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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第3部 彼女がチート篇
159/173

6章:誰もが、みんなー004ー

 鬼の影が二人を覆う。

 マテオを背中から抱き止め、へたり込む流花(るか)が見上げる瞳は虚ろだ。

 美少女と視線をかち合わせる鬼の理作(りさく)は、相も変わらず嘲笑を浮かべている。


「次女の初乗りは、俺となった。もう諦めてそいつを離しな。後生大事に抱えていたって、お守りにもなりやしねーぞ」


 流花はマテオを抱きしめたまま動かない。

 しょうがねーな、と理作が腕を伸ばしかけた。


 血を飛び散らせた鬼は理作だけではない。取り囲んでいた鬼たちもだった。

 血が滲む肩口を押さえ後ずさる理作に続くように、取り巻いていた鬼たちもそれぞれの負傷箇所を気にかけつつ後退する。


 マテオが赤く濡れた短剣を手に立ち上がっていた。


 マテオ……、と座り込む流花の信じられないといった顔だ。


「て、てめぇー。まだ動けんのかっ」


 理作が怒鳴ってくるが、マテオの耳へは入らない。

 話したい相手、聞きたい声、それは流花しかいなかった。


「ごめんな、僕が弱くて」

「なに言ってるの。マテオが弱いわけないじゃん」

「弱いさ。鬼の手から助けてやれないんだからな」


 肩越しで語りかけてくるマテオの横顔に、地面に腰掛ける流花は胸に置いた手をぎゅっと握り締める。


「ここまでやって来てくれただけで、流花は嬉しい。だからマテオは、もういいよ。ここから逃げて。後は流花が引き受ける」


 最後の口調に装う明るさをマテオは聞き取った。

 だからこそだ。


「流花だけになんて、させられない。僕も引き受けるよ、この命で」


 なに……、と言いかけた流花の言葉を塞ぐようにである。 


「本当は死にたくなるほど『鬼の花嫁』なんかなりたくないんだろ。僕はそんな流花を守ってやりたいさ。けれども父上や兄上、冴闇(さえやみ)みたいに強くないから守ってやれない。だから僕の賭けた命を見せたい、流花のために」


 マテオ……、と呼ぶ流花は想いを振り払うかのように首を横に振った。


「ダメだよ、マテオが死ぬ姿なんか見せられたって、流花、嬉しくない。そんなの呪いだよ」

「そうさ、呪いさ。流花にはどんな目に遭ったって生きて欲しいとする呪いだ」


 流花は声を挙げなかった。代わりに両手で顔を覆っている。

 横目でそんな姿を見ながらマテオは語り続ける。


「僕が弱いばかりに、流花はこれから酷い目に遭うだろう。もしかして鬼の子を宿すはめになるかもしれない。それでも生きていれば、きっと助けが来る。冴闇だけじゃない。僕の姉さん……家族が放っておかないさ」


 顔から手を離す流花を確認すれば、ふっとマテオは笑みを洩らしては前を向く。

 思ったより傷が深いのか、他の鬼を前面へ出す肩を押さえた理作だ。だが口は回さずにいられないようだ。


「このガキっ、俺を流花とやらせなかったことを骨の髄まで後悔させてやるぞ」


 あっはっはー、とマテオはわざとらしいまでの大笑いをした。


陽乃(ひの)さんや悠羽(うれう)の能力に恐れを為して、流花だけ付け狙う小心さが笑える。結局、自分より強い相手には腰砕けなんて、鬼のプライドなんてそんなもんなんだよな」

「でもよぉー、おまえは笑う鬼に殺されるんだぜ。無惨にな」

「悪いな。僕は死のうとも、何もできないままでなければいいんだ」


 そう、もうあれだけはしてならない。

 恐れ怯えるまま動けず、ただ誰かに守ってもらう。なにも出来ず泣くだけで、誰かに命を削るような戦いへ身を投じさせる。自分のために、命を投げ出させる。

 情けない自分を顧みるたびに、いつかは、と思ってきた。


 僕が代わりに命を賭けたいんだ、と。


 そして、そうする相手は姉だと固く信じていた。

 ところが実際は……。


 マテオは腹の底から込み上げてくる笑いを必死に堪えた。一度吐き出したら、止まらなくなりそうだったから我慢した。

 やれやれだ、人生はまったくままならない。


「なに言ってやがる、てめぇー。楽には死なさねーぞ」


 鬼の理作が、がなってくる。

 マテオに話す時間の終わりを報せてくる。


「いいな、流花。僕の命を受け取れ」


 うん、と返事があったような気はしたが、定かでない。

 だけど最後に想いを残せただけで満足だ。


 押し寄せてくる鬼どもへ、マテオは向かって行った。


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