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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第1部 出会った彼女はミステリー篇
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第3章:姉と妹の記憶ー005ー

 昼食時に、という約束に従いマテオはやってきた。

 超高層ビルの最上階にあるレストランは品のある賑わいを見せている。

 出迎えた店員へ『アーロン・ウォーカー』の名を告げれば、窓際の席へ案内された。


「すっかり大きくなったな〜、マテオ」


 恰幅のいい中年男性が愛想よくかけてくる。

 勧められた席へマテオは腰を降ろせば渋い顔をした。


「いい加減に小さな子供扱いはよしてください、アーロン様」

「なにを言うんだ、マテオ。ケヴィンの息子になるんだろう。ならば私は叔父さんだぞ」


 そう言っては、あっはっはっと太鼓腹を揺すって豪快に笑うアーロンだ。


 マテオとしては、どう答えようか思案のしどころである。


 アーロンはケヴィンと同年のいとこである。能力者ではない。だが異能力世界協会における実質ナンバー2の位置にある。組織運営や経営など実務の辣腕家だ。

 そしてマテオとアイラの双子を幼き頃から知る人物である。

 マテオにすれば頭が上がらない人物の一人であった。


「でも確かアーロン様はケヴィン様の従兄弟ですよね。叔父へ当たるものなのでしょうか」


 細かい点を畏まった物言いで指摘するマテオの心中を読んだアーロンは、やれやれといった表情になる。


「まだケヴィン様と言っているんだな〜、マテオは」

「まだ正式に籍は入っていませんので」

「でもずっと昔からケヴィンの家には迎え入れられているじゃないか」


 にこにこしたアーロンが「好きなので、いいぞ」と注文を促してくる。


 叔父と呼ぶよう言ってきた人物に対し、マテオは常に緊張を強いられる。

 別に嫌っているわけではない。

 さらりと肝心を突いてくる底知れなさに圧倒されてしまうからだ。

 人の好い笑みの下に隠された鋭い感性と思考力は余人の追随を許さないであろうことをマテオは知っていた。


 恐縮する相手であれば、無難にランチとした。

 料理が運ばれる前に、マテオはさっそく尋ねる。


「アーロン様。実はこのマテオ、昨夜、冴闇宅にお邪魔し、祁邑三姉妹と夕飯を共にしました」

「うん、知ってる」


 知ってるのかよー、と返しそうになったマテオだ。けれどもアーロンが続けた会話で何ということもない種明かしをされた。


「ケヴィンが状況を知りたがっていてね。そこで冴闇(さえやみ)には夜遅くで申し訳ないが、私を含めた三人でリモートさせてもらった」


 マテオが冴闇宅を出た後に、映像通信による三者の報告会が行われたようだ。ならば知っていて当然である、


 ふと思い出した夕飯中の出来事にマテオは慌てて探りを入れる。


「あの〜、自分について冴闇はなんか言ってましたか?」

「食べている最中に、いきなり泣き出されて吃驚したそうだ」


 最も知られたくないことを一番に知られたくない人に伝わっている事実をあっさり打ち明けられた。マテオとしてはテーブルに顔をうつ伏したいほどのダメージである。冴闇の野郎、余計なことを言うなよ、と叫ぶ胸のうちである。


 叔父と標榜するアーロンが放っておくはずもない。


「食べている最中のマテオが泣きだすなんて。私だって、知りたいよ」


 私だって、とするアーロンの言い回しがケヴィンも同様な心中であったことを物語っている。


 マテオだって頭を抱えたい。

 まず何より本人が理由不明とくる。どうして涙が溢れて止まらなくなったか。

 口に合えばいいんだけど、と心配そうに陽乃が出してきたお椀は味噌汁だ。マテオは飲んだ記憶はないが、存在自体は知っている。この国特有のスープか、と多少の興味はそそられていた。

 諜報の一環として冷静な思考をもって食卓へ付いていたつもりだった。

 なのに、どうしてあそこまで感情が昂ったか。いずれケヴィンらにも訊かれるだろうが、まだ返す言葉が見つからない。


「そんなに美味しかったのか」


 答えに詰まる相手を気遣うようにアーロンが訊いてくる。

 うーん、とマテオは唸ってからだ。


「なんだろ、スープだったんですけど。飲んでいたら、じんわりしてきて止まらなくなっちゃって」

「それ、能力だと考えられないか」


 ずばりきた指摘に、マテオは可能性を認めつつもだ。やや頬を紅潮させながらである。


「あの陽乃(ひの)さんがそんなことをするなんて思えません。第一、涙を流させるだけなんて意味がないじゃないですか」

「それはマテオだから、まだそれで済んだ話しかもしれないな。本来は本音とする感情を引き出す能力だったかもしれない」

 あくまでも推論から出ない話しだがな、と付け加えていた。


 マテオとしても反省モードだ。考えつくべき可能性へ至らず感情的になるなどあってはならない。こんな調子では自身が目指す姿へ近づけない。


 しゅんとなる若者をアーロンは年配者としての余裕で迎えた。


「だけどまぁ、マテオが普通の男の子かもしれないと思わせてくれるのは、叔父としては楽しいな」

「なにがですか」

「もし能力などではなく単なる料理だったほうがマテオにとっては大問題ということだよ」


 あっはっはっと今度は笑いで締めるアーロンだ。


 この時点でマテオは叔父さんの言っている意味を理解できていない。

 真意を深追いするには約束の時間が迫っていた。

 マテオは呼び出しを受けていた。

 鬼とされる祁邑(きむら)三姉妹の末妹からである。


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