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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第3部 彼女がチート篇
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最終章:彼女がチートー005ー

 紅い目の夕夜(ゆうや)に言われるままだ。

 マテオが欠けた短剣を掲げれば、異変は起こった。

 失われていた刃が生えてくる。

 鋼ではなく、白銀の髪を吹き揺らす『風』が刀身として形成されていく。


「行け、マテオ。我れの代わりに」


 何を、と紅い目の夕夜に聞き返すまでもなかった。


 マテオが望んでいたことだ。

 誰かに任せるではない、自分の手で守りたかった。

 守れるほど強い力が、ずっと欲しかった。


 マテオは鬼の翁へ向かって走りだす。


 道輝(どうき)! と紅い目の夕夜が呼ぶ声に、「わかってますぞ」と聞こえてくる。

 マテオが胸の前で掲げる剣の刃が、金色に輝く。


 緋人(ひいと)! 冷鵞(れいが)! と夕夜の呼ぶ声には、「おうよ」「わかってる」と挙がる。

 金色の風の刃は、飛んできた火と氷の柱を吸収して刀身を伸ばす。


 短剣ではなくなった長さとなったところで、マテオは地面を蹴った。

 瞬速(しゅんそく)とした能力までは発現できない。だが跳躍するための最後の力を振り絞る。

 鬼の翁の頭上まで飛んだ。


 出来るな、莉音(りおん)! 新冶(しんや)! と紅い目をした夕夜のかけ声に、「誰に言ってんのよ」「お任せください」と返事がある。

 上空に閃光が走った。

 意味を悟ったマテオは剣を掲げた。

 能力を集め金色となった火と氷が風で渦巻く刃へ向けて稲妻が走り、光りの矢が降り注いだ。

 特大にまで伸長した刃は七色の光彩を放つ巨大な刀剣となっていく。


 マテオは見降ろす鬼の顔に、数々の記憶が巡ってくる。

 ここ逢魔街(おうまがい)で過ごしてきた日々がすぎていく。

 決して当初から関係が上手くいっていたわけではない『神々の黄昏の会』の面々に、スーパードクターな女医と口が悪い女性看護師。

 はっきり敵対から始まった白黒仮面部隊を編成する首魁とお付きのバイオノイド。

 ゾンビとされる少女においては、元気だった頃から顔半分しかない変わり果てた姿が蘇る。


 素敵で生意気で面倒が揃う祁邑(きむら)三姉妹。いずれもの笑顔が浮かぶが、すぐに泣き腫らしている様子へ切り替わる。彼女たちがどれほど葛藤してきたか、解るなどと言えない。能力者としての血筋繁栄を名目に嬲りものへされることから逃げたせいで、引き起こった争乱に心を痛めないはずがない。


 自分のせいで死ぬと聞かされて、苦しかっただろう。


 本当に僕は酷いヤツだ、と思う。


 鬼の翁が右腕を突き上げてきた。

 なぜか、マテオは微笑してしまう。

 こんな時に、こんな場面で、自身でも不明な可笑しさが込み上げてくる。

 つい声まで上げそうになったところで脳裏を過ぎる。


 何を考えているのか解らない面倒なヤツなくせに……青い月の下で、マテオの命懸けの行動に、本気で涙を流していた。

 流花の泣き顔を、ここで止められる!


 うおおおぉ! マテオはらしからぬ雄叫びを上げた。


 刀剣の柄を握る右手に左手を添えた、渾身の力を以て振り降ろす。

 マテオには長い時に感じたが、出来事としては一瞬だ。


 鬼の翁の翳された手を斬り裂き、頭頂から股間まで、一閃だった。


 地面まで割るマテオの斬撃は、どぅっと二ヶ所に粉塵を巻き上げさせた。

 鬼の翁の巨軀は真っ二つになって横倒れで地へ落ちていた。


 マテオが勝利を確信するより前だった。

 地面に突き立った刃が霧散する。

 刀身で支えていた身体は崩れ落ちていく。


「よくやった」


 倒れ込む前に腕を回してきた人物へ顔を向ければ、紅い目が待っていた。

 あれほどいろいろ訊きたいと思っていたマテオだが、実際に間近にすれば言葉が出てこない。ども、と気安い間柄でするようなお礼の一言が出ただけた。

 そうか、と返してこられれば、安心感を覚えたほどだ。


 普段の冴闇夕夜(さえやみ ゆうや)と違うことだけは解る、不思議な相手であった。


「どうやら、まだ終わっていないようだな」


 紅い目がマテオから周囲へ配られる。


 視線を追ったマテオは紅い目の夕夜が口にする意味を理解した。


 まだ一万近くいると思われる鬼どもが取り囲む輪を狭めてきていた。


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