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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第2部 一緒に過ごす彼女はインクレディブル篇
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第2章:自認する神ー002ー

 マテオは走る。

 莉音(りおん)へ向けて姿を見せたまま、普通に駆けて行く。


 向かって来られるほうとしては、虚を突かれた想いだ。

 莉音としては、マテオが瞬速の能力で一気に詰めてくると踏んでいた。周囲一帯に雷を落とすことで、その存在を目に捉えられなくても焼き尽くす算段だった。


 だが、真っ直ぐ走ってやってくる。

 なんで、と考えてしまったことが術中にはまったことだと気づいた時は遅かった。


 駆けてくるマテオの姿が、不意に消える。


 しまった、と考えた時点で雷を落としても間に合わない。 

 莉音は背後を取られ、喉元に刃が当てられていた。


「けっこう賭けだったんだけど、うまくいって良かったよ」


 マテオは莉音を能力が強大でも戦闘のプロとするには程遠いと見ていた。多少の判断を狂わせるのは容易そうだ。もっとも姿を曝す時間が長いと、相手の攻撃を受けやすくなる。もう一つの理由がなければ取らなかった方法だ。


「そうか、あんた。あの娘たちに私の攻撃が及ばないようにもしたわけね」


 莉音がマテオが取った行動のもう一つの理由を口にした。

 攻撃の対象を自分に向けたうえで距離を開ける。流花(るか)(かえで)を危険から遠ざける。


「うん、まあ、そういうこと」


 返事するマテオは莉音の喉元に押し付ける手へ力を込めた。

 白い首筋に、つつっと赤い血が伝う。


「今は、逢魔ヶ刻(おうまがとき)。仕掛けたのは私だから、さっさと殺りなさい」


 莉音は覚悟を決めたようだが、マテオからすればそう簡単にはいかない。逢魔街(おうまがい)に根城を築く『神々の黄昏の会』との遺恨を残す結末がいいとは思えなかった。


 答えはマテオが出すまでもなかった。

 血相を変えた二人の男が走ってくる。緋人(ひいと)冷鵞(れいが)といった強大な能力者たちだから、攻撃してくるのか、と一瞬は身構えた。


 すぐにマテオは唖然とさせられる。

 火と氷といったそれぞれの能力を所有する男たちは目の前にくればである。

 膝と頭を地面につけた。紛れようもなく土下座であった。


「頼む、莉音を殺さないでくれ」「助けてやってくれ、お願いだ」


 緋人と冷鵞が地面へ額を付けたまま懇願してくる。

 くっと顔を歪ませた莉音は堪えきれないかのように叫ぶ。


「やめてよ、二人とも。緋人と冷鵞は、いっつもそう。私がバカやるたびに、なんで平気でそういうこと出来るわけ。おかしいわよっ」


 なるほど、と呟くマテオは他人様の事ならば勘がよく働くタイプである。


「なんだ、そこの兄さんたち。このおっかないお姉さんが好きなんだ」

「マテオとか言うアンタ、バカ。そんなことあるわけがないじゃない、ねー?」


 莉音が呆れを多分に含んで土下座の二人へ訊く。

 返事はなかった。返事などなくても態度で充分だった。

 えっ、ウソ……、と莉音は呆然としそうになったが、慌てて気を取り直す。


「ああ、そうか、わかった。私を助けるためね。だからね、だからよね」

「そんな無理にこじつけなくてもいいよ。あまり否定すると、緋人と冷鵞だっけ? あの二人がかわいそうだ」


 マテオの指摘に、うっと莉音が声を詰まらせた。

 緋人と冷鵞が顔を上げた。

 二人とも普通にしていれば、モテそうな青年だ。それが土下座までして莉音の延命を請うてくる。マテオの気持ち次第で今にでも首がかっ切られる状態であれば、必死だった。


「子供の頃からずっと莉音が好きだったんだ。例え婚約していようとも気持ちが変えるなんて出来なかったんだ」

「悪いと思いながら、夕夜と破談になったと聞いて嬉しかった。チャンスがあるなんて思わないが、まだ莉音のそばに居ていいのが幸せなんだ」


 緋人と冷鵞の想いは、マテオですら感じ入るものがある。

 況してや当人といえばである。

 莉音は蒸気を噴き出しそうな色彩で顔中を染めていた。


「おい、真っ赤っかだぞ」


 マテオのからかいに、莉音が憤然と答える。


「しょ、しょうがないじゃない。告白なんてされたの、初めてなんだから」


 そうなんだ、とマテオは笑いかけた。


 笑う前に、苦悶で顔が歪んだ。

 激痛が肩に走り、白銀の髪を揺らして後ずさる。

 くっとマテオは傷つけられた短剣を持つ手を押さえた。


 マテオ! と流花の声がした。

 来るな! とマテオが叫び返せばである。

 楓ちゃん! と流花が悲痛に呼ぶ。

 楓が胸から背中を貫かれている。

 燦然ときらめく矢が、ゾンビ少女を地面へ突き立てていた。


「大丈夫……大丈夫だから……流花、心配しないで」


 身体を射抜かれたぐらいで倒れる楓ではない。だが刺さった矢を引き抜けないから身動きならない。


 マテオは視線を感じた。

 懸命に光りの矢を抜こうとしながらも楓が目で訴えかけてくる。言葉などなくても意図は充分なくらい伝わってくる。


 了解したマテオは瞬速の発現へ向けた。

 ともかく今は流花を連れて逃げる。楓の身を案じながらも置き去りにするしかない。


 マテオは能力の使用へ至れなかった。

 ここで逃げては事態が悪化しそうだ。と思った。

 上空の広範囲において、光りの点が埋め尽くしている。

 光りの(やじり)が地上へ向けて狙いを定めている。


「逃がしませんよ」


 光りの矢を発現させた能力者の声もあった。

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