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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第1部 出会った彼女はミステリー篇
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第4章:逃走ー005ー

 うんざりしすぎで、むしろ笑ってしまう。

 マテオは敵を揶揄せずにはいられない。


「おまえのところってブラックだな。ええと、何て言ったっけな。馬車馬のように? で良かったかな。でもまぁ僕は実際、馬車馬なんて見たことないけどさ」


 ケタケタケタケタケタ。


 一人しかいない白黒の仮面を付けた男が笑いにも似た言葉のない音を発してくる。

 夜の入り口に立つ、長く使用されていないことを示す所々崩れ落ちた洋館の広間だ。

 時間と場所が効果的に不気味この上なく響かせていた。


 ただしマテオにすれば四六時中耳にしているようなものだ。昨日に引き続き、今日なんてつい先まで聞かされている。

 気味悪さから、ぐるり回って初印象へ落ち着いていく。可笑しみしか感じない。


 マテオ! と広間の奥から流花(るか)が呼んでくる。

 横にはおかっぱ頭で青白い顔色が特徴のゾンビと自ら名乗る(かえで)がいる。何の反応も示さず座り込んでいれば、事情はなんとなく飲み込んだ。


 しょうがないな、とマテオは短剣を取り出す。

 楓というアイテムがなければ、勉強勉強と言われる日々が待ってそうだ。下手すれば、帰ってこいとなるかもしれない。


「やっぱりいたんだ」


 マテオが呟くように口にした時は、もう囲まれていた。

 白黒仮面の残り五人が音もなく輪の形で展開している。標的をする白銀の髪の少年を中心に据えていた。


 ケタケタケタケタケタ。


 広間に再び鳴り渡る聞き慣れた音は珍しくそれで終わらなかった。


「ワザワザ、シニ、キタカ」


 ふっと笑うマテオは見下すような目つきをした。


「正直、敵わないと思ったら来ないさ。奈薙(だいち)との戦闘で当てが付いたから来たんだ。そこのあいつには助けてもらった借りもあるしな」


 マテオ! と叫ぶ声がする。

 こんな時にと思うが、声の切迫具合からして無視できない。なんだよ、と発声の主へ問えばである。


「あいつって、言い方、ひどーい。ちゃんと流花はマテオって呼んでいるのにー」

「おまえさー、こんな状況でくだらないこと言うなよ」

「ほら、また。おまえじゃなくて、るぅか。流花だから。ちゃんとして」


 全く意味が通じない相手に、マテオはもうため息しか出ない。

 もっとも周囲にはとても仲良しに映ったようだ。


 マテオはリーダー格の白黒仮面が取る行動は見逃さなかった。

 六人の中で一人だけ姿をかき消して、次の瞬間に姿を現せばである。


「ソンナ、バカナ」


 相変わらず肉声からかけ離れた響きだが、初めて感情を垣間見せる。

 白黒仮面の人物は、流花がいた場所にいた。

 人質を確保するつもりだったのだろう。


 だが流花は白銀の髪をした少年に抱きかかえられていた。

 発現された瞬速の能力は白黒仮面の速度より早かった。 


「悪いね、僕の勝ちだ」


 マテオがする勝利宣言は、速度だけではない。生死を賭けた勝敗にも及んでいた。

 マテオのもう一方の手にある短剣が白黒仮面の腹へ突き立てられていた。


◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇



 以上の説明をマテオが終えればである。

   

「そういうわけですから、姉さん。抱くの意味を拡大解釈しないでください。僕はぎりぎりのところで抱き『かかえた』だけです」

「わかっているわよー、私はマテオのお姉ちゃんだもの」


 うんうんとうなずくアイラに、マテオは心の中で叫ぶ。

 ウソつけー、本気で殺しにきたくせに、よく言うよ!

 ははは、と愉しそうに笑う流花に殺意が湧きそうなマテオだった。


「ところで、マテオ。それから襲撃した連中は、どうしたの? PAO(パオ)だったんでしょ」


 少し口調を改めてアイラが訊いてくる。


「リーダーが戦闘不能になったせいか、ヤツら、すぐに引き揚げていきました。傷を負わせた相手を捕獲できなかったのは残念です」

「致命傷にまでは至っていないみたい?」

「至っていないでしょうね。場所的にもそうだし、感触としても身体を貫いたというより鎧を刺した感じでした」

「ぜんぜん元気かもしれないっていうことね」


 すっかり真面目な調子になったアイラであれば、マテオを短剣を取り出す。柄には幾つかボタンが見える。


「昨日切り抜けられたのは、アーロン様からいただいたこれのおかげかもしれません。刺した感触がおかしかったので、電撃を放ってみたら効果は抜群でした」


 アイラにとっても『叔父さん』が用意してくれた早速の気遣いは大きく貢献したようだ。

 マテオは贈られた短剣をアイラの手に載せた。使ってください、と言えば、プレゼントされた側は慌てた。


「ダメよ、これはマテオのために用意されたものなのよ。お姉ちゃん、受け取れない」

「これ、他にも機能があって相当使える代物なので、どうか持っていてください」

「でもそれじゃ、マテオが……」

「アーロン様が予備を用意しないと思います?」


 マテオが笑いかければ、アイラも納得顔だ。確かに抜け目のないアーロン・ウォーカーなら、いざという際の用意を怠らなさそうである。

 ありがとね、とアイラは受け取った。


「楓ちゃんと連絡、取れたよ〜」


 流花の報せもあれば、事態は進行しそうだ。

 だがやはりというか、肝心の楓からは色良い返事は貰えなかった。


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