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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第3部 彼女がチート篇
142/173

第4章:離れないー004ー

 やっぱり来て良かった。


 予感が的中したわけだが、マテオに浸る暇はない。

 短剣を抜いては繰り出す。

 鬼の長い鉤爪と音を立てて交錯した。

 リーの後頭部へ落ちる寸前で食い止められた。


「なんで戻ってきたんだ、マテオ」


 危ないところを救ったにも関わらず批難されたマテオは苦笑しつつである。


「しょうがないだろ。心配になったんだから」

「忘れているのかい。キミとボクの関係性を」


 鬼の攻撃に、マテオと同じような剣で応戦しながら応えるリーだ。

 マテオも刃を振るいつつだ。


「それはお互い様だろ」

  

 ガキンっとひときわ高い金属の激突音が響いた。

 リーの剣戟に、相手の鬼が地面に跡をつけながら後ずさっていく。


 へぇ〜、とマテオが感嘆を挙げた。


「リー、おまえって、けっこうやるのな。後ろで指揮するタイプだと思っていたから、意外だよ」

「自分の身は自分で守れるくらいの訓練は積んできたさ。いちおう剣術と体術はそれなりのつもりでいる」

「じゃ、ちょっと耳貸せ」


 マテオに耳打ちされたリーに驚きが湧いていた。


「いいのかい、危険な方で」

「姉さんとのコンビでは、いつもこうしている。僕としては慣れた役目なんだよ」


 いくぞ、とマテオがさっそく号令をかけた。

 鬼へ、よろめく足で向かっていく。

 状態が悪いことは明白な白銀の髪をした相手に、鬼は余裕を閃かせる。無謀にも突っ込んできた相手へ腕を振り上げた。


 鬼の首元へ刃の一閃が走る。 

 白黒仮面を付けた少年が白銀の髪の脇を掠めるように出現しては、斬る。

 血が流れる首を押さえて鬼は倒れ伏していく。


「体調が悪いくせに、況してや先日まで敵だった相手のために囮を引き受けるなんて、何を考えているんだ、といったところだよ」


 肩をすくめるようなリーの口調に、マテオは平然と答えた。


「鬼に対しては協力していこうって、そっちが言い出したんだぜ」

「それを信用するのは、どうかなと思うわけなんだが」

「素直にそこは嬉しいとしていいような気がするけどな」


 そう言いながら指差してくるマテオに、リーはちょっと間を置いた後だ。


「……わかった、考えておく」


 笑みを浮かべそうになったマテオの表情が、ふと揺れた。

 何か聴こえてくる。

 まだ遠いがサイレンだ。

 段々近づいてくれば、パトカーがこっちへ向かってくるのが解る。


「やっと来たか」


 安堵の息を吐くリーに、「呼んだんだ」とマテオが確認をかける。


「一般の時間帯なら、いちおう警察も動くだろうと踏んだんだが、まさかこれほど時間がかかるとは思わなかった」

「あいつら捕まえる気はないからなー」


 マテオも来てから知った逢魔街(おうまがい)の実情である。


 権力行使をもって治安を務める者として逢魔街へ来た人物は、例外なく自壊する。自死であったり、発狂であったり。なぜか公的機関から派遣された者だけが『逢魔ヶ刻(おうまがとき)』で権限を振るおうとすれば、手痛い目に遭う。

 だがおかしな現象を見舞われる時間は、午後三時から七時と限られている。四時間以外は、法に照らせる。当然ながら街の治安を守る機関は働く、という建前が発動する。


 建前、としたのは、能力者同士の戦いに一般人は不介入としているからだ。

 能力としても、その種類や強弱は様々である、全てを把握するなど、この時点でも新たな種類の能力が生まれているかもしれなければ土台無理な話しだ。

 情勢を鑑みて能力所持者も採用する警察ではあるが、能力者同士の争いには関わらない。関わろうとしても、どうにもならないケースが圧倒的だ。


 公園の騒動が能力者同士の戦闘と、こっちへ向かう警察も予想は付いているはずだ。行ったところで、何が出来るわけでもないことは承知している。けれど一般の時間帯で通報を受ければ出向くしかない。どんな内容くらいは確認しなければならない。


 組織だった能力者集団として、表立った批難を受けては不都合だ。彼らもまた社会の営みの上に成り立つ存在である。

 鬼どもは戦いの手を緩め、引き上げの姿勢へ見せてきた。

 警官くらいは殺せる。

 ただし証言が可能となる状況で行う暴挙は、鬼たちの当地からの引き上げへ繋がりかねない。『異能力世界協会』を罠に嵌めて追い出したことと同じになってしまう。


 撤退が間違いなさそうであれば、リーも機械人形へ引き上げの命を下す。行こう、とマテオに声がけした。

 軽く白銀の髪を抱く頭が縦に落ちれば、戦いは終結だ。

 背を向けたマテオは歩きだしかけた。


 大丈夫か、とリーが慌てて腕を伸ばす。


「ワルい、緊張が解けたら、きたみたいだ」


 マテオは笑おうとしたが苦痛に阻まれる。

 身体は支えられたが、意識は落ちていった。

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