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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第1部 出会った彼女はミステリー篇
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第7章:摩天楼の夜の真心ー003ー

 初めて聞いた際は、可笑しくてしょうがなかった。

 変な声というか音というか、マテオは笑い飛ばしていた。


 今は、舌打ちだ。

 気味が悪く響く笑いには腹ただしくもなる。

 大事そうな話しだったのに遮られて、個人的にも許し難い。

 そしてどうして気配を感じ取れなかったか、不思議でならなかった。

 また、いつの間にだ。


 白黒の仮面と同色のマントで身を包む六人に取り囲まれていた。


「おまえら、何でここが解ったんだ!」


 マテオの怒声に、正面にある白黒仮面の一人が答える。


「ウラギラレタノダ、トモト、シンジタモノニ、ヨッテ」


 待ち合わせている(かえで)は未だに来ない。初めから来る気などなかったと言うのか。


「うそ、嘘だよ。楓ちゃんが、そんなこと、するわけがないっ」


 信じられないと流花(るか)が震え叫ぶ。


 ケタケタケタケタケタ。

 応えるは拍子木を打ち鳴らすみたいな笑い声のみだ。


 マテオは背中に掴む手の強さを感じた。

 だから少し熱くなりかけた頭が、すぅと冷静へ還れたのかもしれない。


「おまえら、相変わらずセコいなー。わざと動揺させる策は何度も経験させてもらっている。そう、僕とPAO(パオ)は最近の付き合いじゃないからな」


 相手というより背後へ、流花に向けたマテオの言葉だ。


「オマエタチ、ココデ、オワリダ」

「ほら、流花。こいつら、答えないだろう。やっぱり適当なこと言って惑わすつもりだったんだ。能力の使用を不安定にさせるため心理的な揺さぶりをかけるは、こいつらの常套手段なんだよ」


 マテオ……、と流花が呟く。ならばとマテオは続ける。


「流花が引き出したんぞ、楓の気持ちを。もしあれが嘘だったとしても、友達ならば騙されてやれ」


 先日のやり取りが思い出された。

 当初、後ろ盾を申し出てきた異能力世界協会と楓は手を組んでいい、とマテオに説明した。だが横から流花が真実の理由は別にあるはずだと指摘したから、聞き出せた。

 楓は不老不死かもしれないが不死身ではない。

 核となる箇所の破損は復元不能である。だが脳を完全に潰されたら、活動は止まり存在は塵に帰す。

 いつまでも生きるなんてしなくていい。死を可能とするなんて楓にすれば、とても魅力的な話しであった。


「だけど脳ごと一瞬で潰すくらいじゃないとダメみたいでね。そんなの自分じゃ出来ないし。だから他に任せることにした。あれだけ巨大な組織だから出来そうな人が現れるかもしれないじゃない」


 意識して、と知れる明るさで楓が打ち明けてくる。

 そんな……、と流花は泣き声だ。

 マテオは、楓がどれくらい生きてきたか、まだ確認していない。見た目が童女だったせいだろうか。ふと幼き日の姉の姿が頭に浮かんだ。


「僕はこれから異能力世界協会に、楓とした約束は反故にするよう掛け合わせてもらう」


 マテオは考えなく口に吐いていた。

 なっ、と楓が絶句している。マテオ……、と流花が小さく呟いている。


「おかしーだろ、楓。なんだよ、それ。訳のわからない組織に、自分の消滅を頼むなんてバカじゃないのか」

「あんたが所属する組織でしょ」


 さすがに抗弁した楓だが、まったくとばかりにマテオは頭を掻く。


「楓ー、僕はともかく流花の気持ちを無視するなよ。友達だって言ってくれる者に、まず相談だろ。自分の存在を消したくなったなら、組織じゃなくて僕個人に言え。勝手に独りで先走るな」


 そんなこと言われても……、とうなだれた楓の手を流花が取った。青く冷たい右手をまるで暖めるかのように両手で包む。


「楓ちゃん。流花じゃなくてマテオでもいいから、自分が消えたい気持ちになったら言って。流花じゃ楓ちゃんの気持ちはわからないかもしれない。でも知らない間にいなくなるなんて、無しだよ」


 流花の話しながら込み上げてくるものに、何も感じないはずだった屍人の手へ何かを伝えた。

 流花……、と楓が名前を呼ぶ声は震えていた。

 マテオは組んだ両手を後頭部に当てて、そんな二人を眺めながらである。


「どうしても楓が自分の存在に耐えられなくなったとしても組織なんかに頼るなよ。その時は……僕がやる」

「うん、わかった。流花に相談するし、やるのはマテオに任せる」

「おい、楓。即答すぎるだろ。僕でさえ、ちょっとためらったんだぞ」


 信用しているのよ、と即応の楓に笑みが浮かぶ。


「おまえ、笑うとけっこうかわいいのな」


 初めて見せた心からの笑顔に、マテオが感嘆したらである。


「流花、ぜんぜん笑ってないけどー」


 思わず入った惚けだった。

 この後のやり取りはアホらしすぎて憶えていないが、ここで三人で確かめ合ったことは忘れられない。

 甘い気持ちは、特にこの街では命取りになると聞かされていてもだ。


 ケタケタケタケタケタ。


 すっかり聴き慣れた奇妙な笑い声が意識を目前へ戻した。

 白黒の仮面を付けた六人が取り囲んだ輪を狭めてくる。


「いいな、流花。疑うのは、まだ先だ」


 うん、と力強い返事にマテオの口許は緩む。


「オマエノ、チカラ。ワレラニ、カテナイ」

「言っとくけど、負けたのは最初だけだからな。しかも、あれ。不意打ちみたいなもんだったし」

「ナンド、ヤッテモ、オナジダ」


 にやりとマテオは笑う。


「それはどうかな」


 能力が発現されて、白銀の髪が消えた。


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