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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第3部 彼女がチート篇
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第4章:離れないー008ー

 急ぐ道すがらだ。

 申し訳なかった、と肩を並べる早足のリーが言う。


「別に、リーは悪くないだろ」


 返事するマテオの足が緩まることはない。

 無理はまだ早くても、時間がない。


「いや、先のことだけじゃない。コードネームMAKOTOの件も含めてだ」


 なおも喰い下がるリーに、気にするなとばかりにマテオは手を振った。

 むしろ今となっては感謝したいくらいだ。


 自ら望んでとはいえ流花(るか)を連れて行かれそうになれば、全力で阻止しようとした。

 鬼どもを殺してでも、だ。

 瞬速の能力を発現しようとした、まさにその寸前だ。


 やめるんだ、と顔半分の傷跡をマスクで覆うリーが間近にあった。

 掴まれた肩は痛いほどである。

 だけど……、とマテオの小さくも鋭く声に、リーがたしなめる。

 行動を起こしたところで流花の気持ちが変わらなければ意味がない、と。

 くっと目を伏せたマテオは短剣の柄から手を離した。


 流花の肩を抱いて連れていく理作(りさく)のこれ見よがしな声がする。


「これから陽乃(ひの)がぶっ壊した西新宿で、自らお出まししてきた翁と待ち合わせだ。ここは有り難いことに何やってもいい『逢魔ヶ刻(おうまがとき)』があるからな。だからよぉー」


 芝居がかった理作の発言は、一旦の間を置いてから肝心へ移る。


「わざわざ国へ戻るまでもねー。(おきな)の命で、ここで今日『花嫁の儀式』を行うってよ」


 ビクッと流花が震えたが、それも一瞬である。

 何事もないかのように平然と鬼たちが集うほうへ進んで行く。

 流花ぁー、とマコトが呼んだが、振り向きはしなかった。


 流花が鬼の間へ消えていけば、マテオは気を引き締めるよう自らを叱咤する。

 まだ自分たちを囲む鬼となる男たちがおとなしく引き下がるなんて思えない。

 約束などしていなければ、襲撃は当然あると考えた。

 ところが意外にも、連中は消えた。

 どうしたんだ、とマテオは口にさずにはいられない。


「彼ら全員が儀式に参加できるのだろ。あれほどの美少女を好きに出来るとなれば、危険を避けて欲情を叶えることを何より優先したんじゃないか」


 解答に違いない内容をリーが述べる。

 流花、とまた発するマコトは、今にも飛び出しそうだ。

 その腕を抑えたのは、マテオだ。怪我してるんだろ、と流花の気持ちを汲んだ行動を取っていた。

 だけどね、となお向かう意志を見せるマコトの横へ来たリーが、「すまなかった」と頭を下げる。


「流花が思い詰めたのは、自分がマコトの状況を悟らせるような話しをしてしまったに違いないんだ」

「仕方がないんじゃないか、それは」


 なぐさめなどではなく、本当にそう考えるマテオだ。

 隠れ家に潜んでいる間、ずっとマテオは高熱のため床に伏せっていた。

 二人で見守るしかない状況下で、流花がリーを相手にマコトがどうしているか、切り出すのは当然だ。答えるな、などとする謂れもない。


 高層ビルに匹敵するほど巨大な鬼へ変身した陽乃が西新宿一帯を壊滅させるほど暴れた際だった。

 流花は解決へ向かうマテオと離れたところを、鬼どもに狙われた。

 共にあり守ろうとした楓はズタズタにまで引き裂かれてしまう。

 災害級の事態に流花の身を危惧して探して出たマコトが発見した時は、鬼どもに連れ去られようとしている姿だった。

 助けに向かうも、阻む鬼は多勢だ。鉄をも斬り裂く鉤爪を持ち、凶暴無比である。

 マコトもまた目にしたら辛くなるような、こっ酷くやられ方をした。

 今日は駆け付けられたとはいえ、機械部分の修理が済んだだけで生身の傷は癒えたするには程遠い。現在こうしている間にも、額から流れる緋い血である。


 マコトは戻って休め、とマテオが言うのはもっともだった。


「休めるないよ。これから流花が酷い目に遭おうとしているのに、何もしないなんて出来ないね。(かえで)と約束もしているのよ」


 頑としたマコトの態度だったから、リーは言うしかなかった。


「諦めるんだ。周囲の者が傷つくくらいなら、と彼女自身が望んだことだ」

「そんなの聞けないね。流花は、流花はね、いい娘なんだよ。なんだね、花嫁って。まだ十五にもなっていないのに、寄ってたかって……そんなの、まこちゃんの命に換えてもさせたくないよ」

「無理だ、無理なんだ。ただでさえ逢魔ヶ刻は我々のオートマータ(機械人形)は起動しなくなる。いや仮に動いたとしても、あれだけ強靭な鬼を数まで揃えられたら、敵わない。そう我々は無力なんだ」


 リーの説得しているはずの声が、悲痛を帯びてくる。

 で、でも……、と抗する姿勢のマコトだから現実を叩きつけていく。


「我々は弱いんだ、助けたいといくら願っても叶える実力がないことを自覚するんだ。マコトが行ったところで、どうせ返り討ちに会い、流花に無惨な光景を見せるだけだ。わかるだろう」


 辛そうなのは聞いたマコトだけでなく、言ったリーも然りである。


 沈痛な想いで固まった空気を壊したのは、マテオの決意だった。

 まだある……、と小さな響きながらリーとマコトの両名の耳は拾う。

 ゆっくり白銀の髪を抱く顔が上がった。


「これから甘露(あまつゆ)先生のところへ行く」


 自分達の居場所を売った医師に会うとマテオは告げた。

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