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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第3部 彼女がチート篇
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第5章:大漢の柄にもない気持ちーエピソード・奈薙ー002

 コホンっ、わざとらしく咳をして見せるなど、およそらしくない。

 自分でやっておきながら、情けなく感じる奈薙(だいち)だ。

 なに緊張を誤魔化そうとしている、しっかりしろ! そう自身を叱咤激励している時点で、すでにおかしかった。


 なにはともあれ砂場へ近寄れば、威圧しないよう心がけてである。


「俺は奈薙だ。夕夜(ゆうや)に言われて、悠羽(うれう)さんのボディーガードみたいなものへ就くことになった。よろしく頼む」


 普段より柔らかくとした戒めはあまり功を奏さなかった自己紹介を切り出す。

 悠羽の顔が伏せられてしまい、己れの失敗が過ぎる。

 無調法を強く自覚していれば、奈薙は慌てた。


「す、すまない。こんななりだから子供には怖く感じるかもしれないが、危害など加えたりしないぞ。たまに力加減を失敗するくらいだ」


 余計な一言を口にしたと気づけば、さらに口が廻る。 


「もちろん最近はだいたい大丈夫になっている。間違ってぶち殺してしまったのは昔の話しだ。今なら、そうだな、子供の遊び相手くらいは出来ないこともない」


 うつむく悠羽の肩が小刻みに震えだす。

 奈薙としては、非常にまずいことを告白してしまった後悔が押し寄せてきている。

 怖がられて当然だし、嫌われてもしょうがない。

 いつも俺はこうだ、と落ち込んでもきた。


 突然だった。

 爆発するような笑い声が立つ。

 大きいが、所詮は幼女の口から洩れるものだから可愛らしい。

 けれども奈薙としては、全くの予想外だ。

 唖然としてしまう。

 どれだけ笑われていただろう。

 あまりに長いから、奈薙は少々むくれてしまう。


「な、なにが、そんなにおかしいんだ。り、理由を教えてもらいたいっ」


 子供相手に対して何ムキになっているんだ、とまたも言ってから悔やむ奈薙へ顔が向いた。

 涙を拭く笑い顔に触れれば目が離れなくなる。


「どうしたの、見惚れてる?」


 悠羽がからかうような口調だったから、奈薙はついだった。


「そ、そんなわけ、あるか! たかがガキ相手に。確かに綺麗だとは思ったがな」


 昂りやすい性格なうえ、思わず本音までこぼしてしまう。

 特に今回はまずい、致命的と言ってもいい。

 えっ、と悠羽もちょっと不意を突かれた感じだ。

 口にしたほうは、頭を抱えてしまうほど気まずい。


「と、と、ともかくだ。逢魔街(おうまがい)で子供を独りで遊ばせるなど危険だ。大人が見守る必要があるのは間違いないんだ。況してや、かわいくて綺麗なら尚さらだ」


 赤くなっている自覚がない奈薙が強く主張する。


 ふーん、と悠羽が膝を立てては伸ばした。

 立ち上がれば、パッパッと膝下に付いた砂を手で払う。

 胸の前で腕を組んで仁王立ちすれば、奈薙からすればとても五歳には思えない。


「あんた、ロリコンじゃないわよね」

「失礼なことを言うな。これはあなたに対してであって、俺が子供相手に綺麗だのなんだの思うわけないだろう。それより俺には、あんたではなく奈薙という名前があるんだ。悠羽さん」


 ぷっと吹き出しては、またも腹を抱えだす悠羽だ。

 なぜ笑われるのか不明な奈薙だが、悪い気はしない。


「まぁロリコンかどうかは別にして、真面目は真面目なのが解った」

「そうか、解ってくれたか」


 奈薙の反応が、せっかく収まりかけた笑いをぶり返させる。またしばらく悠羽の言葉待ちをしなければならなくなった。


「あー、もー、おっかし。冴闇(さえやみ)のおじちゃんの仲間って言うから、どんな人かと思ったけど……どうしたの?」


 悠羽が不審げに訊いたのは、奈薙が今度は自分の番だと言わんばかりに笑いだしたからだ。


「夕夜が、あの夕夜が……おじさんかぁ……」


 笑いの間に聞こえてくる奈薙の台詞に、悠羽は息を吐く。


「あんたたち、闇が深そうね」

「それはそうだ。俺を含めて、碌なモンはいないぞ」

「ある意味、すさんでいるわね、あんた」

「悠羽さんこそ、ぜんぜん五歳には見えないんだが」


 悠羽は上空を仰いで一拍の間を置いた後だ。


「……子供でなんか……いられないわよ」 


 なにか崇高な姿を見せられている気分の奈薙は、同時にである。

 得体の知れないざわめきを憶えた。

 正体が判明するのは悠羽と別れてから数時間かかる。


 哀しい。

 それはこれまで縁のなかった感情だ。そのせいで理解するまで時を要してしまった。


 祁邑の末娘である『悠羽』は、奈薙にすれば初めて会うタイプだ。とても不思議な人だった。

 彼女に付くことは、そう簡単な仕事ではないと考えるに至った。


 なれば、である。


 奈薙、と悠羽から初めて名前を呼ばれて緊張したところへ告げられた内容は承服しかねる。 

 明日から来なくていい、と言われても、はい、そうですかとなれるはずもなかった。

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