。


「理由は知らないね。まこちゃん、ただの一兵卒。たぶんマテオに良くも悪くも興味が湧いたかね、と推測するがせいぜいあるね」

「じゃー、流花を連れて逃げろ。出来るよな」

「いや、それではマテオを守れないね。まこちゃん、ボスに怒られるの巻になるね」


 おまえ、いい加減に……、とマテオは言いかけた際に気がついた。

 だから改めて訊く。


「マコト。力を貸すは本気なんだな」

「ようやく信じてくれるようだね。取り敢えず、この場はまこちゃんとその一味に任せるがよろしだね」


 マテオは信じて任せるしかなかった。


 いくね、とするマコトの合図と共に夜空を埋める無数の人影。そのいずれもが白黒の仮面を顔としていた。

 鬼たちと白黒仮面の機械人形(オートマータ)たち。両方を相手に切り抜けられるとは、さすがにマテオも思わない。マテオたちを守るため、とする話しを信じるしかなかった。


 白黒仮面の機械人形が鬼たちへ立ち向かっていく。


 数日前には考えられなかった展開を見守るしか、マテオたちが切り抜けられる選択肢はなかった。


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