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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第3部 彼女がチート篇
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第5章:大漢の柄にもない気持ちーエピソード・奈薙ー003

 今日も公園の出入り口際で立ち尽くす。

 奈薙(だいち)は胸の前で腕を組み身じろぎもしない。

 頑として動かないオーラを放っていた。

 変化を与えられるとしたら、公園奥の砂場にいる幼女しかいない。


 奈薙を唯一動かせる悠羽(うれう)が手招きしたから、ようやく景色に変化は起こった。

 腕組みを解いた『神々の黄昏の会』の大男は、のっしのっしと敷地内へ入って行く。

 砂場に着けば、さっそくである。


「どうした、悠羽さん。遊び相手になって欲しいなら、言ってくれ。力になるぞ」


 砂場にしゃがむ悠羽は呆れ返っていた。


「砂遊びに、誰がこんなデカブツを呼ぶのよ」

「だが悠羽さんには友達が出来ず、ずっと独りではないか」

「うれに問題があって友達がいないなんてしないでくれる。よく考えて見なさいよ、他の子供が遊びに来たことあった?」


 そういえば、と奈薙は頭を捻る顔つきをした。


「確かに俺はここの公園で遊ぶ子を見たことがない。どうしたことだ」

「あんたの、奈薙のせいよ。わかんない?」


 わからん、と即答する奈薙は、なぜか胸を反らす。

 嘆息を吐く悠羽は、とても幼児に見えない。


「入り口に険しい顔した大男が公園を睨みながら突っ立ってるんだから。親が子供を行かせなくて当たり前じゃない」

「そうか、そうだったのか。それはすまない」


 奈薙が堂々とした居住まいから一転して、申し訳なさそうに頭を下げる。

 やや面喰らった悠羽であったが、やれやれとした態度へ変えて言い放つ。 


「そういうわけだから、もう来なくていい。冴闇(さえやみ)のおじちゃんにも言ってあるし、大丈夫だから」

「悠羽さんは勘違いしているぞ」

「なにを?」

夕夜(ゆうや)にきっかけを与えられたもしれないが、あいつの言うことに従う気などないぞ。ここへ来ているのは、俺の意志だ」


 もし奈薙が目敏ければ、悠羽の閃かせた表情を嬉しく思ったかもしれない。ただ相変わらずなので、口にしてから恐る恐る相手の顔を窺い、誤りとする解釈をぶち上げる。


「か、勘違いして欲しいじゃない、勘違いしないで欲しいのだが、俺は悠羽さんが身に危険を感じるようなロリコンでは、決してないぞ」

「奈薙って、実はそうだったの」

「だから俺はロリコンではないと言っている」

「勘違いさせるよ。言い方が下手すぎる」


 悠羽の断定に、「そ、そうなのか。それはすまない」と素直に首肯し謝罪する奈薙である。

 大男の憎めない態度が功を奏したようだ。


「わかった。来て構わないから、公園の入り口で立たないでくれる。公園に遊びに来たい子もいるだろうし、ご近所から白い眼を送られるようになったらまずいしね」

「おおっ、いいのか。そばに行って」


 仔犬が尻尾を振ってくるようであれば、はいはいと悠羽もうなずくしかない。

 なにせ仔犬役に当たるほうが巨岩のごとき厳つい大男で、しかも振る相手は幼女とくる。プライドを捨ててまでとする態度には、悠羽も降参するほかない。心底から胸まで撫で下ろす様子を目にすれば、訊かずにいられない。


「どうして奈薙は、うれのところへそんなに来たがるの。やっぱりロリコン?」


 余計な一言を付け加えたおかげで、「そんなわけ、あるかー」と始めた奈薙である。

 必死に否定してくる姿に、悠羽は多少の反省を込めて遮る。


「わかった、わかったから、奈薙。ごめん、変に疑って」

「いや、悠羽さんが謝る必要はない。来るなと言われているところへ、押しかけているんだからな。辛く当たられても仕方がないと俺は思っている」


 辛かったんだ、と悠羽の口から突いて出た。

 初めて見る様子に奈薙は、いかんいかんとばかりに首を振った。


「辛いというのは、大袈裟すぎたな。俺はこの通り、雨が降ろうが矢に当たろうが、別段気にしない男だ。ただ女心というものが、さっぱりわからん。どうしてここで怒る、なぜ泣く? だから悠羽さんを不快にさせても原因がつかめない。だから、すまん」


 あははは、と鈴を転がすような笑い声が青い空へ吸い込まれていく。

 涙が滲むほど破顔した悠羽が目許を拭いながらである。


「ホント、奈薙って、おっかし。おもしろすぎるんだけど」


 そ、そうか? と真面目に奈薙は戸惑ってしまう。


「それにこんなガキに、そんな畏まらなくていいんだよ。奈薙の大人としての体面もあるだろうし」

「だが俺は、悠羽さんとしゃべっていると、どうも幼児を相手しているように思えん。むしろ俺のほうが下に感じてしまうほどなんだ。だからかもしれん、こうして来てしまうのは」


 そうか、と似たような返事でも、悠羽は奈薙と違って納得している。

 思い悩む役目は大男のほうであり、幼女にお伺い立てる身分となっている。


「俺ごときが悠羽さんを理解できるように思えんが、気になってしょうがない人物には違いない。とりあえずボディーガードとしてくれれば、役に立てる」

「うれ、強いよ」


 ぽつりと、しかし凄みある暗き響きだ。

 他者からしたら、悠羽の本性を見たとして警戒を抱くだろう。


 奈薙といえば、お構いなしだ。


「それは凄い能力者とする意味ならば、なおのこと俺が必要だろう」


 なんで? と不意を突かれたような悠羽である。

 初めて奈薙が動揺を誘ったシーンだが、当の本人は気づかない。


「いざっていう時のためにどんな能力か、相手へ知られないようにしておくべきだ。それまでは、俺を頼ってくれ」


 ドンっと胸まで叩いて見せる奈薙だった。

 この時に、きちんと聞いておくべきではなかったか。そう悔やむまで、さほど日にちはかからなかった。

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