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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第3部 彼女がチート篇
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第3章:医と看と金とーエピソード・瑚華ー005

 心臓が止まりそうだ。

 ダメっ、と聡美(さとみ)は叫ぶ。


 いい度胸じゃないと思っていた鬼の襲撃は想像以上であった。

 逢魔街(おうまがい)で最大とされる病院に、逢魔ヶ刻(おうまがとき)にやってくる。

 患者及び関係者でなければ、生きて出られない。

 実は最も怖しい場所と地域住民の一致する意見である。

 鬼一族の嫡流に当たる次女の奪還を焦るあまり、のこのこ乗り込んできたバカな奴らとなるはずだった。


 まさかだった。

 瑚華(こなは)特性の痛覚刺激剤が効かない。

 マテオの活躍によって、一匹は傷を負わせて撃退の態を為す。かすり傷は致命傷と同等の苦悶を与えていた。

 例え傷を負わなくても、物に触れただけで鈍器で殴られたような衝撃がくるはずだ。

 残る二匹の鬼は無傷とはいえ、物など持てる状態ではないと、信じて疑わなかった。

 鬼どもは平気で椅子をつかむだけではない。引っぺ返しては投げつけてくる。

 瑚華の守護に付いた大柄な病院スタッフたちを吹っ飛ばしていく。


 丸腰にも等しくなった瑚華へ、鉤爪を立てた腕が伸ばされた。無傷ではすまさせない意志のこもった攻撃が迫る。

 後方で控えていた聡美は、我が身に変えてでも守りたい。

 瑚華の代わりとなるつもりで駆けだす。

 けれど……間に合うわけがない。


 不意に、煌めきが過ぎる。

 聡美の顔の傍を通り抜けていく。

 何が起こったかは、すぐに了解した。


「瑚華殿、大丈夫ですかな」


 思わず足を止めた聡美の横を、事の張本人が息急き切って走っていく。

 墨色の裳付姿をした能力者を迎える瑚華の、一瞬とはいえ浮かべた表情が目に焼き付いた。


「そんな心配しなくても、大丈夫に決まってるじゃない」


 あっさり普段の調子へ戻った瑚華に、道輝(どうき)は大きく安堵の息を吐く。


「そうは仰いますが、この道輝、寿命が千年は縮みましたぞ」

「でも、良かったの、鬼と事を構えないようにする方針じゃなかったっけ?」


 ぽりぽり、坊主頭をかいて道輝が観念したように言う。


「会のメンバーには申し訳ありませんが、感情には勝てませぬ」


 そっ、と瑚華の素気なくも真情がこもる一言だ。


「瑚華先生、良かったー、無事でぇ〜」


 半泣きで相手に抱きつく聡美は、邪魔を意識しての行動だった。

 意図は奏し、「では」と道輝は頭を軽く下げて背を向ける。

 ちょっと、と瑚華の声が届かないかのように、そそくさとこの場を去って行く。聡美がぎゅっと抱きついているせいか、追うまでに至らない。


 瑚華たちは後始末へ入っていく。

 物凄い勢いでソファや椅子を投げつけられて気絶したスタッフの意識を返すところから始まり、巻き込まれた患者の介抱する。

 幸いにも、皆が軽傷で済んだ。

 ただ注釈が必要とする例もある。

 マテオは確かに軽傷だったが、瑚華特性の痛覚刺激剤をもろに浴びていた。

 うーうー唸るだけが精一杯だ。苦しげに床でのたうち回っている。

 しかも手当は後回しときた。


 瑚華は金色の像と化した三匹の鬼へ視線を向け指示を出す。


「こいつら、回収して。病院を荒らしてくれた報いはたっぷり受けてもらうわ。今後のこともあるしね、じっくり生体を調べてやろうじゃないの」


 甘露(あまつゆ)先生、と金色の鬼へ膝をつく病院スタッフが呼んでくる。

 ん? と反応した瑚華へ報告した。


「彼ら、鬼たちと申しましょうか。全員が完全に息絶えています」

 

 翌日、道輝が顔を見せて以来、初めて病院を訪ねて来なかった。

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