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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第3部 彼女がチート篇
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最終章:彼女がチートー003ー

 鬼の(おきな)の殴打は、重機のシャベルかくやだ。

 間一髪で避けたマテオと奈薙(だいち)がいた場所を、ぼっこり穿つ。


「穴掘りかよ」


 そうマテオが表現するくらい、二人くらいは優に収まる大きさで抉られていた。


「どうした、逃げてばかりじゃのぉ。(わし)の消耗狙いだとしたら、無駄じゃぞと言いたいところだが、お主らでどこまでチカラ続くか試してみたいものじゃ」


 鬼の翁の見え透いた挑発だ。

 マテオとしては、奈薙が乗る分には驚かない。莉音(りおん)緋人(ひいと)冷鵞(れいが)は、三バカと陰で叩かれるくらいだから、さもありなんである。新冶(しんや)も実はそういうタイプだったかと考える。


 道輝(どうき)が身を乗り出してきた際は、抑え役はいないのか、と心配になってきた。


 夕夜(ゆうや)の安否が不明な中『神々の黄昏の会』連中は揃って闘志満々だ。

 これほど一方的に全員の能力が効かない結果を見せつけられたにも関わらずである。


「こんな街に住んでおるから、もっと狡辛い(こすからい)連中かと思ってが、やはり持った能力は試さずにおられぬようじゃな」


 鬼の翁が皮肉とわかる感心をしてくる。


 どうでしょうね、と新冶が嫌味には嫌味で返すような、人を不愉快させる笑みを向ける。


「田舎で能力所持者としてふん踏ん反り返っている貴方と違って、能力によって行き場を失った我々です。チカラ試しなんてバカらしい。自分だけの世界で他人の行動を結論づけられる頭の巡りが羨ましい限りです」 


 鬼の翁は挑発はしても、されるは我慢ならないらしい。上とする地位へ長くいた者に見られやすい傾向だ。

 ほざけ!、と赤黒い巨大な腕が新冶へ向けて振り降ろされてくる。


 雷が閃いた、火の柱と尖った氷柱が伸びてくる、金の粉が吹き付けられる。

 向かってくる鬼の腕の動きが鈍れば、光りの矢が降りそそぐ。

 鬼の翁の動きを止めるには、充分だ。

 だがそれ以上はない。


「効かぬわ!」


 響くセリフ通りに、『神々の黄昏の会』の者たちが放つ能力は悉く弾き返されていく。


 かすり傷さえ負わせられなければ、反撃されるのは必然であった。 

 瓦礫で埋まる場所であれば、鬼の翁は手で掴んで投げるだけではない。蹴飛ばしもする。

 いくつも撒かれたコンクリや石の破片を避けているところへ、鬼の翁の腕もしくは足が向かってくる。

 攻撃を仕掛けた『神々の黄昏の会』のメンバーのいずれも飛ばされ、地面を転がっていく。


 トドメを刺すべく足を踏み出した鬼の翁の面前へ、白銀の髪が揺れた。

 マテオだって指を咥えて見ているつもりはない。

 眉間の間へ手にした短剣を突き立てた。刃が脆くなっていることは百も承知だ。

 現に最後の刃は音を立てて砕け散っていく。


 うるさい蝿だ、と悪態を吐かれたが、意識はさせた。

 手を払ってくるのを避ければ、さらに次の手が伸びてくる。

 地に伏した連中へ向かう足の方向は変えられた。


 だがマテオもまた鬼の翁の殴打の直撃は受けなくても、すれすれで躱した際に起きた風圧でよろめく。意図せず着地するしかなかったところへ、巨大な拳が真っ直ぐ向かってきた。


 奈薙の巨漢がマテオの目の前を塞いだ。


「おい、きつそうだな」

「そっちこそ、だろ」


 軽口とは裏腹にマテオは内心で舌を巻いていた。

 鬼の翁が振るう桁外れの威力にも、真っ向から受け止められる。三十メートル級の巨軀に、人間の体格で互角に渡り合っている。


 さすが、とマテオの口から出かかった時、目前の巨体が飛んできた。


 支え切れるはずもなく、奈薙もろとも瓦礫の山へ突っ込んでいく。

 イテテ……、とマテオは立ち上がるにもやっとこさっとこである。

 較べて奈薙は、「くそっ」と頑健さもさることながら気持ちまで激らせている。起き上がるや否や向かっていく。


 マテオが意外に思ったのは、奈薙だけでなく他の者もまた各々再び能力を発現させたことだ。『神々の黄昏の会』の連中に、退く様子は全くない。

 結果は見えている。

 再び全員が跳ね返されれば、直接に拳を交わす奈薙だけでなく皆が傷だらけになっていく。


 無駄じゃとまだ解らぬか、と鬼の翁が腕を掲げた。


 囮にしかならなくてもマテオは助勢に駆けつけようと膝を伸ばす。

 駆け出そうとした、その時だ。


 はっはっは、と奈薙が大きく笑い出した。

 ふふふ、と新冶が続けば、莉音も冷鵞も加わる。緋人など腹を抱えて笑っている。


「お主ら、絶望のあまり気でも触れたか」


 憐れむ鬼の翁の前へ、ついと僧侶姿が立つ。

 金の道輝こそ同情でもするかのように告げてくる。


「違いますぞ。鬼の人、貴方こそ罠にはまる具合が見事すぎて、我々は笑いが止まらぬのですぞ」


 なんじゃと、と鬼の翁に微かとはいえ揺らめきを見せた。


 すると新冶が西の空へ目線を送りながら言う。


「もういい頃合いです。あの方が覚醒する時間だ」


 逢魔街(おうまがい)と呼ばれるに相応しい緋色で染まる上空へ、右腕を突き出して奈薙が吼える。


「キサマは、俺たちの時間稼ぎに付き合わされただけだ」


 なにを……、と鬼の翁の問いは強制的に中断された。

 奈薙が受け止めるだけで精一杯で、『神々の黄昏の会』の能力者のいずれも半歩さえ後退させられなかった鬼の翁だ。


 それが派手に吹っ飛んでいた。


 鬼の翁の巨体がもんどり打って転がっていく。

 巻き上がった砂埃から覗く鬼の顔つきも、事態を把握しきれていない様子が有り有りだ。

 無論、マテオも同様だ。

 ようやく鬼の翁が立っていた地点に人影を認めてからだ。

 本質は捉えられずとも、状況を認識していく。


 どうやら夕夜が復活していたらしい。

 あの鬼の翁を殴ったか蹴ったのか、それは解らない。

 が、一発で吹っ飛ばしたのは事実だ。

 瞬速のマテオが捉えられないほどの早業だった


 そして何よりも戸惑わせられたことがである。


 冴闇夕夜であることは間違いないのに、夕夜ではない。

 まるで別人としか思えない。

 自分の気の迷いとしそうになったマテオだが、ある変化に気づく。


 夕夜の瞳が色彩を変えている。

 黒から夕陽に通じる色合いへ、


 たったそれだけだ。

 なのに何か途轍もないものを目にしてしまった。

 得体の知れない気分にさせられるマテオであった。

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