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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第1部 出会った彼女はミステリー篇
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第7章:摩天楼の夜の真心ー002ー

 ご機嫌なお姫様だった。

 すごい、すごーい、と眼下に広がる摩天楼に流花(るか)が興奮している。

 まったくなんで、と思いながらマテオはお姫様抱っこしていた。だが瞬速(しゅんそく)をもってビルの頭を飛び継いでいく間に見せる流花の喜びようには、呆れながらも悪い気はしない。


「まだ、(かえで)のヤツ、来ていないみたいだな」


 降り立ったマテオは腕の中にある流花を降ろし、辺りを見渡す。

 約束の場所である雑居ビルの屋上に人気はない。


 すごかったぁ〜、と流花はまだ昂りは抑えきれないようだ。


「なんだよ、おまえ。夜景がそんなに珍しいのかよ」


 マテオがぞんざいに訊けば、流花は唇を尖らせる。またおまえ呼ばわりする〜、と怒った後である。


「夜に出歩くなんてしたことなかったから……生まれてから、ずっと」

「まぁ、そりゃそうだろな。そんだけ美人じゃ、夜に外なんか出たらヤバすぎるだろ」

「うん、ホント。みんながマテオと同じように流花を見てくれたら良かったんだけどね」


 今晩もすっぽり被れば顔まで隠れるフード付きのパーカーを着た流花だ。


「まぁ、何でも程々がいいよな。特に性欲に関しては、変態性を発揮する連中が多いから面倒なのはわかる」

「もしかしてマテオって、そっち方面で嫌な想いしてたりする。してたら、こんな話しにしちゃって、ごめんね」


 なんだか調子が狂う流花の態度に、マテオもまたいつなく気を回す。


「変な素振りを見せられたことはけっこうあったけど、直接はなかったな。女の子に見られすぎてプライドがへこんだ時期はある」


 あははは、と流花がウケている。


 マテオは街の灯を網羅するかのように遠い視線を投げた。


「それより、流花。故郷じゃどうだったか知らねーけど、ここに来てからだったら冴闇夕夜(さえやみ ゆうや)がいるだろ。あいつなら夜景ぐらい見せに連れていってもらえそうだけどな」


 夕夜が能力の『風』を武器だけでなく、身体を運ぶ手段として使用している場面を目にした時にマテオは確信した。かなりな使い手であるに違いない。どれほどの人数まで運べるか解らないが、他人と共の飛行を可能とするだろう。

 確証が流花の回答からもたらされる。


「たぶん冴闇のお兄さん。お姉ちゃんは連れて行っていると思う」

「夜空のデートというやつか」


 ふむふむと顎に手を当て納得のマテオに、流花が不思議そうに訊く。


「あれ、マテオ。ショックじゃないの」

「えっ、なんだよ?」

「だって、マテオってさ。お姉ちゃんのこと、好きでしょ?」

「そりゃー、もちろん好きだけど……夢は見ないようにしてるんだよ」


 あははは、と流花がまた笑いだす。前より音量がだいぶ大きかった。なぜか、かなりウケているようだ。「おい、大丈夫か」とマテオが心配になって声をかけるほどである。


 大丈夫だよ、と答えながら涙を拭いた流花は夜空を仰ぎながらだ。


「流花は、冴闇のお兄さんが、夕夜が好きなの。恋ってこういう気持ちになるんだと解って嬉しいし……苦しい」


 そうか、とマテオは一言だけで済ませた。言葉は溢れるほど出てきてはいたが、口にしていいものではないような気がしたからだ。かといって、ずっと黙ってもいられない。

 まぁ、なんだな、とマテオはしばらくの沈黙後に切り出す。


「僕としては、夜空のデートというのが引っかかるな」

「えっ、なに、それ?」

「うちの兄上も『風』が能力だろ。口説く策として、夜空のデートは有効だって、よく聞かされていたし、実際目にしていたからさ。考えることは、どこのどいつも一緒だよな」


 マテオが胸の前で腕を組んでは考え込んだポーズを取った。

 ふふふ、と流花が軽く笑う。「そうだねー」と答える声は普段へ帰っていた。

 マテオはこめかみを掻きながら、思い切ったように口を開く。


「なぁ、流花。その気持ちをぶつけたりしないのか」

「しないよ。流花は冴闇のお兄さんと同じくらいに、お姉ちゃんことが好きだもん。もう結果は判っているし。苦しめるだけになるから、一生言わないつもり。だからマテオ、秘密の約束でお願いします」

「それは当然だな。約束するまでもない」


 胸を張ったマテオだ。

 マテオだね〜、と流花は褒めているのか貶しているのか解らないニュアンスだ。

 マテオが聞き流すわけがない。


「おまえ、なんか僕のこと。誤解してないか」

「またすぐ『おまえ』って言う。流花だからね、る・か」


 流花は尖った声で毎度の訴えをした後、いきなり噴き出す。

 なんだよ、急に、と言いながらマテオもまた溢れてくる笑いが止められない。

 なにが可笑しいのか訳わからないまま、流花と一緒にした笑いが治まればである。


「あのね、マテオ」


 いつになく真面目に流花が呼びかけてくる。

 ん?、とばかりマテオが続きへ耳を傾けかけた。

 その時だった。


 ケタケタケタケタケタ。


 屋上に二人きりだったはずのマテオと流花を取り囲むように、不気味に鳴り響く。

 マテオは咄嗟に流花を背へ匿った。


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