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彼女はチート!ー白銀の逢魔街綺譚ー  作者: ふみんのゆめ
第3部 彼女がチート篇
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第3章:医と看と金とーエピソード・瑚華ー003

 爛れた桃のような色彩と空気が室内に充満していた。

 ひしめく男女は裸かそれに類する格好である。性の欲求に従った背徳行為がそこら中で行われていた。

 その片隅で瑚華(こなは)聡美(さとみ)は絡み合っている。

 吐息と嬌声を織り混ぜ、激しい貪り合いをしているはずだった。


「瑚華せんせぇ〜、どうしたんですぅ?」


 真っ裸で瑚華の胸へもたれかかる聡美が訊く声は甘えているようで、どこか尖っている。


「あら、別に。なんにもないわよ」


 瑚華が素通りするから、聡美はついだった。


「またあの坊主のことを考えているんでしょ」


 口にしてから後悔した。ここで出すタイミングではなかった。

 他の者ならば見逃しても、聡美には解る。

 瑚華がやや動揺していることを。「やーね、聡美ちゃん」と返す声に、普段と変わらないよう気遣う響きを感じ取っていた。

 賢い選択としては、これ以上この話題は避けるべきである。

 けれど聡美は湧き上がる感情を制御し得ない。


「やっぱり瑚華先生、あんなしょうもない坊主のことを考えているんじゃないですか」


 こめかみを掻く瑚華は苦笑いしてくる。返事はない。


 聡美は少なからずショックだ。

 どんな時でもハキハキ答え、曖昧など許さない切れ者のスーパードクター。どんな苦難にも動じず、男尊主義を押し出してくるお偉いさんにも堂々立ち向かっていく。まさしく誰にも屈しない憧れの強き人だ。


 なのに……あの坊主が、箔無道輝(はくむ どうき)なる者が『神々の黄昏の会』へ勧誘のため通ってくるようになってから調子が狂い出している。

 道輝が僧侶の格好したしょぼくれたおっさんとしか見えない聡美だから、尚更だ。瑚華が動かす心の有様を全く読めないことも不安に滑車をかけてくる。


「せんせぇ〜、おかしいですぅ。らしくないですよぉ〜」

「そうかもね、でも……ね」

「そんな〜、せめて今は聡美だけを見てくださいよぉ〜」


 泣きそうな声が功を成したか。瑚華が慌てて言う。


「ごめん、ちょっと言葉足らずだったわ。あいつが毎日のように来るようになった理由について、考えちゃうのよね」

「あれですか。東を統括する能力者一族の孫娘を、坊主が所属する変な名前の会の一人が保護したという」


 変な名前か、と復唱した瑚華が笑いだす。

 思わずウケて嬉しい聡美は口が滑らかになった。


「それにしても凄いですよね〜。鬼の能力を濃く残すために一族の娘は名前も付けず、ただ子孫の残すためだけの存在とするなんて。実の祖父も含め一族みんなでマワそうって言うんですもんね〜」

「まさに鬼畜生の所業だわ」


 一段と凄む瑚華に、聡美は己の失敗を自覚した。


「すみません、先生。あたし……」

「あら、やだ。こっちこそ、ついムキになっちゃった。でももう私はもう通常よ。なにせスーパードクターだからね」


 笑顔を見せては、聡美を抱き寄せる。ぎゅっと胸にかき抱くまま動かない。

 やっぱりいつもの瑚華先生ではない。


 あいつ、と瑚華が呟いている。

 聡美からすれば誰を指すか、問うまでもない。


「あいつ、私が実の父親からされていたことを知っていて、清らかだなんて言ってくるのかしらね」


 瑚華の胸のなかにありながら、聡美はため息を吐きたくて仕方がない。

 尊敬と愛しさを抱く女性の頭の中は自分と抱き合っていても、冴えない親父の道輝が占めているようだ。

 死ね、クソ坊主! と本気でど突いてやりたい。


 けれども次に会う機会を臨むに当たり、怒りは別の要因から発生していた。

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