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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第2部 一緒に過ごす彼女はインクレディブル篇
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第3章:悩ましき大男ー005ー

 不意にベランダに続く窓から風が入ってきた。


 熱弁を振るおうとしていたマテオを止めるのに充分な異変が舞い込んでくる。誰だ! と叫びそうになる前だった。


 窓のカーテンを剥いで現れた。

 白黒の仮面を付けた人物だ。

 長い髪が揺らいでいる。

 PAO(パオ)の首魁であるリー・バーネットを守護する者として常に帯同していた女性と見受けられた。


 いつものマテオなら、有無を言わず攻撃をしていただろう。


 今回まず反応を示した者は、ロリコンかと悩んでいた人物だった。


「きっさまー、あの時のおかしな集団の一人だな」


 叫ぶ奈薙(だいち)は拳を振り上げていた。

 かつて砂場で遊ぶ悠羽(うれう)を襲撃した白黒仮面の集団を、マテオと奈薙は退けた。その節において、毒矢を射たれた奈薙は生死の境を彷徨った。再会と同時に臨戦体制に入るは止む無しではある。


 白黒の仮面を付けた女性は、右手のひらを見せて止めるポーズを取った。


「待つね、私は提案しにきた。アンタたちに悪い話しじゃないね」  

「知るか、そんな話し!」


 奈薙らしく相手などお構いなしだ。

 殴りかかっていくところを、マテオが間へ入った。


「待て待て待て、奈薙」

「どけ! なぜ、おまえが止める。マテオにとって仇敵なのだろう」

「もちろんPAOは潰すつもりだけれども、属する人間の殲滅まで狙っているわけじゃない。それにこいつは僕たちの所へ、一人で飛び込んできた。だろ?」


 マテオが問えば、白黒仮面の女性はうなずいては答える。


「そこは信用してもらうしかないが、ワタシ一人で来た。他には誰もいないね」


 信じられるか! と奈薙は吼える。


 まあまあ、とマテオはPAOを前にしながら穏やかである。


「僕からすれば連中の方からやって来られるのは有り難い、といった思惑もあるけれど、それより前に……」

「それより前に、なんだ?」

「ボクん家で、奈薙とPAOの強敵が戦闘を開始されたら敵わない」


 うぐぐ、と唸るほかない奈薙だ。

 まだマテオたちの部屋だけならいいが、マンションごと破壊する可能性を秘めている。止むを得ない状況ならともかく、人や建物が密集する場所で暮らす者としては配慮したい。逢魔ヶ刻をすぎて、一息を吐く夜の時間帯でもある。

 わかった、と奈薙は了承したものの眼光鋭く迫る。


「傍迷惑は俺も好まないから、話しを聞いてやろう。だがな、そんな気味の悪いマスクをかけたヤツの話しなど、端から信用する気はない」

「確か、奈薙と言ったかね。おまえの言うことは、もっともだね」


 闖入者はそう答えたかと思うと、白黒の仮面へ手を付けた。

 まさか、と誰もが驚くほどあっさり実行された。

 仮面が外され、素顔が曝される。


「かわいいー」


 この場における第一声は、流花(るか)の能天気な響きだ。

 しかもである。


「そ、そうかね。よく綺麗は言われるけど、かわいいは初めてだよ」


 相手も謙虚と言い難い内容ながら、照れて見せてくる。

 長い髪に大きめの瞳に、すっきりした鼻梁は本人の談の通り美人系だ。年頃合いもマテオたちと、そう変わらないような感じがする。

 PAOの首魁を守護してきた女性であれば、ちょっと意外な印象を与えてくる。


「ねぇーねぇー、名前はなんて言うの」


 慣れ慣れしくぐいぐいいく流花を、押し留めたくなるマテオだ。

 ただ白黒仮面を外した女性はノリが良かった。


「かわいいと言われて嬉しいワタシは名前ないんだね。だから呼ぶならコードネーム『MAKOTO』だね」

「まことかー、じゃあ『まこちゃん』だね。私のことは流花って呼んでね」

「いいのか、ワタシなんかが、いきなり流花なんて呼んで」

「ぜんぜんだよー。これからよろしくね、まこちゃん」


 握手して嬉しそうなのは流花だけでなくMAKOTOもだ。

 お、おい、と呼びかけたいマテオである。

 こっちはそっちのけで、あれよあれよの間に仲良しへ至っているではないか。 マテオでさえ唖然だから、奈薙など呆然である。

 黙っていられずは、(かえで)であった。


「ちょ、ちょっと、流花ー。そんな簡単でいいの。こいつら、あたしらを襲ってきた連中なのよ」

「今まではそうだったかもしれないけれど、事情が変わったね」


 握手を終えたMAKOTOが、改めてマテオと楓、奈薙へ向き直る。


「流花の故郷である『東』が、どうやら本格的に侵攻してくるみたいだね。まずは逢魔街(おうまがい)を手始めにしたいようであるね」

「手始めってことは、他の地域も狙っているってことか?」


 マテオの疑問に、MAKOTOは軽く頷く。


「『東』に隣接する『北』と『中』に交渉とは言い難い使者を送って、少し騒がしくなってきているよ」

「ずいぶん強気になったもんだな」

「それだけ悠羽のチカラが恐ろしかったということだね。なにせ触れば砂に変えられてしまうでは、鬼の能力では束になっても敵わないからね。けれど今となっては障害が取り除かれたわけだからね」


 ここで奈薙が声を上げた。


「鬼どもはナメているようだがな、姫がいつまでもこのままなわけないだろう」


 姫って誰だね? とMAKOTOが訊いてくるから、マテオが「悠羽のことだよ」と教える。

 MAKOTOが妙に納得顔で口を開く。


「そうか、そうだんだね。『地の神』になると目される男はロリコンだったわけだね」


 きさまー! といきり立つ奈薙を、「まぁまぁ、落ち着け」となだめるマテオはフォローを入れるしかない。


「奈薙がご執心なのは悠羽だけだ。五歳児なら誰にでも目を向けるわけじゃない……たぶんな」


 おまえー! と今度はマテオへ怒りを向ける奈薙に、ふむふむといったMAKOTOだ。


「そうか、そうか。地の神は鬼の三女に夢中というわけだね。あい了解したね」


 な、なにを……、とうめく奈薙の顔は真っ赤っかだ。正解を示したようなものである。


「ならば地の神たる奈薙に教えてあげるね。現在、東の鬼の数名が冴闇ビルへ向かっている。狙いは能力発現不能にある『悠羽』と呼ばれる鬼の三女の抹殺に間違いないね」


 MAKOTOの言葉が終わらぬうちだ。

 奈薙は部屋から飛び出していた。

 靴も履かずに、五階にあるベランダを乗り越えてである。


 あららー、と驚ろくMAKOTOへ、マテオは改まった表情と声を向けた。


「これで邪魔者はいなくなっただろう。ここへ来た目的を、いい加減に言って欲しいもんだ」


 回答は得られなかった。

 開いたベランダ側の窓から何かが投げ込まれたからだ。

 マテオたちの間へ転がれば、弾けるような噴出音が立ち、部屋には煙が充満した。


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