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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第3部 彼女がチート篇
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第5章:大漢の柄にもない気持ちーエピソード・奈薙ー006

 その瞳に全ての合点がいった、そんな気がする。

 初めて砂場に座り込む悠羽(うれう)を目にした時に湧き上がった得も知れぬ感情。虚ろな瞳が向ける先を、奈薙(だいち)は知りたかった。 


 殺す、と今は『姫』と呼ぶ人が言う。

 ならばである。


 ドリルを腕に装備した五人が叫んでは逃げようとしていた。


「ひぃいいいっー」「こんなの聞いてないぞー」「なによ、あれー」「人間じゃなくて、怪物じゃない」「た、助けてくれー」


 体格からは想像できない俊敏さで奈薙は五人の前へ立ち塞がった。

 地とされる能力は発現しなくても、人並み外れた怪力を振るう。

 怯える顔を容赦なく叩き潰す、逃さぬと掴んだ首を音が鳴るほど砕く。

 黒服の五人に平等な結末を与えた奈薙であった。


 事が済めば、血と死臭をまとった大柄な体軀は、殺すと宣言した人物へ向かう。

 砂場へ戻る段になって、ようやく奈薙は気づく。

 悠羽の膝まで砂が埋めていることを。

 そうか、と口にしなくても納得だ。

 なぜ能力を秘すか、解った。


「姫の能力は、姉たちは知っているのか」


 自然な口振りでする奈薙の質問に、悠羽はゆっくり首を横に振る。


「知らない、と思う。知っていたら、うれを抱き上げたりはしないよ。それより奈薙はなんで戻って……」


 言葉が途中で切れたのは、まさかな事態が起きたからだ。

 悠羽が驚くあまり震える。


「……なんで……なんで、そんなことができるの? 奈薙はうれの能力が解ったんでしょ?」


 筋骨逞しい腕に両脇を抱かれて高く掲げられている悠羽だ。


「触れられた瞬間に相手を砂へ変えられる能力なのだろう」

「だったら……」

「制御できるようではないか。ならば問題なしだ」


 問題あるでしょ! と叫ぶ悠羽は、宙でじたばた手足を動かす。


「奈薙は、バカなの。今にでも砂になっっちゃうかもしれないよ、ちょっとした拍子に発現させちゃうかもしれない。うれなんか掴んでいたら、死んじゃうよ」

「だが何もしなければ、姫が空っぽになってしまう」


 悠羽の暴れる手足が止まった。

 夕陽に染まる公園に沈黙が訪れる。

 死屍累々の場所に相応しい静けさだ。

 奈薙の怪力は桁外れだから、幼児くらいならいくら掲げても苦にならない。

 音を上げるとしたら、抱き上げられているほうだ。


「もう、降ろしてくれる」


 会話を開始する取っ掛かりは悠羽からだった。

 奈薙は壊れ物を扱うような慎重さを以て降ろす。


 砂場ではなく、自分の前へ着地させた。

 悠羽は地に足を着けるなり、横を向く。

 姫……、と奈薙が呼ばれるなかで、公園に横たわる惨状を見渡していた。


「奈薙って、平気でやれるんだね」

「こんな俺が怖くなったか」

「まさか。ただちょっと意外だっただけ。相手の命を取りにいくことには、ためらいそうな感じがしていたから。これじゃ、うれの虐殺と同じ……」


 悠羽は話しているうちに気がついた。

 殺戮は自分のために行ったのではないか。

 はっと見上げる悠羽の視線を、奈薙は受け止めながらである。


「姫の肉親にも隠したい秘密を外へ持ち出しなどさせられないしな。それに何よりだ、姫を殺害しようなど、許さん。断じて許すわけにはいかない」


 輝きかけた顔を悠羽は伏せる。ぽつり、力なく問いかける。


「うれの能力で自分を消して欲しいからだったりする……」

「違うな、それは違う」


 きゃっと悠羽が小さく悲鳴を上げた。

 いきなり抱き上げられたせいだ。

 今度は掲げられるではなく、右肩へ置かれた。

 大男だけあって広く、幼女が腰掛けても余るほどだ。


「どうだ、姫。座り心地は悪くないか」

「別に、良いくらい……」


 そうか、良かった、と奈薙は嬉しそうに言っては、あっはっはっと大笑いする。

 悠羽は初めてこの大男に対して、どう反応していいか解らない。笑いが収まるまで待つほかない。


 俺はな、と奈薙が始めれば、悠羽は斜め上から横顔を眺めた。 


「これまで何も考えてこなかった。他人にどう利用され危険に陥っても、やりすごせてきたからな。生きるも死ぬも関係なく流してきた。だけど今は違う。もっと先を見たくなった。姫のおかげでな」

「奈薙はわかってる? うれのチカラは世界中から目の敵にされるかもしれないものなんだよ」

「なら、世界中のやつらを相手にするだけだ」


 奈薙は肩にしているから、仰いだ悠羽の表情を確認できない。

 溢れそうな涙を堪えているなど読み取れず、届けられた呆れ声だけを聞いた。


「奈薙はお気楽すぎる。もう、ホント、ノーテンキ」

「考えることは、姫に任せるとしよう。武闘においては俺が力を尽くす。全力で貴女の盾になる。だから……」

「だから?」

「姫は能力を使うな。一生の秘密とするよう、俺が守る。守ってみせる」


 奈薙の誓いだった。

 それは難しいと、誓った当人が百も承知している。

 それでもこんな早々だとは、頭によぎりもしなかった。


 右腕が砂塵化としていく男へ向ける悠羽の瞳に、奈薙は悪夢を見る想いだった。


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