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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第1部 出会った彼女はミステリー篇
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第4章:逃走ー004ー

 いくら仕方がなかったとは言えだ。


「なによ〜、マテオ。急に呼び出してさ」


 ぶーたれる流花(るか)に、マテオは後悔した。こいつにだけは借りなど作ってならない。後々まできっと面倒になる。貸し借りない状態だって、かなり手の掛かる相手なのだ。

 解ってはいる。解っているが、今回ばかりは流花を挟まなければ事は運ばない。それによくよく思い返せばである。


「おまえさー、なんで僕の番号を知っていたんだ」

「マテオー、あたし流花だから。おまえはヤメてよー」


 質問に答えろよ、となるマテオに流花も「ちゃんと呼び方は決めたでしょ」と引かない。

 本人たちはいがみ合っているつもりだが、傍から見ればである。


「二人ともずいぶん仲良しなのね。お姉ちゃん、嬉しい反面、ちょっとフクザツ」


 アイラの能天気な中に本気を感じる。少なくとも幼き頃からずっと共にあったマテオからすれば黙って聞き流せない。


「姉さん、変な勘違いは止してください。ただの知り合いです、僕の数少ない逢魔街(おうまがい)の知人です」

「流花からすると、いがーい。マテオって知っている人が少ないんだ」

「こっちではな。来たばっかりなんだよ。わかってんだろ、そこ」


 流花のツッコミに言い返すマテオは、もやっとした気分に見舞われていた。こうも相手のペースに呑まれるなんて、他人では初めてだ。


 まぁまぁとアイラは弟をなだめながら、呼び出しに応じて公園まで来てくれた相手に向き直る。


「今日は本当にすみません。私が家に帰りたくなりばかりに面倒へ巻き込む形になってしまって」

「いえいえー、流花も田舎の家には帰りたくないですからー。気持ちはわかりまーす」


 そうだったな、と横で聞くマテオは頭をかいた。

 流花と、姉の陽乃(ひの)に、妹の悠羽(うれう)。東を統べる鬼の一族の嫡流である祁邑(きむら)三姉妹が家出中とする事実は間違いないようだ。理由は解らないが帰る意思はなく、どういう経緯かは不明だが『風の能力』を所有する冴闇夕夜(さえやみ ゆうや)の庇護を受けている。ひと月以上には渡っているだろうと報告書に書いてあった。

 なんとも先が読めない生活を送る祁邑三姉妹だった。


 それにマテオからすれば夕夜という人物が信用できない。

 悠羽を狙ってきたPAOの連中から受けた毒物に意識不明に陥った奈薙を病院に連れていったのは夕夜だ。マテオへ流花から来て欲しいの連絡に切羽詰まったところに現れた。あまりにいいタイミングだった。


 マテオと奈薙が悠羽を守り敵を退けるさまを見ていたのではないか。


 夕夜に対する疑念が鎌首をもたげれば、未だ晴れない。

 こう見えて流花も色々難しい立場……と考えたところで、アイラとの会話が耳に入ってきた。


「お姉さんの顔って、マテオに似てますよねー」

「双子だもの。昔なんてそれはもうそっくりだったのよ。マテオがおねしょばかりしなければ、まるきり一緒みたい……」


 姉さん! とマテオは叫ぶ。

 なによー、とアイラは話しの腰を折られて頬を膨らませている。


「ヤメてください、そういった子供の頃の恥ずかしい話しは。特に、この女、流花にはです」


 あら〜、とアイラが悪戯っぽく目許を緩ませる。


「なんだー、やっぱりそうなんじゃない。でもしょうがないわね。流花ちゃん、かわいいじゃないわね、綺麗だもの。そう……」


 いつの間にか『ちゃん』付けしているよ、とマテオが思う横で、アイラが一転して生真面目な声で言う。


「ちょっとやそっとの苦労で済まない美貌よね」


 瞬きを繰り返した後に流花は微笑んだ。


「さすがマテオのお姉さんです。ぜんぜん流花を見ても平静を失わない」


 こいつー、とマテオはなった。

 いきなり別人の如き顔を見せてくるなんて、女性特有の魔性か。はたまた流花自身が抱く底知れなさか。

 ゆっくり流花がマテオへ目を向けてくる。にこりとしてくれば、こいつタイミング良すぎるぞ、とつい口にしそうになった。なんだか考えている事を見透かさせれているようで、マテオはなんか悔しい。「おい、流花」と呼んだのも本題に入るというより強気を装いたくてである。

 なぁーにー、と返事する流花はいつも通りだった。


「楓を紹介してくれるんだよな」

「そりゃー、するよー。だってマテオは恩人だからねー」

「でも楓からすれば、いきなり謎の女がやって来て匿ってくれなんて、嫌なんじゃないか」

「まず話し、してみようよ。楓ちゃんだって一人きりよりはお姉さんといたほうが安心できるし」


 そうだな、と答えるマテオに、「そうそう」と流花がうなずきながら肩から下げたスマホの入れたポシェットへ手を伸ばす。

 マテオと流花のやり取りする様子に、アイラは黙っていられなかったみたいだ。


「やっぱり仲良しよね、ふたり」

「姉さん、しつこいですね。何もありませんよ」

「あ、こういう時のマテオって何か隠しているのよね。お姉ちゃんには解るわ」


 あまりの面倒さにマテオとしては投げ出したい。無視しようかなと考えたため反応が遅れた。

 アイラは弟の即答がないため、流花へ向かっていく。


「ねーねー、流花ちゃん。本当にうちの弟に迷惑はかけられていない? さっき恩人なんて言ってたけど」

「はい、昨日は楓ちゃんと一緒に危ないところをマテオに助けてもらったんです」 

「マテオは流花ちゃんのためにがんばったのね」

「はい、がんばって流花を抱きました」


 あからさまな殺気だったから、マテオは間一髪で間に合った。

 自ら首へかざす短剣がもう少し遅れていれば首はかっ斬られていただろう。


「マテオ、なんて浅ましい。責任取って死になさい。大丈夫、貴方を送ってすぐお姉ちゃんも後を追うから」


 同じような短剣で押し込んでくるアイラは怒りたぎっている。


 受け止めるマテオのほうといえば、もう叫びたい。

 まったく流花といい、姉のアイラといい、面倒にも程がある。


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