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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第3部 彼女がチート篇
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第4章:離れないー006ー

 ようやく熱から冷めたと思えば、次から次だ。


 マテオは白黒仮面を付けた機械人形(オートマータ)に抱え上げられた。

 逢魔街(おうまがい)へ来た日に襲われた同種の敵に、こうして助けられている。

 急迫しているにも関わらず、妙な感慨が湧いていた。


「屋根伝いに行くよ、しっかり捕まってて欲しい」


 注意を飛ばすリーだけでなく、流花(るか)もマテオと同様に機械人形によって背中と両膝裏に手を回されていた。


 なぁ、リー、とマテオは呼ぶ。


「こいつらの抱え方、どうにかならないか。流花はいいとして、なんていうか俺たち男にしてみれば、お姫様抱っこって屈辱的に思わないか」

「その意見に検討する余地は認めるが、今は我慢してくれないか」


 もっともな意見だなとマテオが頷こうとしたら、宙に浮いた。


 真っ青な空を背景にリーを抱えた機械人形を追う形で、マテオと流花が運ばれていく。

 背後で追手たちの声が聞こえてくる。

 どうやら屋上まで上がってきたらしい。

 鬼どもに軽やかな身体能力はない。

 次々と屋根を越えていくマテオたちの逃亡に追いつく術はないだろう。


 そう、油断してしまった。


 現在は、通常の時間帯だ。

 逢魔ヶ刻に発生する謎の通信障害はない。

 スマホなど使用可能であれば、連絡をつけたのだろう。


 空気を切り裂いて、飛んでくる。 

 銃が厳禁とされる国であるから、飛び道具として腕を磨くとしたら弓矢だ。

 鬼の能力者が集う『東』において、名手と呼ばれる者がいるようだ。


 正確に流花を運ぶ機械人形の白黒仮面を射抜く。

 額に矢を生やせば、屋根の上からもつれ転げる。

 きゃー、と悲鳴の流花もろとも路地裏へ落ちていった。


 流花っ、と叫ぶマテオは、リーへ顔を向けた。

 解っている、と返事があれば、二人を抱える機械人形は向きを変える。

 落下した流花を追った。

 地面へ降りれば、さっそくだ。


「大丈夫か、流花」


 マテオが駆け寄れば、「あいたたた」と口にする流花は元気そうだ。

 ほっとするマテオとリーの横で、流花は矢が刺さる機械人形へそっと手を当てた。


「ありがとう、流花を守ってくれて」


 頭部を破壊されながらも、最後はかばう機能が働いたようだ。屋根から落ちながら流花がかすり傷ですんだのも、機械人形が自分を盾として地面の激突を引き受けたからである。


 マテオの手を借りて流花が立ち上がれば、残る二体の機械人形を従えたリーが近づく。


「マテオ、流花。取り敢えず二人がオートマータを使用して逃げるといい」


 するとマテオが、いやいやとばかりに手のひらを振る。


「流花とリーで使ってくれ。ここしばらく休めたせいか、僕は身体が軽い」

「だからといって、完璧には程遠いはずだ。例の能力だって無理だろう」

「一回か二回くらいなら、保ってくれそうな気がする。だから僕に必要はない」


 じっと流花が目を向けてくる。

 負けるもんかと視線を受け止めたマテオが訊く。


「どうだ、僕が嘘を言っているように見えるか」

「流花には見えない」


 なら、と返しかけたマテオを流花が遮った。


「マテオは本気で無茶するじゃん。誰もが無理と思うことを、やろうと考えちゃうから、嘘にならなくて、流花、困っちゃう」


 流花ーおまえなぁ、とマテオは口にしては、又も途中で言葉を呑み込む。

 今回は自ら止めた。

 気配を察したからだ。

 しまった、とする殺気が周囲及び上方から漂ってくる。

 路地の先からだけでなく、建物の隙間に生まれた通路に、屋根まで鬼が姿を見せた。


 すっかり敵に囲まれてしまった。

 思わず後ずさるマテオたち三人は背中合わせの体勢となったところへだ。

 リーが小さな声で大きな決断を告げてくる。


「マテオ、瞬速が使えると言っていたね」

「ああ、一回か二回くらいは……。おい、リー、まさかっ」

「ここは自分とオートマータで引きつける。その間に流花を連れて逃げるんだ」


 敵は数えきれないほどだ。

 較べて、こちらはリーに付き従う機械人形は二体しかない。残りも呼んだから、と付け加えてきたが、たかだか十数機がやって来るだけだ。

 情勢が変えられるとは考えられない。

 自分の代わりに誰かがは、マテオにとって最も耐えられない事柄だった。


「なら僕が引き付け役をやる。リーこそ流花を連れて行け」

「なにバカなことを言い出すんだ。冷静になって考えてくれ。もし脱出策として自分のほうが優れているなら、そっちを選んでいる」

「どっちにしたってそんな大差はないだろ。だからあいつらの相手は僕がやる」

「キミは、どうして、そう……甘いんだ」


 マテオとリーの言い合いが激しくなっていく。

 あのさ……、とおずおず切り出す流花の思い詰めた様子に気づけない。


「それは我ら、鬼の花嫁だ。おとなしく引き渡せば危害を加える真似はしない」


 包囲の輪を縮めてくる一人から要求が投げられなければ、論戦は止まなかっただろう。


 目前に迫る事態を認識し直せば、マテオとリーに流花も喉に出掛かった声を腹の内へ戻す。

 鬼の群れを改めて確認すれば、決断の時、と三人は覚悟を決めた。


 空から何かが降ってきた。


 いきなりマテオたちの近くに、ドンっと落ちてくる。

 舗装路面を破片にし、もうもうと土煙りまで上がる。

 思わずマテオたちは顔を伏せ、鬼たちの足までも停めた。 


 地響きと共に土煙が収まれば、一つの人影が出現してくる。

 ぴっちり身体に貼り付くような黒いスポーツウェアを着用する髪の長い女性であった。


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