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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第1部 出会った彼女はミステリー篇
35/173

第6章:同居と友人と人違いー005ー

 これほど解りやすい誤解もない。

 マテオとしては少々呆れたし、出来れば話し合いで済ませたかった。

 けれども相手は命懸けでくるし、こっちだって油断なんかしたらどうなるか知れたものではない。


 (かえで)を先頭に流花(るか)、そしてしんがりはマテオが務める形でとにかく走った。

 高い塀で囲まれた路地に突き当たるまで。


「てめえら、もう逃げられねーぞ」


 追ってきた五人のうちリーダー格の男が恫喝してくる。

 追い詰められたマテオは無駄を承知しつつ、荒くれ者の追跡者へ説得を試みる。


「だから僕じゃないって、言っているだろ。そう、そうだ、髪がこんな短くはなかったはずだ」  

「髪なんか切ればいいだけの話しだ」


 取り付く島もない。マテオとしては、どうしたものか。 


 楓の情報を頼りに訪れた繁華街から少し離れた裏通りで、さっそく絡まれた。

 ここら一帯を任された自警団と表明するごつい男たちに襲撃された。


 すっかりアイラだと思われて。


 陽に透けるような白銀の髪を特徴とする双子の姉弟。顔の作りも女性側へ傾いていれば、どれだけマテオにコンプレックスを抱かせたか。女みてー、と揶揄されないよう男らしくとぞんざいな態度を身に付けるようにしてきた。

 さすが十五歳にもなり、仕事の実績も積み上がれば、女性に見られるかどうかなんて気にならない。気にならなく頃には冗談でも口にされなくなり、アイラと並べばはっきり男女の違い出るようになっていた。

 こうして男を強調するため張った雑な態度だけが残った。


 久々に姉と混同され昔の記憶を刺激されたマテオだった。

 あははは、と背後からけっこうな大きさの笑い声が起きた。

 マテオは前方で対峙する連中よりも予想もしなかった態度が気になってしょうがない。


「おい、なにが楽しいんだよ」


 本来なら『可笑しい』と訊くところだが、ついつい笑い声の響きに釣られて『楽しい』としてしまったマテオである。

 笑い主である流花は、すっぽりフードを被っていて顔を見せていない。


「えー、だってぇー。マテオって女の子の格好させたら似合いそうと思ったら、流花、止まんない」


 そう言っては、また笑いだす。マテオにすれば気が散ってしょうがない。


「おまえ、こんな時にナニ考えてんだよ。楓、ちょっと何とかしろ」

「いーじゃない、笑うくらい。それにあたしもマテオの女装は見てみたいかも」


 頼りの楓がこの調子だから、マテオとしてはもうどうしようもない。加えて「またおまえって言う〜」と文句の流花である。


「おまえら、ふざけてのんか!」


 自警団のリーダーが仰る怒りは、ごもっとも。ですよね、とマテオはつい答えそうになったほどである。

 今ひとつ戦意が高まらないマテオは説得に努めることとした。


「今の会話を聞いて、ほら、僕が男だって解っただろう。だから君たちが追う人物じゃないんだよ」

「キサマが女に化けてやっていたかもしれないだろう」

「昔は女に見られることがコンプレックスだったんだ。今だって、変装するにも女装は避けますっ」

「仮にキサマが別人と認めてもだ。そのなりから近しい者に違いないだろう。どういう関係か、無理やりにでも吐かせるぞ」


 事態を把握する能力はあるようだ。ただ恫喝とする姿勢は一貫しており、捕縛された先で待つ運命は碌でもなさそうだ。

 やっちゃえ、マテオー、と流花の煽りもある。

 おまえに言われたくねー、と内心で返しつつマテオはポケットに手を入れた。


 逢魔ヶ刻(おうまがとき)には、まだ時間がある。


 自警団と称する連中に吹っかけられた場所は比較的広い通りだ。

 出来れば、所有する『能力』の映像は残したくない。能力者なら誰もが考える懸念だ。

 こっち、と楓の誘いに乗って、ここまで来た。

 路地裏の行き当たりは人気などない。監視カメラもなさそうだ。

 念のためマテオは楓を見れば、うなずき返してくる。


 おとなしくしろ、と自警団のリーダーが怒鳴ったと同時だ。


 マテオは瞬速の能力を発現した。

 速すぎて姿が消える。

 自警団とする五人が次々に昏倒していく。

 勝負は一瞬でついた。


「マテオー、つよいじゃーん」


 流花が相変わらずな調子で賞賛したものの、すぐに「どうしたの、マテオ」と口調を改めて訊いてくる。

 マテオは険しい顔で地面に倒れ伏す連中を見下ろした。


「こいつら、僕の能力に対して、全く無防備だった」

「えー、だって、初めての対戦だったんでしょ」

「僕と姉さんは同じ能力なんだ。こいつらが姉さんを追っているならば、少しは目星をつけて警戒してもいいはずだ」


 連中が持つ情報にマテオは期待を寄せていた。初めから当て身狙いではあり、軽い意識不明へ持っていったつもりだ。大切な情報源として気を遣ったことが無駄になりそうな感じがした。


「あれこれ考えていても意味はないわよ。ともかくこいつらから話しを聞き出しましょう」


 楓のもっともな提案には頼り甲斐を感じた。ただ提げた赤いポシェットから、じゃらじゃら鳴らして取り出した物には確認せずにいられないマテオだった。


「おい、楓。いつも、そんなもん持ち歩いているのか」


 手錠を始めとする拘束具を嬉しそうに取り出す楓が、ちょっと不気味だ。姿見からしておかっぱ頭に青白い肌をした動く屍人なのである。気味悪がるな、というほうが無理だった。

 しかも楓当人が無頓着とくる。


「たまによ、たまに。今回は聞き出す用事が発生しそうだったから持ってきたの。動けなくして、あたしが噛みつこうとすれば、大抵は吐くわよ」


 楓ちゃん、すごーい! とする流花の感嘆はさておき、マテオとしてはである。

 こんな危ないヤツに仲良くするよう頼む異能力世界協会の重鎮たちへ、これでいいのかと聞きたくなる。「楓、やり慣れているな」と思わず感想が洩れるほど、拘束の手際良さである。


 ううぅ、とリーダー格がうめく。

 いかにも荒くれ者なごつい男の両手両足が枷に嵌められている。真っ先に目を醒ましてしまった不運を、これから思い知ることになるだろう。


 少し気の毒に想うマテオだったが、肝心の行方を追う情報が得られないと解れば、もっといたぶってしまえとなっていた。

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