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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第3部 彼女がチート篇
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第3章:医と看と金とーエピソード・瑚華ー004

 ちっくしょう、とは思う。

 だけど優先すべきは瑚華(こなは)の気持ちだった。


「おい、クソ坊主。ちょっと待ちなさいよ」


 以前からやろうとした悪態を、とうとう面と向かってした聡美(さとみ)だ。

 怒らないまでも癇に障った様子を見せておかしくはない。

 ところが肝心の相手は不快どころか、しゃちほこ張ってくる。


「はっ。なんでしょうか、照井(てるい)殿」


 誰もいない病院の廊下を、素早くやって来る。

 小娘と侮らず、慇懃な道輝(どうき)だった。

 思わず抱きそうになった好感を振り払うように聡美は軽く頭を振った。


「あんた、瑚華先生にナニ言ったのよ!」

「え、え、えっ。私、何か気に障るようなことを言いましたかな」


 本気でおどおどしだす道輝である。

 おっさんが目をぱちくりさせてんじゃないわよ、とは口に出さなかった聡美であるが口撃は緩めない。


「訊いてんのは、こっちなんだけど。なによ、言った自覚ないの。最悪じゃない」

「確かに照井殿の言う通り、最悪ですな。瑚華殿の気を煩わすなど以ての外でありますぞ」

「それを、あんたが、クソ坊主がやったって言ってんのよ」


 ええ、なんと! と心底から驚く道輝である。

 首を絞める手が伸びかけた聡美は懸命に攻撃手段を声へ置き換える。


「あんた、バカなの。クソ坊主のせ・い・で! 瑚華先生が元気なくしたって言ってるの。何か心当たりはないか、考えなさいよっ」


 頭を捻る顔となった道輝が胸の前で腕を組んだ。うーうー、唸っている。

 おっさんが可愛くしてんじゃないわよ、とまたも口にしない感想を呟く聡美だ。

 何かが閃いたように道輝が顔を上げた。

 おっ、と聡美が期待を寄せるなか、ポンと手を叩いて言う。


「何がなんだか解りませぬ」


 てめぇ、と今度こそ胸ぐらをつかんで力の限り締め上げる聡美だ。

 すみませぬ〜、と泣きが入ったから離してやった。

 なかなか怪力ですな、と道輝は述べながら、ごほごほ咳をする。ふぅーと息を吐けば、いかにも助かったとばかりだ。

 大袈裟な態度と捉えた聡美は癪に障るままにである。


「あんた、どんなのか知らないけど、強力な能力者なんでしょ。これくらいで苦しくなんてならないんじゃないの」

「いえいえ、照井殿。所詮は、人間。能力の多少は関係なく、傷ついて死ぬものです」

「だったら、何か仕出かしたことを思い出しなさいよ」

「そう言われましても、この道輝ごときが、瑚華殿を惑わす真似など出来るとは考えられませぬ。崇高なあの方に、我ら誰一人太刀打ちなど敵いませぬ」

「そう言うけど、冴闇(さえやみ)とか言ったっけ? あいつ、ずいぶん瑚華先生の前でも図々しいじゃない」


 確かに仰る通りです、と道輝が深い感銘を示してくる。

 このヤロー、となる聡美であった。ホントに調子を狂わさられる。


「しかし、まずいですな。今現在も激務に勤しむ瑚華殿に、少しでも瑕疵を抱えさせておくなど出来ませぬ。あの方はこの街に、ひいては世界にとって必要な方なのですからな。もはや個人の想いなど……」

「おい、クソ坊主。あんた、瑚華先生の前で今のようなことをぶってないわよね」


 聡美の詰問に、道輝は汗をかきそうなほど焦っている。もごもごと口ごもっていたりもする。

 呆れ返る聡美だ。まったくこのおっさん、情けないにも程がある。


「人間を救いたいだの、命を守りたいだの、そんなお花畑のお題目が瑚華先生を一番に苦しめんのよ。結局は自分のためにやっているとする方なの。だからこそ敬愛しちゃうんだけどね」

「照井殿は、さすがです。瑚華殿が必要とするだけあって、素晴らしい方ですな」


 文句をぶつけた相手が感心いっぱいで返してくる。

 しかも一番嬉しいことを言ってくる。 

 不意に涙が溢れそうになるのを自覚すれば、聡美は慌てて顔をそむけた。

 ぷいっと不機嫌そうにして照れを隠した。


「了解致しました。つい『神々の黄昏の会』に名を連ね、街の均衡を保つ役目に囚われるあまり大義を持ち出す真似をしないよう、肝に銘じますぞ。だが考え足らずの拙僧なれば、また仕出かすかもしれませぬ。その節はどうか照井殿、今回のように忠告をお願いしますぞ」


 道輝が神妙に述べてくれば、聡美だって悪い気はしない。

 いやむしろ気分がすっきりした感すらある。


「そ、そう、解ればいいのよ。じゃ、またの時はお茶くらい飲める場所にしてくれる」


 言ってから聡美自身が驚いてしまう。これでは自分のほうが誘っているみたいではないか。もしかして瑚華同様に自分も……。

 ぶるぶる、聡美は道輝から心配されるほど激しく頭を振り続けた。


 遠くない後日、見誤っていた事実に気付かされ、現在の比ではない驚愕をする羽目が待ち構えていようなど、今の聡美には知る由もなかった

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