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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第2部 一緒に過ごす彼女はインクレディブル篇
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第2章:自認する神ー004ー

 おかしくてしょうがないマテオだ。


 なにが可笑しいんですか、と新冶(しんや)の当然な反応があった。


「それはそうさ。神を目指すとか言っているくせに、情勢に配慮しろってきちゃーさ。ずいぶん世俗的だな、と思いました」


 マテオのからかい口調に、莉音(りおん)が「言えてるぅー」と乗っかっていた。

 新冶は言い返しかけたが、ここは一本取られた形で収めることにしたようだ。応えるべきは言葉でなく実力と結論づけたに違いない。

 白のスーツから伸びる右手を掲げた。


「では、ウォーカー家に連なる者よ。口先だけではないところを見せてもらいましょう。弱肉強食の理念の前には神も仏もありませんよ」

「なんだ、神はヒトを救うんじゃないのかい」


 やれやれといったマテオに、新冶が口許を歪める。


「救済には、無慈悲なやり方もありますよ」

「勝手なこと、言うな」


 短剣を持ち直したマテオは、不意に顔を横にした。


「おいっ、流花(るか)!」


 大きな叫びに、呼ばれた当人だけではない。

 この場にいる全ての者が流花へ意識を向けた。

 ほんの僅かな一瞬にも満たない間だ。


 マテオが持つ刃は、標的の迫っていた。

 一ミリもない距離を詰めれば、白のスーツを鮮血で濡らしたはずだ。


 だが血で衣服を染めたほうは、マテオだった。

 寸前で届くといった位置で、短剣を握る右腕が射し貫かれる。


 届かなかったマテオへ、上空から光の矢が次々に襲いかかってくる。

 懸命に避けようとはするものの、幾本かは命中していた。


 かはっ、と声にもならないうめきを洩らしてマテオは両膝を落とす。からん、と右手から離れた短剣が地面で音を立てる。がくりと白銀の髪を抱く首が下へ落ちた。


 マテオ! と流花に楓も呼ぶなか、新冶がゆっくり近づいて行く。


「能力差を自覚しての作戦を取ったことは素晴らしいです。けれども所詮は、能力者。万物根源素(ばんぶつこんげんそ)をチカラとした、神とまで言われるほどの相手に敵うはずがありません」


 マテオは白銀の髪まで自身の鮮血が濡らしている。身体のどこもかしこも破れたような傷つき方に、力尽きたかのようにうな垂れたままだ。

 見降ろす新冶は、なお傍へと歩を進める。


「殺しはしません。私は能力によって神に近づいたとしても、生き方のそれは人間を選びます。高名なるウォーカー一族との関係悪化は望みませんからね」


 ふと、新冶の足が止まった。

 止まるだけでなく、飛ぶ。後方へ身体を翻す。


 ざぁ、と風が駆け抜けていく。


 宙を舞って着地すれば新冶は憤りを隠せない。


「なにをするんですか、夕夜(ゆうや)さん。私を殺す気ですか」

「ちゃんと避けられてからいいじゃないか。それにむしろ助けるためにやったんだぞ」


 上空から静かに、黒づくめの青年が降りてくる。


「なにが助けるためですか。夕夜さんの風刄(ふうじん)は掠っただけでも、身体は真っ二つにする威力じゃないですか」

「オーバーだなぁ〜、新冶。まぁ、確かにこいつなら間違って消してもいいか、ぐらいの気持ちがあったことは否めないけれど」


 莉音と緋人(ひいと)、それに冷鵞(れいが)といった三人組がウケていた。

 面白くない新冶は口をへの字に結んでいる。「冗談さ」と夕夜に言われても、「嘘つかないでください」と端から信じない。


 夕夜は変わらず飄々とするまま、ちらり後ろへ目を遣った。


「でも新冶を凶刃に倒れることを防ぎたかったのは、本当だけど。なにせ無造作にマテオに近づこうとするんだもんな〜。甘すぎるよ、だろっ?」


 話しかけられた相手は血に濡れた白銀の髪の間から眼光を覗かせる。


「やっぱり冴闇夕夜は油断ならないや」


 マテオは薄く笑うなか、新冶が気を落ち着けようと一息吐いてから問う。


「しかしマテオ・ウォーカーが、もう攻撃を繰り出せるとは思えません」


 答えは当人でなく黒づくめの同胞からだった。 


「そうか? マテオの膝元近くに、刃が落ちている。そして左腕は死んでいない」


 新冶は黙ってマテオを見つめ直した。夕夜の指摘を確認する作業はものの数瞬で済んだ。


「わかりました。夕夜さんには感謝しなければいけません。私もまだまだ甘かった、ということです。ただ……」

「まだ、なんかあるのか」

「東の祁邑(きむら)一族による本家の次女、及び長女も含めた返還を求める要求は筋が通っているように考えます」


 ふざけ……、と言いかけたマテオを、夕夜が手で押し留めた。


「新冶。それに対する言及はもう必要としないだろう」

「それは夕夜さん個人の感情からですか」


 新冶の退かない目つきが、野次馬同様の莉音と緋人、冷鵞に自分たちの問題であることを自覚させた。


 返答は、しばしの間を置いた後だ。 

 夕夜が頭をかきながら口を開いた。


「祁邑姉妹を巡る処遇次第では、瑚華(こなは)が我々を診ることは一切しないということだ」


 険しく眉根を寄せる新冶だ。

 緋人が、続いて莉音が叫ぶ。


「それ、ヤベーじゃねーか」

「瑚華がいなければ私たち、何回死んでたか、わからないわよ」

「あともう一つ加えるなら、マテオへ危害を及ぼそうとする者も同様だそうだ」


 夕夜の言を、冷鵞が受けた。


「ならば新冶は、かなりまずい状況にあるのではないか」


 心底から心配したような声に、新冶が若干引き攣った顔を見せていた。

 逢魔街(おうまがい)随一の医師である甘露瑚華から診断拒否は、常に危険へ曝される身には死活問題となるらしい。


「わかりました。取り敢えず今日のところは引き上げます」


 新冶の了承を合図に、他の『神々の黄昏の会』である三人もである。ああ、と冷鵞が洩らせば、「だな」と緋人が、「帰ろ帰ろ」と莉音が促してくる。


 ようやく襲撃の波が退いた。


「おい、大丈夫か、マテオ。すぐに瑚華の下へ行こう」


 夕夜が差し出してくる手に、白銀の髪は静かに横へ振られた。 


「僕よりあいつ……流花のところへ行ってやってくれ。けっこう気持ちがやられているから」


 赤ん坊還りした悠羽(うれう)は陽乃と夕夜を受け入れながら、流花は拒否した。

 マテオは拒絶された本人の痛みをせいぜい想像するだけの他人にすぎない。けれど家族同様に過ごしてきた者が来た。しかも流花が密かに想いを寄せる人物である。


 夕夜なら気持ちをなだらかに出来る。

 そう確信していたマテオだったから、この後、我慢できなくなる。

 夕夜へ掴みかかる羽目へ陥っていた。


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