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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第3部 彼女がチート篇
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最終章:彼女がチートー006ー

 他の追随を許さなそうな凄まじい能力を見せた鬼の(おきな)は倒された。

 逢魔街(おうまがい)に集う能力者たちが結束した威力に敗れ去った。


 だが『東』の鬼どもが『長』の敗北に撤退を余儀なくされる、とした予想は外れてしまう。


 翁が来るまで指揮していた理作(りさく)を中心にして威勢を取り戻す。


「いいか、あいつらは能力を使いすぎて弱っている今がチャンスだ。いいか、全員ぶっ殺して次女だけじゃねー、長女も連れ帰って、『鬼の花嫁』にするぞっ」 

 

 あいつら、と呟くマテオは紅い目の腕を払った。

 

 戦いはまだ終わっていない。


 マテオは前へ出かけた。

 ふらっと浮く感じがした途端だ。激痛が身体中を駆け巡る。

 瑚華(こなは)の特製薬がタイムリミットを迎えたらしい。


 限界はマテオだけではなかった。

 すみませぬ、拙僧はもう……、と道輝(どうき)がばたりと倒れこむ。

 いかんな、と紅い目の夕夜(ゆうや)でさえ膝を折った。


 マテオもまた身体を投げるように前へ崩れ落ちていく。


 地面にまで落ちなかった。

 落下する前に拾ってくれた相手は、懐かしい匂いを漂わせた。

 マテオの灰色の瞳に自身と同じ白銀の髪が映る。 

 

「やだー、マテオ。なんで、どうして、こんなにぼろぼろになっているの。いやよ、死んじゃいイヤ」


 抱きついては泣き叫ぶ。

「姉さん……」とマテオは痛みに勝った喜色を浮かべた。

 ただ、どうして、と訊く前にである。


「マテオ、死んじゃうのね、今にも死にそうなのよね。だったらお姉ちゃんがトドメを刺してあげる。寂しくならないよう、すぐに追ってあげるから、安心して」


 どうやら動転する余りおかしなゾーンへ入っているらしい。相変わらずと言える姉のアイラである。

 あれだけの死闘を潜り抜けて拾った命を勘違いで奪われるなんて勘弁である。

 マテオは無理を押すしかない。


「だ、大丈夫ですから。姉さん、落ち着いてください」

「うそ、ウソよ。苦しんでいるところは見せないようにするマテオだもんね。昔からそう、お姉ちゃん、よく分かっているから。ちゃんと心臓ひと突きで楽にしてあげる」


 双子として長く共にあったから、アイラに関してはよく解っているつもりだ。

 これは、ヤバい。すっかり思い込みが意識を支配している。

 この姉ならやりかねない。

 久々の感激すべき再会であるが、突き放すしかない。さすがに無駄死はさせられたくない。


 緊迫に陥った空気を和らげたのは、いつも通りの声であった。


「おねぇーさーん。お久しぶりですぅ。お元気で……すねー」


 あら、流花ちゃ〜ん、とアイラがころり不穏からご機嫌な返事へ移行である。

 あっさり抱きかかえていた手を離す始末である。

 立つことさえ覚束ないと踏んだから、支えてくれたのではないか。

 相手が姉だからこそ、弟として拗ねたくもなるマテオは、どさりと地面へ倒れていった。


 うつ伏せから頭を抱いて上体を起こしてくれる相手は意外だ。

 こんな素早く来るなんて姉のアイラだと確信していたマテオだから、少し薄汚れていることが却って美を際立たせている顔見知りに驚いてしまう。


「おまえ、ここは戦場の真ん中だぞ」

「もぉー、おまえじゃなくて、る・か。流花(るか)でしょ。ちゃんと名前で呼んで」

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ、流花。なんでここに……」


 だってぇ〜、と流花が指差した。


「うれがここに来ちゃったんだもん」


 白くほっそりした人差し指の示す方向へマテオが目を向ければである。


 幼児が大男の首元に齧り付いている。

 諦めたように奈薙(だいち)悠羽(うれう)を右肩に抱え直していた。


「うれ、ここからは自分もやるんだって。奈薙さんが地獄へ行くなら、一緒に行きたいんだって」


 流花の語る横顔を見上げながら、マテオもやや改まって訊く。


「いいのか、流花はそれでも」

「うん。うれには出来るチカラがあるんだから、後悔させたくないもん。それにうれが地獄の道へ行くなら、流花も付き合うよ」

「流花もお姉ちゃんなんだな」


 マテオの上体を支える流花が晴れやかな顔を見せてくる。


「マテオに教えてもらったことだよ」


 そう言って浮かべる笑顔に、反則だよな、と胸のうちで呟くマテオであった。

 ただ傍目でも解る良い雰囲気には、必ず無作法に絡んでくる人物が近くにいる。


「やっぱり、そうだったのね、マテオ。でも流花ちゃんなら、お姉ちゃん、ちょっと寂しいけれど我慢してあげる。でも、お母さまには報告するわよ。お父さまのせいで、すごく男女関係には神経質になっているんだから」


 こっちは立ち上がれないくらいしんどいんだぞー、と訴えたいマテオは、ぐっと堪えた。自分の姉ははっきり事実を告げなければ、おかしな方向へ解釈する人だ。きちんと説明しなければダメな為人を幾度となく痛感させられている。

 あのですね……、と言いかけたマテオより早く流花が笑顔のままだ。


「お姉さーん、大丈夫ですよぉー。流花はマテオに身も心もやられてしまってますからー、お母さんに何を言っても構わないですぅ」


 まずい、とマテオは思った。

 男女関係において潔癖を求める姉が、流花の発言に我慢なるはずもない。殺される覚悟を持つべきかもしれない。

 それにしてもこいつ、碌でもないよな、とマテオが内心で流花に毒づいているところへ、アイラが前に立った。


「そう、マテオも男になったの。だけど流花ちゃんもそうだけど、まだ年齢的に問題があると思うの。だからやっちゃったものは仕方がないけれど、この後はしばらく自制しなさい。やっぱりケダモノになるのは、妙齢になってきちんと正式な形を取ってからよ」


 なんだか懸命に口振りは整えているものの、根本にある下品が顔を覗かせてくる。そもそも誤解を起点しているから、呆れるしかないマテオだ。


「姉さん。言っておきますが、僕は流花と何かなる以前に付き合ってもいません。いい加減、こういう言い方をするヤツだと理解してください」

「ホントにー? だって男の愛してるなんて口ばかりだって、お姉ちゃんは知ってる。弟が適当なことを言って誤魔化す男の行動に対して理解あるつもりよ」


 マテオとしては、なんだよーである。

 結局は姉自身の不満にかこつけているだけではないか。弟には糾弾しつつも寛容を見せつけ、優越感に浸りたいだけじゃないか。

 なんだか阿呆らしくなったせいで、冷静へ還る。


 今現在は、囲う鬼どもがマテオたちへじりじり迫ってきている。

 動けないマテオに、夕夜と道輝などは意識を失っている。

 莉音だけでなく緋人と冷鵞もまた能力の回復を待つ状態にあるようなことを口走っている。

 残るは、奈薙と新冶(しんや)しかいない。しかも両名は鬼の翁と激闘後だけあって万全からは程遠い。守られる対象は陽乃(ひの)と流花に、瑚華と聡美(さとみ)と増えている。人質を取られたら悠羽だって行動が取れない。


 けっこうまずい状況下ではある。


 けれどもマテオの不安を煽った最大点は戦況の厳しさではない。


 うふっふっふっふー、とアイラの笑いが薄気味悪かったことであった。

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