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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第3部 彼女がチート篇
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第6章:誰もが、みんなー008ー

 耳をつんざく雷鳴が轟く。

 なんだ、とマテオが思う最中に、稲妻が落ちてきた。 

 取り囲む鬼どもの一画を焼き払う。

 なんとか雷から逃れた近場の鬼には、火と氷が横倒しの柱よろしく伸びてきた。


 マテオと奈薙(だいち)を包囲する輪の一角が開けば、偉そうに胸を反らす美女がなかなかなイケメン二人を付き従えてやって来る。


「かわいい後輩を助けるため、莉音(りおん)さまが来てやったわよ」


 雷を放つ能力者が長い髪をかきあげている。


 可愛げなど求められたら困る奈薙が、くだらんとばかりだ。


「今頃のこのこやってきて、よく言うな。それより足を引っ張るなよ。前に敗走してたそうじゃないか」

「いいじゃない、間に合ったんだから。それにあの時は調子が悪かったの。でももう大丈夫、ついにコントロールできる術を身につけたから」


 莉音の自信満々に伝えてくる事実が、マテオには聞き捨てならない。お付きみたいな火の緋人(ひいと)と氷の冷鵞(れいが)へどちらというわけでもなく訊く。


「もしかして莉音というお姉さんの雷撃はノーコンですか」

「狙ったところには落とせないわな」


 逆立つ赤髪が特徴的な緋人が人の良い感じで答えてくれば、切れ長の眼がカッコいい冷鵞も横でうなずく。


「莉音のコントロール、壊滅的なんだ」

「それって、非常に危なくないですか」


 マテオが年上に対して取る慇懃な態度に加え、陽乃(ひの)が巨鬼と化した際、共に肩を並べて向かった経緯もある。

 おかげで緋人と冷鵞のほうも気安い。


「俺たちなんか、何度ぶつけられたか、わかんねーよ」

「瑚華がいなかったら、こうしてまだ存命できているとは思えない」


 うげげっと思わず身を引くマテオに、莉音が慌てて指を差してくる。


「ちょっと、そこ、勝手にディスらないっ。それにもう落とすコントロールを掴んだって言ったでしょ。夕夜(ゆうや)を殺してやろうとした晩を思い出せばヒントが見えたわけ」


 さらりと物騒な話しを持ち出してくる。だからこそマテオは間を開けずして思い至れた。


「莉音のお姉さん。もしかして、その時って僕もいました?」

「うん、いたいた。ほら、陽乃をぶっ殺してやろうとした、あの晩。マテオって言ったっけ? あの時は自分でもびっくりするくらい正確に撃ち込めていたのよ」

「本当に一時は、死ぬかと思いました」

「それくらい絶好調だった理由を後で考えてみたの。そうしたら、わかった!」


 ずいぶん愉しそうにしゃべってくるが、殺されかけたマテオとしては「はぁー」である。感覚がズレた無邪気さほど、危ないものはない。雷撃なんて頭抜けた攻撃力である。しっかり扱えていて欲しいがコントロールできるようになった理由には驚かされた。


 ふふっと莉音は笑って言う。


「嫉妬よ、ジェラシーよ。フィアンセを取った相手を殺そうと狙った時の集中力よ。そうよ。夕夜を取られたワタシの妬みが雷撃のコントロールを正確にするの。今だって、そう。陽乃が見ていると思えば、外すわけがない」


 うーん、と唸るマテオは何か気になる点が生まれた様子が有り有りだった。


 なによぉー、と莉音が尋ねる。


冴闇(さえやみ)に棄てられたのはともかく、そこのお兄さんたちに好きだと言われたことに対しては、莉音のお姉さん、どう答えたんです?」


 瞬間湯沸かし器という喩えが当てはまるのだろうか。忽ちにして真っ赤っかになった莉音は「やだ、もう」と両手で顔を覆った直後だ。


 上空を閃かせ、落ちる稲光りが爆音を轟かす。

 雷撃が建物や道路の残骸で埋もれる地面の何箇所かを灼き吹っ飛ばした。

 ただしマテオたちばかりでなく、鬼どもの一人にも被害は及んでいない。

 敵が一万もいるとする大きな的を外している。


「本当にノーコンだったですね、莉音のお姉さんって」


 感動すら覚えてしまうマテオだ。

 あんたのせいだからね、とまだ真っ赤な莉音の近くで、奈薙が低い声を投げてくる。


「おまえら、気を引き締めろ。あいつら今の雷撃で逆にやる気になったみたいだぞ」


 莉音の雷撃によってもたらされた無惨な黒焦げの死に様が、鬼どもの戦意を一度は奪う。だが周囲にばら撒くように落としたことで、退路を断つ意図と解釈したようだ。

 もう戦ってしか切り抜けられない。

 背水の陣とした鬼どもは以前より手強そうな雰囲気を湛えてくる。


「なんかヤバそうだな」と緋人が口にすれば、「却ってマズくなったかもな」と冷鵞の冷静な指摘とくる。

 ワタシのせいだったりする? と莉音がおずおず訊いてくる。能力を放出しすぎて雷撃を出せなければ、しばし只の人である。守らなければならない立場となれば、緋人と冷鵞が両脇に立った。


「気にするな、それが莉音だからな」「莉音は俺たちが命をかけても守る」


 再び奈薙と背中合わせになったマテオが、そんな三人を眺めながらだ。


「けっこうイイ感じだよな、あの三人って」

「だがな、男女絡みで力を発揮する連中など当てにならんぞ」


 背中越しに返ってきた内容には、笑ってしまいそうなマテオだ。

 悠羽の前で瞬速かと見紛うほど素早さを発揮した奈薙が、それを言うか。

 そう軽口を叩いても良かったが、莉音から嫉妬心を消し戦況を厳しくした原因は自分の余計な質問だ。多少の負い目は感じている。


 鬼が攻勢に出る気配を肌で感じれば、口を開いている暇もなかった。


 来る! マテオが身構えれば、背中越しに奈薙の気合も伝わってくるようだ。

 隣りには、莉音をかばう緋人と冷鵞が火と氷をいつまでも放てるよう右腕を突き出している。

 前面に立つ多数の鬼どもが咆哮を挙げて先陣を切った。


 しかし待ち構えたマテオたちへ戦う以前の事態が訪れた。

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