表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第1部 出会った彼女はミステリー篇
42/173

第7章:摩天楼の夜の真心ー007ー

 あまりの強さに驚いた。

 背中から抱きつかれた流花(るか)を、マテオは振り解けない。


「お、おいっ、流花。離せよ、離してくれよ」

「やだ、やだ、絶対に、ヤダ!」


 いきり立つマテオはそれなりに力を入れている。にも関わらず、流花へさらにきつく身体を押し当ててくることを許している。もうお願いするしか残っていなかった。


「頼むよ、流花。僕を姉さんの下へ行かせてくれ」

「そうしたらマテオ、死んじゃうじゃん。ダメ、絶対ダメだよ、そんなの」

「これは流花には関係ない。姉弟の問題なんだ」

「誤魔化しちゃダメ、ただマテオが死にたいだけでしょ。お姉さんのためだなんて言っているけど、本当は自分が死にたがっているだけじゃないっ」


 そんな……、とまでは声にしたマテオだ。

 僕が死にたがっている! そんなわけあるはずが……、と口から出てこない。


「マテオに何があったか、(かえで)ちゃんと一緒に聞いている。お姉さんのおかげで殺し合いをさせられた中で生き残ったんだよね。それからずっとお姉さんに申し訳なくて死ぬことばかり考えていたんだよね」


 くっとマテオは一旦は堪えた。けれどもやはり我慢できずに言ってしまう。


「やめろよ、流花。ここで人の心を読む能力なんて使うなよ」


 口にしてからマテオは後悔した。本人が必死に隠したがっていた意味をなんとなく察していただけに、やってはいけないことをしてしまった。

 現に背中に抱きつく身体から、僅かな硬直が感じ取れた。けれどもすぐに巻きつく腕に力がよりこもっていく。


「流花は、人の心なんて読めない。だけど感情が見えちゃう。見たくなくても見えちゃう能力持ったバケモノなんだ。だからマテオだけじゃない、お姉さんだって死にたがっているの、わかる、わかっちゃうの!」


 そうか、とマテオは天を仰ぐ。


 流花の苦しみは想像していた以上だった。

 流花の能力は常に対する者の感情に目の当たりにする。この世で随一と評判の美少女ゆえに、大抵の者たちがどんな感情を抱くか。純粋な憧れをもって見てくる者は少数派なはずだ。どうしても性的欲求を絡めた感情を向けられるだろう。

 隠されるべき人間の本能を目の当たりしなければいけない。

 一方で感情が読まれると知ったら、相手はどう思うか。共にあろうとは思わないだろう。他人は無論、常々そばにいる身内こそ辛いかもしれない。辛いと思うことさえ許されないのだから……。


 流花が何に恐れていたか。全てが解ったとは言わないが、肝心な部分に触れられた気がした。知られたくなかったはずを、マテオとアイラのために打ち明けた。

 マテオが言う事を聞かないわけにはいかない。


「わかった、わかったよ、流花。もう飛び込んでいく真似はしない」


 ホント、と声がしたから、「ああ」とマテオは返事しながら仰いでいた顔を元へ戻す。


 アイラもまた流花に図星を突かれて青ざめている。


 しばらく流花には頭が上がらなくなりそうだ、とマテオは苦笑を堪えられないまま口を開く。


「姉さん。もうお互い腹のうちは読まれてしまう状況ですから、下手な考えはやめましょう。僕はそちらへ向かいませんよ。向かったら、同じ能力。どさくさで自分を刺すぐらいの芸当をやりそうだ」

「そ、そんなダメ、ダメよ。私がシリアルキラーなのは間違いないの。これからのマテオやウォーカー家を絶対に傷つける。だからここで消して、私を殺して、お願い」

「お断りします」


 にべもないマテオの返事が、アイラを呆然とさせ、流花を安心させた。

 背中から腕が解かれる感触にマテオは横を見た。

 流花が前へ出てきては肩を並べてくる。

 普段からはおよそ想像もつかない固い意志を秘めた目つきをしていた。

 お姉さん、と流花は呼ぶなりである。


「マテオの未来はお姉さんがいないと始まらないです。それにお母さんと話した時に、思いました。マテオとお姉さんのことを口にする時は、なんだか凄く嬉しそうで悲しそうなんです」

「姉さん、僕はこの街へ来たことで実感できました。僕たち姉弟には、両親がいるんだって。心配のあまり兄上を寄越すくらいなんですよ」


 萎れていたアイラが、突然だった。


「ウソ、ウソよ、そんなの。お兄様は、サミュエルは私を心配して来たんじゃない!」


 急に目をぎらつかせてアイラが短剣を握り直す。

 短剣を捨てたマテオに再び流花を背中へ匿わせるほどの殺気が放たれてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ