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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第3部 彼女がチート篇

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第3章:医と看と金とーエピソード・瑚華ー006

 どチクショー! と叫びそうになる。

 聡美(さとみ)はどうして自分の前へ現れるのか、腹が立ってしょうがない。

 ただ立場を入れ換えれば、なぜ見つけられたのか不思議であろう。


「て、照井(てるい)殿。いかがなされたのですか」


 おどおどする道輝(どうき)に、こっちが聞きたいわよ! と怒鳴り返しそうになるのをぐっと堪える聡美である。


「くそ坊主が居なそうな場所を狙って探しに来たら、このざまよぉー」


 思わずといった態で道輝が笑ってくる。

 運が悪かったですな、と声がすれば、聡美は今度こそ文句を口にする。


「なに勝手に出ていこうとしてんのよ。おかげで、探したくない坊主のために時間を喰われる有り様じゃない。忙しいのにさ」

「それは誠に相すみませぬ」


 真面目くさった顔つきで、ぺこり頭を下げる道輝だ。

 謝ってきているのに、なぜだろう。聡美は無性に苛立つ。気持ちが抑えられない。


「ふざけないでよっ。頼んでもいないのに、瑚華(こなは)先生を助けてさ。しかも使命より何より先生の命が大事だなんて、気持ちを鷲づかみじゃない」

「それは有り得ませぬな。あれほどの女性が、こんな私に魅力を感じるはずがありませぬ。日夜、人を救う素晴らしき瑚華殿ですぞ、人殺ししかない能力者など関わってはなりませぬ」


 道輝の真摯さが充分に伝わってきたからこそ、聡美は余計に腹が立つ。


「なにカッコつけてんのよ。人を殺すなんて何とも思わない能力者なんて、ゴロゴロそこら中にいるじゃない。別に坊主だからって、そこは関係ないんじゃないのっ」

「私の能力は調整がつくものなのです。殺さずに済むはずなのに……殺して、殺して……そう家族を皆殺しにしてからです。感情に支配された時、命を奪うチカラを止められませぬ」

「知らないわよ、クソ坊主の事情なんて!」


 ツインテールが空気を引き裂くように強く頭を振った聡美は叫び続ける。


「あたし、あたしはね、本当に瑚華先生が好きなの、愛しているの。なのになのに、なんでよ。こんなしょぼくれたおっさんが、先生の気を惹けるわけ? わかんない、わかんないわよ!」


 人気のない橋の袂で、告白が夜空へ吸い込まれていく。

 しばしの後に、道輝がなぜか嬉しそうに顔を上げた。


「今さらですが、聡美殿は口が悪いですが、とても素直な良い方ですな。瑚華殿のことを思えば、これほど傍にあって心強い方はございませぬ」

「だからこの街から出ていくって言うの? あたしを理由にしないでよ」


 すみませぬ、と道輝が頭を深く下げてくる。

 聡美は、むかっ腹が立ってしょうがない。

 変に素直だから、放っておけない。本来なら出て行ってもらったほうがいいのに、こうして居場所を突き止めてしまう、引き止めてしまう。


「坊主のくせに自分を優先するの、やめてよ。あんたの職業は他人のために生きるんじゃないの。瑚華先生を第一にして踏ん張りなさいよ」

「しかし私がそばに居れば、瑚華殿だけではない、聡美殿を巻き込んでしまうかもしれませぬ。情けない限りですが、発現は殺ししか出来ない……」


 不意に聡美と道輝の会話に割り込んできた。


「じゃあ、能力が調整できるよー、しっかり躾てやるわ」


 はっとする二人にとって、聞き覚えどころか聞き間違えさえするわけがない相手の声だった。


 瑚華先生、と振り返る聡美の肩へ手が置かれる。

 にっこり微笑む顔は、男女問わず虜にしそうな妖艶ぶりだ。

 瑚華殿……、と口にする道輝へ女医は向き合う。


「なんか、ずいぶん弱気になっちゃったのね。昔は『鏖殺(おうさつ)のゴールドエルジー』なんて呼ばれるくらい、容赦なかったのに」

「ど、どうして、その呼び名を。私が現在の名になる以前に、しかも地元界隈でしか知る人はいなかったはず……」

「確かに殺戮しかない能力だったかもしれないけれど、それでも助けられた人はいるのよ」


 一旦、言葉を置いた瑚華は大きく息を吸って吐いてからだ。


「その一人が私なのよ、(れん)


 かつての名前で呼ばれた僧侶姿の男は固い声で訊く。


「まさか、瑚華殿はあの時の……」

「そう、やっと思い出してくれた」


 瑚華がまた、にっこり笑う。

 ただし先の聡美に向けたものと根本的に違う。

 まるで少女のような、あどけない顔だった。

 道輝からすれば疑いようもない。バツ悪く頭をかくばかりである。


「申し訳ありませぬ、ぜんぜん気づけませんでした」

「まっ、しょうがないわね。私、あの頃とはぜんぜん変わっちゃったし。途中から、こいつ、いつ気づくか、お楽しみにしていたくらいだしね」

「いやはや、なんと申しましょうか。こちらから熱心に通っておきながら、間抜けもいいところですな」

「ホント、変わらないのね。よくも俺を騙したなーって、怒ってもおかしくないとこよ、ここ」


 愉しそうな瑚華に、平身低頭といった感じの道輝である。


 すっかり置いてきぼりを食らっただけでなく部外者にまで押しやられた聡美がおとなしく引っ込んでいられるはずもない。

 やだー瑚華せんせぇ〜、と抱きついては、道輝へ今まで以上に敵愾心剥き出しで睨みつける。


「やっぱり出て行け。ううん、死ね、死んでしまえ、このクソ坊主っ」


 本気で悪態を吐いたが、瑚華ばかりでなく道輝まで可笑そうだ。笑い声まで立ててくる。

 だから聡美は、さらに酷い罵詈雑言を浴びせようとした時だ。


「お二方は、この道輝の後ろへ」


 一気に緊迫へ持っていく指示が下った。

 瑚華に抱きつくままの聡美の目前に、道輝の背中が現れる。


 風が吹き付けてきた。


 上空からだ。

 三人が見上げた夜空から、ゆっくり降りてくる。

 夜闇よりも濃い黒の人影だ。

 悪い予感しか与えない雰囲気をまとって地面へ音も立てず足を着ける。

 道輝に瑚華、そして聡美までが良く知る人物なのに、初めて対峙した敵のごとき空気が流れていく。

 

 夕夜(ゆうや)殿、と道輝が相手の名を呼んだ。

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