第7章:摩天楼の夜の真心ー004ー
軽やかに、時には重く、ぶつかり合いが響く。
闇夜へ木霊しそうなほど激しく奏でる。
激突する姿は見えない。
正確には、通常の目では追えない。
マテオと白黒の仮面を付けた五人の間で繰り広げられた攻防を窺わせるものは音だけだ。
時で数えれば、数秒の間だった。
ただ瞬速を駆使する闘いを行う者からすれば、長い時間に相当した。
一瞬で終わるがマテオの基本戦闘だ。
本人からすれば、いつになく長期の小競り合いである。
「わりぃ、待たせた」
再び流花をかばう体勢で姿を現した際における第一声だった。
大丈夫なの? と訊いた流花だが返事をもらうまでもない。
ばたばた屋上のあちこちで白黒仮面の五人が倒れ伏していく。
「バカナ、ゴニンデ、イッセイナラバ、カテルハズ」
一人残っているリーダー格の白黒仮面が驚きの音声を放ってくる。
マテオは短剣を手にした右腕を突き出した。
「一度やられて、何もアップデートをしてこないはずがないだろう。これ、切れ味が増すだけじゃなく、スタンガンに近い性能も発揮する優れものなんだぜ」
倒れている白黒仮面の五人は放電を放つような態で痙攣している。
「シカシ、コチラハ、ニンズウデ、アットウ、シテタハズ」
「ああ、それな。お前ら、遅いよ。少しは速度を上げたかもしれないけれど、僕の能力はまだこんなものじゃない。速さが近ければ人数の違いが生きたかもしれない。もっとも最初は油断して追いつかれたけどな」
白黒の仮面から応答はない。
マテオは初めから容赦する気など毛頭ない。
「いろいろ聞きたいことがある。話したくないと言っても、無理にでも吐かせる。流花の前でも、聞き出すためならば仮面を剥いで目を抉ることも厭わない」
本気のほどが知れる峻烈さだった。
相手からリアクションはない。
ならば思い知らせてやらなければ、とマテオが踏み出しかけたらである。
ケタケタケタケタケタ。
例の異様な笑いと思しき音を上げただけではない。
「キタ」
白黒の仮面が気になる一言を発した。
なにを、とマテオが言いかけたところで判明した。
都会の灯りが人影は浮かび上がらせていた。
屋上を縁をびっしり埋め尽くしている。
まだ全員の色まで確認できないが、仮面を付けている点は判明している。
「コレダケ、ノ、カズ。ドウスル?」
やはり付けた仮面の全部がセパレートされた白黒でありそうだ。
「次から次へと。よくここまで揃えたもんだと、感心するよ」
うんざりして見せるマテオの頭の中は音を立てそうなほど回っている。
まともにやり合ってもいい。確かにぐっと人数は膨れ上がったが、これまでの連中と変わらない速さなら所詮は所詮だ。負ける気はしない。
懸念はもし新たなだけに、速さが上がった者がいるかもしれない。それでも自分だけなら逃れられるが、流花がいる。戦闘になれば、相手の人数が増えた分だけ狙われる可能性も高い。
どうする? 自問自答のマテオは流花を連れての逃亡する道を選びかけた。
そこへ、一斉の襲撃がきた。
幾十としれない白黒の仮面が、どっと押し寄せてくる。
流花の腰を抱え、マテオは瞬速を発現した。
残る手に握る短剣を駆使して、敵の刃を跳ね除ける。
そのまま隣りのビルへ移動とするつもりだった。
現在いるビルから飛び出そうとした寸前だった。
行く手を阻む人影が現れた。
咄嗟にマテオが繰り出す短剣の刃が相手の刃と正面からぶつかる。
ガキッ、と鈍く立つ鋼の激突音だ。
マテオと白黒の仮面が間近で睨み合う。
重なり合う短剣の間から火花が散っていく。
力は互角だった。
だからマテオは、ふっと口許を緩めた。
短剣の柄に並ぶスイッチの一つを押す。アーロンが用意してくれた特別製の力を発揮させた。
相手の刃が砕ける音を立てた。
マテオの短剣と持つ手は一気に相手まで伸びる。
斬り裂くつもりだったが、間一髪のところで相手は仰け反り避けた。
仮面が白と黒の境目にして、ぱっかり割れていく。
相手の素顔が露出する。
流花の安全を第一としたいマテオは逃げるが先だった。正体など構っていられない。
いられないはずだった。
けれども行けない、マテオが去れるはずがなかった。
「なんで……姉さん……」
仮面の下から見間違いなんてするはずもない人物の顔が現れた。