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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第3部 彼女がチート篇
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第5章:大漢の柄にもない気持ちーエピソード・奈薙ー005

 踏み込んできた時点で察した。

 姫、と奈薙(だいち)が呼ぶ響きは今までと違う。低く重い一声をもって、逢魔街で一目置かれる『神々の黄昏の会』に請われるだけはある能力者としての存在感を漂わす。


 奈薙、と砂山を作る手を止めた悠羽(うれう)だ。

 呼ばれた大男は砂場の前へ立ち塞がるように出た。


「貴様ら、何の用だ」


 奈薙が問う相手は、黒服にサングラスをかけた五人の男女混合だ。横並びで歩いてくる。

 うち右端の男が口火を切った。


「情報通り『地』の属性とされる能力者が付いていたか」

「しかしまだホシの根源素とするチカラには目覚めていない」

「まだ操れていない」

「ただの馬鹿力だ」

「今なら潰せる」


 右から左へ順繰りにしゃべってくるいずれの表情にも自信のほどが窺えた。

 ただし五人の黒服連中がサングラスで顔を隠していても平静を隠せなくなる。


 ふっと奈薙が口許を緩めては、忽ちにして大笑いを上げたからだ。


 なにが可笑しい、と右端の男が堪えきれないかのように訊いてきた。

 奈薙はまだ胸を上下させて笑っている。


「そうか、俺を潰してくれるか。ありがたい、ぜひやってみせてくれ」


 なんだと、と応じた右端の男だけでなく、居並ぶ他の四人まで気色ばんでいる。


「俺を潰そうとした人間は、これが初めてと思うか。子供の頃からずっと、俺を潰そうとした人間はいたんだ。一番最初は親や兄弟だったな」


 奈薙の告白に、黒服の五人は合図を交わしていないにも関わらず一斉に足を止めた。

 内容に、というより発言者に気圧された感だ。

 只者ではない。

 微かだが黒服五人の絶対的だった自信に揺らぎが見えだした。


 敵の様子など全くお構いなしの奈薙は笑いを滲ませたまま続けた。


「確かあいつらも地の属性がなんたらかんたら言ってたな。俺にしたら、そんなモン、どうでもいい。壊れないこの身体と拳で、これまでやってきたんだ。それ以外に方法など、知らん。知らんが、ここまでこうして生きてきた。それが事実だ」

「ならば、頑丈とするその身体。これから我々が破壊してやろう」


 右端の男のセリフが合図となったようだ。

 五人の腕が回転音を立て、片腕の服が弾け飛ぶ。

 銀色に光る三角錐のドリルが現れた。


「我らの武器で『地』とされる能力者は掘削(くっさく)されるのだ」

「装備だけでなく、言うことまで、ずいぶん安っぽいものだな」


 口許の笑みが消えない奈薙に、片腕がドリルそのものとした五人は熱り立つ。

 へらず口を叩くな、と言う声を合図にして、一斉に襲い掛かる。


 奈薙っ、と悠羽が心配して呼ぶ声を背に「大丈夫だ」と奈薙は向かっていく。 


 音を立てて回るドリルは少し触れただけでも、大怪我しそうな代物だ。

 黒服の五人が怯まず向かう姿は、相手が一人というだけでなく装備した武器にも信頼を寄せている証拠だ。


 信用は早々に崩れた。

 頑丈な鋼製で鋭い回転もしているドリルがへし折られていく。

 生身の拳に側面から殴りつけられて損壊していく。

 バカな、と思う顔面へドリルを破壊した拳が飛んできた。

 相手が女性だろうと容赦しない奈薙によって、五人は次々に宙を舞う。

 地面へ叩きつけられ、伸びていった。


「お、おまえ、バケモノか」


 かつて右端を陣取っていた男は、ひしゃげた顔でうめくように言う。

 奈薙は笑っているものの、自嘲の影もまた滑ってくる。


「そう言われて育ってきた俺だ」


 突如だった。

 完膚なきまでに叩きのめされたドリル装備の五人組が笑いだす。

 さすがの奈薙も、不気味この上ない。


「なにを笑う」


 声低く問う奈薙に、右端に位置していた男が嘲るように言う。


「我々は役目を果たせた」

「なにを言っている」

「囮だったというわけだ。抹殺したかった相手は、お前ではない」


 公園にいる人物といえば、二人だけだ。奈薙と……。

 しまった! と奈薙は振り返る。


 すでに砂場は内が見えないほど黒服で取り囲まれていた。

 どいつも腕に装備したドリルを掲げている。

 中心にいる悠羽へ振り降ろそうとしている。


「やめろー!」


 奈薙は人生初めてと言っていい、絶叫をした。

 腕を伸ばし駆け出せば、敵も読んでいたのだろう。

 同じような格好と装備の者たちが前を塞ぐ。回転させたドリルを差し向けてくる。


 奈薙は吹っ飛ばしながら思う。

 だから俺は嫌だったんだ……。

 いや、違う。

 こんな俺が嫌なんだ。

 いくら強くたって、いざという時に何も出来ないでは意味がない。

 いつも誰かの策略に嵌められる、利用されてばかりだ。

 今回は、今回だけはしくじってならなかったのに……。


 奈薙の目に砂場を取り囲むドリルが悠羽を目がけて降ろされる光景が映った。

 姫ー! と叫んだつもりだが、実際に声となっていたか解らない。

 自身について把握し得ないほど動転していた。目前の展開をきちんと認知できるはずもない。

 

 思い込んでいた血飛沫が舞う惨状はなかった。

 何事もなかったかのように砂場に立ち尽くす幼女がいる。

 奈薙と視線が会えば、じっと見つめ返してきた。

 深淵に落ちたような暗い目をして、口を開く。


「うれは今から奈薙を殺す」


 悠羽による殺害の宣言が為された。

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