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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第3部 彼女がチート篇
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第4章:離れないー002ー

 顔の半分を覆う黒の布マスク姿は、もう見慣れた。

 マテオと同い歳だと言うリー・バーネットは、顔だけでなく半身近くが醜い傷痕で占められている。かつて能力者に家族を惨殺された折に刻まれた怨讐の芽である。能力者を根絶やしにする想いを枯らさない姿であった。


 マテオからすれば、能力者というだけで惨たらしい行為を行う組織の長だ。自分や姉のアイラの命を奪いかけた相手の意を継ぐ者である。未だ復讐心は胸に大きく宿っている。


 不倶戴天の敵同士とする間柄のマテオとリーであるはずだったが……。


「マテオ、無理させるが少し頑張ってくれるかい」


 リーが尋ねれば、流花(るか)の手を借りて上体を起こしたマテオが顔を向ける。


「わるぃ、こっちこそ。動けるには動ける。足手まといには違いないけどな」

「動ければ、充分だ。この時間なら、オートマータも動く」


 リーはそう言いなが、マテオへ自ら肩を貸す。

 なぜか寄り添う流花が唇を尖らすから、マテオは放っておくわけにもいかない。


「どうしたんだよ。なんか問題があるのか」

「だってぇー。リーさんに横取りされて流花、ぜんぜん役に立ってなーい」 


 おまえなぁ〜、とマテオは声が出た。

 そんな場合じゃ、と言いかけたら、先にリーが笑うのように提案した。


「流花、頼む。自分だけでは支えきれないから、片方は任せたい」


 そうこなくっちゃー、とご機嫌になった流花もまた開いている肩を抱える。

 マテオは左に流花で、右はリーに挟まれる格好となった。

 両脇を抱えられたことで却って歩き難くなった気がしないでもない。

 それでも歩きだす二人に素直に従う。

 あまり注文を付けてもな、とマテオは考える次第である。

 問題なく前へ進めてはいるのだ。

 三人で廊下を急ぐなか「それにしても」とリーが口火を切った。


「どうして、ここがバレたか。考えたくないが、やはり売られたと思うべきかもしれない」 


 誰が、という問いをマテオは敢えてしないようにした。

 ここを知る者と言えば、隠れていた当事者たちと薬を用意してくれた病院関係者しかいない。


「まぁ、いくらでも理由なら考えられる。あそこには人質として利用できる患者がたくさんいるからな」


 夕夜(ゆうや)陽乃(ひの)だけでなく、奈薙(だいち)道輝(どうき)まで、意識不明なままベッドへ横たわっている。

 いくら防犯に力を入れた病院であってもだ。

 あらゆる犯罪が不問に処される『逢魔ヶ刻(おうまがとき)』があり、粗暴な鬼が数多く押し寄せている。

 逢魔街(おうまがい)の強力な能力者集団とされる『神々の黄昏の会』の残りメンバーである新冶(しんや)に、莉音(りおん)緋人(ひいと)冷鵞(れいが)の四人は表に出てこない。陽乃が巨鬼となって西新宿一帯を壊滅させた事件以降、どこぞに姿を消したままだ。


 屈強で数まで頼める鬼どもに、抗せる者はいない現状である。

 けれども覇を、いつまでも唱えられるか。

 重症もいずれ回復するだろうし、策に嵌めて当該地から追い出した者たちも手をこまねいてはいない。

 事は急がねばならないことを熟知した鬼どもなれば、既成事実を作ろうと躍起だ。なりふり構わず来ている。


 だからこそマテオはもう少し踏ん張れれば、と考える。


 屋上へ抜ければ、白黒仮面を付けた機械人形(オートマータ)が待っていた。

 マテオと流花にリーを運ぶ三体だ。

 リー、と呼んでマテオは訊く。


「まだ十体くらいは残っていそうか」

「十五はある。足止めにするには、ずいぶん心許ない数になってしまったよ」


 自嘲気味のリーに、マテオの脳裏へ救出された晩が甦った。


◇    ◇    ◇    ◇    ◇


 夜の公園でマテオと流花へ迫る輪を縮める鬼どもを取り囲むように現れたリーが率いる白黒仮面の機械人形群だ。

 どちらも躊躇なく戦闘へ突入する。

 乱戦になったおかげで鬼どもの囲いから抜け出たマテオと流花は、一歩離れた場所で指揮するリーへ駆け寄った。


「なにを企んでるんだ」


 マテオの開口一番に、機械人形同様の白黒仮面を付けたリーが苦笑を滲ませ返す。


「ヒドいな、助けてくれた恩人へ向けるセリフじゃないぞ」

「そう言うけどな、こっちは何度もそっちに殺されかけているんだ」

「でも先だって、まずは鬼を共通の敵としようと話ししたじゃないか」

「だけど根本とする考えは、能力者の抹殺だろ。リーといったか、オマエの組織壊滅が第一とする僕を消すのを優先させてもおかしくない」


 しょうがないな、といった顔になるリーだ。本当は口止めされていたんだが、と前置きしてからである。


「キミの姉に、アイラに頼まれている。これまで回収したオートマータを渡す条件として、マテオの力になって欲しいってね」

「それだけが理由じゃないだろう」


 ただモノを返すだけで協力を得られるなんて思うほど甘くない。

 マテオとアイラを『白銀の双子(シルベリーツインズ)』と評判されるに見合う実績を積んできている。浅慮では生き抜いてこられない世界で生きてきたのだ。


 リーは軽く肩をすくめ見せてからだ。


「アイラは、もしマテオの力になり、生存の助けになる働きを見せてくれたなら、我らの組織に下ってもいいそうだ」


 あまりのことに、マテオは声を失う。

 そんな様子を見取ってか、リーが説明を紡ぐ。


「あくまでアイラ個人に限る話しであり、ウォーカー家は関係ないと念を押されたけどね」


 つまりマテオがここでリーに助けられたら、話しが進んでしまう。

 姉を、アイラを失ってしまう。


 ダメだ、と叫びかけた時に、ふと横にいる流花の存在へ思い至る。

 握った手は、まだそのままだ。

 マテオは唇を噛み締める。

 ここで助力を断ることは、今繋いでいる手を離すに等しい。


 簡単な話しではなかった。

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